別れ※悲恋
職業:不明。ただしきっと普通の仕事ではない。
住所:港区のとあるタワーマンション。
女の扱いはとてつもなく上手い。
ただし性格はクズ。
私の知っている尾形はこんなものだ。
つまり私は彼の何も知らない。
ただ、私は彼の顔がものすごく好きだったし、女の扱いも上手かったのも最高だったから、ソウイウ友達だと思っていれば気にならなかった。
「今日迎えに行く。」
尾形からの連絡はいつも急だ。
しかも短文。
そこに愛とか恋とかの情が挟んでいないのは分かっているが、もう少しどうにかならないのか。
短いため息を吐きつつ、私はいつも通り待ち合わせの場所を指定して、準備に取り掛かるのだ。
尾形は性格はクソだが、喋らなければ個性派イケメンで、当然周りの女が黙ってはいない。
待ち合わせ場所へと向かうとすでに尾形はその場にいた。今回も周りの女がチラチラと尾形を見てコソコソ話しているのが分かる。
そんな男の元へ行くのだ。その隣に相応しいと思われるようにダイエットもスキンケアもボディケアも頑張った。ネイルだって髪だって常に気が抜けない。
「待った?」
そんな彼女たちの視線なんて何でもないように尾形に近付くと、当たり前のように尾形は腰に腕を回してきた。
「いや待ってない。」
薄く笑っていたので今日は機嫌が良いらしい。
それでもやはり普通の恋人たちがするようなデートなんてものは一切なく、いつも通り連れて行かれたのは尾形の家だった。
今まで一度だってデートなんてしたことはない。
この男がそんなことするはずがない。
せっかく可愛い格好してきたというのにすぐに部屋に連れていかれ、一瞬で脱がされてベッドに投げ落とされ、気が付けば朝を迎えるのだ。
唯一の救いといえば行為の途中に可愛いと言ってくれることだろう。
快楽に身を委ねながら、あの低く甘い声で「お前は本当に可愛いな」なんて言われるのは悪くない。
一回も愛を囁いてくれたことはないが、それでも私は満足だった。
……あの時の尾形を見なければ。
****
あの日はお気に入りブランドの新作バッグを買いに行った帰りだった。
店舗スタッフが丁寧に見送ってくれた後、気分よく歩いていた時だった。
ふと前を見ると向こうから尾形がやってくるのが見えた。せっかくだから声をかけようかと、軽く手を上げようとした時だった。
私の知らない笑顔で隣の女に話しかけていた。
すぐさま状況を把握した私はもと来た道を引き返すことも出来たが、敢えてそのまま何でもないかのように歩いた。
一瞬視線が交わった。どうやら尾形も私の姿に気が付いたようだったが、特に何か起こるわけでもなく、ただの通行人として私の横を二人で通り過ぎていった。
(本命の彼女、いるんじゃない。)
私とは遊びだとは分かっていたが、それでも誘われた時は会っていた。
しかし本命の彼女がいるのだとしたら話は別だ。
この時から私のすべきことは決まったのだ。
****
尾形に身体を委ねると当然のように朝まで部屋にいることになる。
この日もやはり抱き潰されたと言ってもいいのだろう。カーテンから漏れた光で目が覚めるとヘッドボードの時計が五時を指していた。
モゾモゾと起き上がると、隣で尾形がスヤスヤと寝ていた。
いつも意地悪そうに上がっている口元は、寝ている今はうっすら開いている。特徴的な眉毛もほんの少し下がっているからいつもより幼い印象になる。
私が起き上がっているというのに全く起きる気配はない。
信頼してもらっているということだろうか。
もう今となってはどうでも良い。
床に落ちている衣服を拾っては身につけ、最後の仕上げにと尾形から唯一もらったネックレスを首から外し、ベッドサイドへ置いた。
「さようなら、尾形。」
小さな声で別れを告げ、そっとドアを閉める。
本当にさようならだなぁと呟いたのは、誰もいない駅前の広場だった。
尾形とのやりとりを全部消して、そしてブロックした。
「好きだったなぁ…」
その言葉は誰にも届かず消えていった。
