同棲中の尾形さん

 ただいまと帰ってきたのは11時過ぎ。あと一時間で今日が終わってしまう。

「おかえり〜。」

 玄関から疲れた顔でリビングにやってきた百之助を優しく迎える。
 ……と言っても、今読んでいる本が良いところだから、視線は本に向けたまま。気持ち的には優しく出迎えてる。
 私だって仕事をしている中、クタクタで帰ってきているし、何だったら明日も早いのにこんな時間まで待っていたのだから、これくらいは許して欲しい。
 百之助は流石に反論する気もないのか、何も言わずに鞄を置きに自室へと向かった。
 流石に私ももう眠くて、読んでいた本をパタンと閉じ、寝室へ移動しようとした時だった。急に上から影が降ってきたのだ。その暗さにびっくりして思わず顔を上げてしまった。
 瞬間、待っていましたと目を細めて笑った尾形の顔がドアップに映った。そしてすぐさまレロっと唇を舐められ、ぞわりと肌が粟立つ。
 何をするのだ!と訴えようとしたのだが、どうやら逆効果だったらしい。口を開いた瞬間、彼の意外と分厚い舌が入ってきて反論の言葉をかき消すように口の中を蹂躙してくる。
 普段ではありえない位置からのキスに、うまく息が出来ない。酸素が足りなくて頭がクラクラし始めた頃、ようやく満足したのか、唇を離してくれた。息も絶え絶えになっている私とは裏腹に、百之助はペロリと口の周りについた唾液を嬉しそうに舐めた。

「甘ぇな。」

 甘いわけがない。
 さっき歯磨きをしたばかりだから、口の中はスッキリミント味なはずだ。

「は、お前、そんな顔して見んじゃねえよ。」

 どんな顔をしていると言うのだろうか。ペタペタと顔を触って確かめるも、自分では分からない。
 仕方がないので、どんな顔してるのかと尋ねたところ、百之助は言ったのだ。

「俺に抱かれたいって顔。」
「は?」

 彼は再び目を細めて笑うのだ。まるで獲物を見つけた狙撃者のような顔で。
 ああ、今夜は逃げられそうにない。

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