友達→?

 年に何回かあるかないかの友人との集まり。
 しかも次の日は休み。
 当然断る理由もなく誘われたイタリアンバルへと向かった。

「じゃ、かんぱ〜い。」

 大学時代からの友人は営業課に配属されたようで、毎日ヘロヘロになりながらも楽しく仕事をしているらしい。
 もう一人の友人は結婚を考えている彼と一緒に住み始めたらしい。家具やら何やらを揃えるのが楽しいと言っていた。

「で?」
「で?とは?」
「だーかーらーなんか何にもないの?いい報告。」

 そう言われて考えてみたけれど、仕事は3年目となったので特に新しい事はなく、彼氏と呼ばれる存在はいなくなって久しい。そして新しい人と関わることもあまり無く現在に至る。
 そう言うと二人は相変わらずだねぇと言われた。そんな二人に失礼なと思いながらも、事実何も無かったので否定はできなかった。
 仕方ないので聞き役に徹し、その分多くのアルコールを摂取し美味しいものを食べることにした。

 そうして気がつけばいつの間にか終電が無くなっている時間だった。
 一人は彼氏に迎えにきてもらう事になり、一人は歩いて帰れる距離だと言う。
 私も家まで歩ける距離ではあるが、何となくまだ飲み足りない気がした。どうしたものかと考えていたところでスマホから彼を呼び出した。



「お前、結構酒臭いぞ。」
「女の子にそんなこと言わない!」

 結構飲んだのは自覚しているが、意識を失うほど酔っぱらってはいない。
 すぐさま迎えにきた尾形の脇腹に手刀をかまして黙らせた。

「っ〜…、でどこまで送れば良いんだ?」
「いやいや、尾形のうちで飲もうかと思って。」

 最悪眠くなったら尾形んちで寝れるしね!と言いながらコンビニで買ったお酒の入った袋を差し出すと、目の前の男は心底嫌そうな顔をした。



 彼とは学生時代、白石を通じて知り合った。
 あちこち顔を出していた白石は友達と友達を繋げる役割を果たしていた。
 私と尾形もそのうちの一組だ。
 学科も全然違うし、ましてやサークル活動もしていない私達は本来なら知り合う事は無かったが、たまたま仲良くなった白石が企画した飲み会で顔馴染みとなり、いつの間にか互いの家でご飯を食べたり、何でもない日に気兼ねなく呼び出せるほど仲良くなっていた。
 お互い社会人になってもその関係は変わらず、時たま連絡を取り、飲むことも多々あった。

「今日は誰と飲んでたんだ?」
「あー、学科が同じだった子ー。尾形は知らない子。」

 そう言うと、尾形はそうかと興味なさそうに頷いた。そして学生時代から変わらない(親から貰ったという)マンションへと車を走らせた。
 そんな尾形の反応に、もう少し興味を持てと少し寂しく思いながらも表情には出さず、お互いただただ無言で外を眺めていた。

「相変わらずシンプルなお部屋ですね。」
「お前の部屋は相変わらずものがごちゃごちゃ置かれてるんだろうな。」

 尾形のふふんと笑った顔にムカついて、本日二度目の手刀をくらわし、それからすぐに買ってきたお酒のプルタブを開ける。
 尾形も同じようにビニール袋からお酒を取り出し、今日会った二人の話や仕事の話をしながら、お酒の缶を傾ける。
 なんだかんだで話は尽きなくて、あっという間に買ってきたお酒が無くなってしまった。
 ちらりと時計を見ると流石にもうかなり遅い時間だった。

「おい、そろそろ寝るぞ。流石に眠い。」
「はーい」

 家主にそう言われたら従うしかない。じゃあ寝るか、と床に横になり目を閉じようとした。

「待て待て。お前、そんな所で寝るな。ベッド使え。」
「いやいや、流石の私も家主を差し置いてベッド使えないよ。」

 そういえば何回もお邪魔したのに、一夜を越す事はなかった。
 お互い一歩も引かない攻防戦を少しした後、何故か尾形も横に寝転び、リモコンで電気を消した。

「俺だけベッドで寝るとか夢見が悪い。」

 一応お前女だしな、なんて軽く笑いながら言ってきたのにカチンと来て、本日3回目の手刀を繰り出そうとしたがやめた。こうして横並びで寝るのはちょっとだけドキドキする。

 尾形はよほど眠かったのか、しばらくすると規則正しい呼吸音が聞こえた。

「……付き合わせちゃってごめんね。いつもありがとう。」

 寝ている尾形に言うのは卑怯なのかもしれないが、こんな時しか言えない普段から素直な気持ちを起こさないように小声で伝える。
 そして私も寝ようと目をつぶった時だった。

「……お前だから付き合ってやってんだ。別に誰にでもこんな良い顔はせん。」
「起きてたの?!」
「寝たとは言ってない。」

 いや寝た人は寝たとは言わないだろうと突っ込みたいところだが、それよりも先に尾形が口を開いた。

「もう一度言う。お前だから迎えに行ったり、家に招き入れたりするんだ。」

 鈍いにも程がある、とため息混じりに言われた。
 暗くて尾形の表情はよく分からなかったけれど、それが良かったのかもしれない。今なら素直に言える気がした。

「……あのね、私だって誰にだって頼ったりしないし、ましてやすっぴん見せられるのは尾形以外いないよ。」

 尾形こそ鈍いじゃんと色気も何もない返事をする。すると尾形が体の向きを変えたのか、少しだけ空気が動いた。

「……やっぱりベッドで寝ろ。」
「は?尾形はどうすんの?」
「俺も一緒に寝る。」

 あぁ明日が休みでよかった。
 思っていたよりも体温の高い尾形の身体に包まれてそっと目を閉じた。

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