住所:港区のとあるタワーマンション。
女の扱いはとてつもなく上手い。
ただし性格はクズ。
私の知っている尾形はこんなものだ。
つまり私は彼の何も知らない。
ただ、私は彼の顔がものすごく好きだったし、女の扱いも上手かったのも最高だったから、ソウイウ友達だと思っていれば気にならなかった。
「今日迎えに行く。」
尾形からの連絡はいつも急だ。
しかも短文。
そこに愛とか恋とかの情が挟んでいないのは分かっているが、もう少しどうにかならないのか。
短いため息を吐きつつ、私はいつも通り待ち合わせの場所を指定して、準備に取り掛かるのだ。
尾形は性格はクソだが、喋らなければ個性派イケメンで、当然周りの女が黙ってはいない。
待ち合わせ場所へと向かうとすでに尾形はその場にいた。今回も周りの女がチラチラと尾形を見てコソコソ話しているのが分かる。
そんな男の元へ行くのだ。その隣に相応しいと思われるようにダイエットもスキンケアもボディケアも頑張った。ネイルだって髪だって常に気が抜けない。
「待った?」
そんな彼女たちの視線なんて何でもないように尾形に近付くと、当たり前のように尾形は腰に腕を回してきた。
「いや待ってない。」
薄く笑っていたので今日は機嫌が良いらしい。
それでもやはり普通の恋人たちがするようなデートなんてものは一切なく、いつも通り連れて行かれたのは尾形の家だった。
今まで一度だってデートなんてしたことはない。
この男がそんなことするはずがない。
せっかく可愛い格好してきたというのにすぐに部屋に連れていかれ、一瞬で脱がされてベッドに投げ落とされ、気が付けば朝を迎えるのだ。
唯一の救いといえば行為の途中に可愛いと言ってくれることだろう。
快楽に身を委ねながら、あの低く甘い声で「お前は本当に可愛いな」なんて言われるのは悪くない。
一回も愛を囁いてくれたことはないが、それでも私は満足だった。
……あの時の尾形を見なければ。
****
あの日はお気に入りブランドの新作バッグを買いに行った帰りだった。
店舗スタッフが丁寧に見送ってくれた後、気分よく歩いていた時だった。
ふと前を見ると向こうから尾形がやってくるのが見えた。せっかくだから声をかけようかと、軽く手を上げようとした時だった。
私の知らない笑顔で隣の女に話しかけていた。
すぐさま状況を把握した私はもと来た道を引き返すことも出来たが、敢えてそのまま何でもないかのように歩いた。
一瞬視線が交わった。どうやら尾形も私の姿に気が付いたようだったが、特に何か起こるわけでもなく、ただの通行人として私の横を二人で通り過ぎていった。
(本命の彼女、いるんじゃない。)
私とは遊びだとは分かっていたが、それでも誘われた時は会っていた。
しかし本命の彼女がいるのだとしたら話は別だ。
この時から私のすべきことは決まったのだ。
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尾形に身体を委ねると当然のように朝まで部屋にいることになる。
この日もやはり抱き潰されたと言ってもいいのだろう。カーテンから漏れた光で目が覚めるとヘッドボードの時計が五時を指していた。
モゾモゾと起き上がると、隣で尾形がスヤスヤと寝ていた。
いつも意地悪そうに上がっている口元は、寝ている今はうっすら開いている。特徴的な眉毛もほんの少し下がっているからいつもより幼い印象になる。
私が起き上がっているというのに全く起きる気配はない。
信頼してもらっているということだろうか。
もう今となってはどうでも良い。
床に落ちている衣服を拾っては身につけ、最後の仕上げにと尾形から唯一もらったネックレスを首から外し、ベッドサイドへ置いた。
「さようなら、尾形。」
小さな声で別れを告げ、そっとドアを閉める。
本当にさようならだなぁと呟いたのは、誰もいない駅前の広場だった。
尾形とのやりとりを全部消して、そしてブロックした。
「好きだったなぁ…」
その言葉は誰にも届かず消えていった。