バケツプリン

「バケツプリン」
「は?」
「バケツプリンが食べたい」

クロロ=ルシルフルは読んでいた本をパタンと閉じ私の方をむいてただ一言そう呟いた。これはつまりあれか私が買ってくるとかそういう流れか...なるほど。
バケツプリンってまず売ってるのかどうか、せめてここの店のを買ってこいならどうにかなるんだけど、分からないからとりあえず一店舗ずつまわって見るしかない。「いってきます」と呟いてコートを羽織ると家から出た。



▽△▽



まずは私の家の周辺の洋菓子店、そしてそれから足を伸ばして下町。もっと歩いて隣町までいったのだが見事にない。あの野郎なんて無茶振りをするんだ。お店の人に頼んでみるも、卵の在庫が足りないとかで今日中に作るのは難しいらしい。
もうこうなったら仕方ない、私が作るしかない。思い立ったが吉日、食材店へと走って卵と牛乳、その他必要な材料をカゴに突っ込んで会計を済ませるとダッシュで家に帰った。
クロロは勢いよく扉をあけて帰ってきた私に驚いたのか目を見開いてこちらをみた。

「遅かったな」
「いや、もうどこにも売ってなくて」

材料の入った袋を掲げてみせると「なるほど」と小さく呟いたあと口角を少しあげて「作れるのか」なんて小馬鹿にしたように言った。まったくなめられてる、こう見えても甘党の端くれプリンぐらい容易いものだ。見てろよーなんて袖をまくりあげて早速作りはじめる。
えーっとまずはカラメルソースを作って、卵と砂糖を混ぜて温めた牛乳を...
カシャカシャと混ぜていればクロロがキッチンへやってきた。大方持ってきていた本を読み終えて退屈になったのだろう。気にせず作業を続けていると驚いたように彼が声を発した。

「バケツじゃないのか」
「バケツで作るの嫌じゃない?だからボウルで作ろうかと」

ボウルにカラメルを流し入れてプリン生地をその上に、お湯を貼ったオーブンにいれてスイッチを押す。出来上がるまで時間がかかるだろうから後片付けをして。使った器具を洗おうと手を伸ばすと私の手より先にクロロの手がそれを取る。「ありがとう」なんていえば別にいいなんてちょっと素っ気ない声が聞こえてくる。彼の手によって洗われていく食器をうけとり布巾で拭いて棚に戻す。洗い終わった彼にもう一度ありがとう、と言ってオーブンに目を移した。

残り時間が3...2...1...頭の中でカウントダウンをしながら鳴ったタイマーをとめオーブンの扉を開く。むわっとした湯気が飛び出しそれに乗ってプリンのいい香りがしてきた。すも入ってないし、わりとこれは上出来な気がする。
キッチンのちっちゃい机の上にプリンをおき、いつのまにかソファーに戻っているクロロに向けて声をかける。

「冷めるまで時間かかるけど、夕飯でも食べてく?」
「...いいのか?」
「どうせ時間かかっちゃうし」
「じゃあ、いただこう」

するとまたソファーから立ち上がり今度は部屋から出ていこうとした。どこ行くのーなんて追いかければ新しい本を取りにいくらしい。私も夕飯分の買い出ししてないから買いに行かねばと黒い背中を追いかけた。



▽△▽



「いやぁ〜食べた食べた」

やっぱり誰かと食べるごはんは美味しいものだよね、だいたい一人で食べることが多いからこういう日はいつもより食事が楽しく感じられる。
目の前に座るクロロが目を輝かせてそわそわとしているので、あまり焦らすのも可哀想だしと冷蔵庫からプリンを取り出した。大きめの皿をボウルの上に被せ逆さまにしてぶんぶん抑えながら振ってるとたぷんっといい音がしてそっとボウルを持ち上げる。ボウルがはがれた瞬間にプリンの表面を伝うように流れおちていくカラメル。クロロにスプーンを渡し2度目の手を合わせた。
このスプーンでほじって食べる感覚がたまらない。この時間だしものもあれでカロリーには申し訳ないけど、この背徳感が堪らない。彼に視線を移すと吸い込むようにプリンを食べてる姿が目に映る。

ホントに好きなんだなプリン...こんなに食べると飽きると思うんだけど。
彼の手は中間くらいまで食べ進められたところでぴたりと動きがとまった。飽きたか、だよね私もそろそろきつい。

「カラメルが...」

この男に限って飽きるとかそういう言葉はなかったようだ。プリンそのままで食べるのは嫌なのか手が止まっている。それどころかこっちを向いて目を見開きながらカラメルと呟かれる始末だ。正直怖いからやめて欲しい。息を吐き出し立ち上がると既に用意していた瓶を取り出し机の上に置いた。

「こんなこともあろうかとこれを用意しました」

置かれた瓶を持ち上げ不思議そうに見つめるクロロに「いいからかけて食べてみて」と言う。彼が不思議そうにしたのもそのはず、瓶にはカラメルの色は見えずとろっとした透明な液体が入っている。中身はレモンのシロップだ。カラメルもわりと執拗い方の味なのであっさりめに、味の変化があった方がいいだろうと作ったものだ。
クロロは恐る恐ると言った様子で瓶の蓋をあけるとプリンに少しかけてひとくち口に放り混んだ。またひとくち、ひとくちとペースをあげて食べていく。私が食べる間もなく全て平らげてしまった。

「美味しかった、あれはレモンか」
「でしょ!わりと自信作」
「あぁ、満足だ」

食べ終わったあと食器を片付けてくれたクロロに礼をいい玄関まで見おくる。
マフラーに顔を埋めて帰る彼が思い出したようにこちらを振り返り来週の今日空けておけと言われる。
了解を指し示すように手で丸をつくれば、ふっと笑われ手を振られた。その手に振り返えし明日に備えるためひとりきりの部屋に戻った。