ハーメルンAの証言
ドンっという衝撃を受けて重心が崩れ尻餅をつく。両の手に抱えていた紙袋がおちて中の商品が地面に転がった。痛む尻をさすりながら起き上がれば1人の銀髪の少年が佇んでいた。私がぶつかったのはこの少年なのだろうか、私が衝撃をうけて転んだにも関わらず彼は微動だにせずこちらを見ている。
「ごめんなさいね、大丈夫?」
「ん?あぁ平気、オレの方こそ悪かったね」
ふわりとした感触の頭を撫でながら謝罪を口にすれば気にしない様子で彼もそれを口にした。それどころか散らばった商品を私と一緒にかき集めてくれる。
「お姉さんお菓子好きなの?」
最後の1個、転がっていた子供向けチョコ菓子を私に渡しながらそう問いかけた。私はそれを首で否定して「子供達にあげるの」と告げる。ああ、そうだ。子供達が待っているのだから私は早く帰らねばならない。
はやく立ち去ろうとする私を少年の言葉が呼び止める。なにかを考えるように寄せられた皺に一点目がとまる。
「子供がいるっていう年には見えないけど」
彼が口にした言葉に合点がいった。何をそんなに悩んでいるのかと思えばそんなことか。
首にかかる糸を手繰り寄せて十字架をつまみ上げると彼の目の前に差し出した。
「シスターさん...?」
「ええ、そうよ。そこで孤児の子達を引き取っているの」
「なるほどね」
もう私に興味をなくしたのか、じゃあと言って背をむけた彼を今度は私が呼び止めた。私に声をかけられたことに驚いたのか見開かれた蒼眼が私の姿を映している。
紙袋をがさごそとあさりスナック菓子を取り出して彼に差し伸べる。
「お礼とお詫び。ぶつかっちゃったし拾ってくれたから」
「ふーん、それならこっち貰っていい?」
少年の手が紙袋へと伸びる。1番上に乗っていたロボット型のチョコ菓子をひろいあげて私の目の前に突き出した。
私が反応を示さなかったせいか、「ダメならそっちでいいけど」とそっぽを向いて言うのだ。好みといい言動といい年相応の子供っぽさをみせる彼が可愛いくなってしまい彼の頭を再び撫でてからチョコ菓子を差し出した。
「ありがとう」
「ねぇ君よかったら今度教会へ遊びにきてくれないかしら」
「気が向いたらなー」
お菓子を片手に走り去る彼を見て振りかけていた腕をおろす。あぁ、惜しい子を逃してしまったのかもしれない。あれだけの容姿ならば...
そう考えて頭を横に振る。だめだ、今は教会で待つ子供達が先だ。今日だって数件取引があった、そちらを優先せねばならない。
開いていた目を伏せて教会へ帰路を歩く。太陽は既に西へと傾いていた。
━━━━──-
ゴンとこの街へと足を踏み入れた時、大人達はここから立ち去った方がいいと言った。
どうやらこの街では多くの子供が消えるらしい。まるまる地区一つの子供が消えたのだの明らかに裏の商売の臭いがした。
なるべくなら関わらない方がいいだろう、だがゴンの父親であるジンの手がかりがここにある異常こいつはあっさりとは引き下がらないだろう。
「なぁゴン」
「嫌だ、ここにジンの手がりがあるんだ」
ほら無理だ。長いため息を吐き出し「分かったよ」と返事をして肩をおとす。
本来ならば1人で歩かせるべきじゃないのだがバラバラに聞き込みをした方がはるかに効率がいい。「じゃあ、1時間後にこの場所に集合な」と声をかけて反対方向へと足を進めた。
しばらく走っていると小さな丘の上に教会が見えた。白い建物の横にはいくつもの墓が見えた。トントンとノックをして教会の扉を開けるも中には人一人として存在せず女神像がこちらを見下ろしているだけだった。
「臭いなココ...」
僅かに香る薬莢と血の匂い。どちらも嗅ぎなれた香りだった。うまいこと花の匂いで上書きしているつもりだろうが嗅ぎなれたやつには隠せないだろう。恐らく失踪事件もここが発端なのだろう。
どちらにせよ一旦離れた方が良さそうだ。
静かに音を立てないようにして扉をしめると来た道とは反対方向に駆け出した。
やばい、時間がギリギリだ。1時間とゴンと約束してたっていうのに変な女にぶつかったせいでかなりの時間を食ってしまった。
彼女は自ら教会のシスターであると言った。オレが教会について何か気づいているとは知らずべらべらと喋ったのだ。それはオレの中にある答えを確信へと導く。
「(確実にあいつが犯人だ...)」
なんの罪も知らぬ顔をして歩く彼女、だけど1番それに関わる彼女。離れ際のあの態度、きっとこの街の子供と同じように連れ去ろうとしたものだろう。夕焼けが傾いて夜になる、窓にはうっすらとした月明かりが揺れている。手がりもないことだし明日には此処を離れられるだろう。
微睡みの中意識を手放せばあのシスターが笑っている気がした。
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