先輩は強引

 新入社員が入ってきて早いもので半月が過ぎた。
 たまにフロアですれ違う子達はまだ緊張しているのか、初々しい雰囲気を醸していた。数年前の私もそうだったのかなんて思いながら、お財布を持って食堂へとやってきた。
 いつもより少しだけ早い時間にお昼が取れたからか人気のA定食がまだ残っていた。
 これはチャンスとばかりに急いで食券を購入し、顔馴染みのおばちゃんに渡す。今日は早いのね、なんて柔らかい笑顔で迎えてくれるからこの食堂が大好きだ。
 それともう一つ。この食堂が大好きな理由。

「A定食買えたんだな。」
「尾形さん!」
「先週は悔しそうにしてたからな。」
「お、覚えてたんですか?」
「そりゃああんなに悔しそうにしてたら嫌でも覚える。」

 そんな可愛くないところは覚えないでほしい。せっかくなら綺麗なところやキラキラしたところを覚えてほしい。そう願っているのは私が彼のことを大好きだから。
 けれどこうして何でもない話をできるようになったのは、私にとって大きな進歩だ。最初、尾形さんは無口で無表情。だから何を考えているか分からなかった。
 新卒の時に指導係として尾形さんを紹介された時は、もうこれダメだ、と思ったくらいだった。
 しかし話してみると、案外気さくで、たまに訳のわからないギャグを言うし、思った以上に感情が表に出る人だった。

 それから程なくして違う部署に配属されてしまったが、こうして食堂で会うと話しかけてくれる。

「そういえばゴールデンウィークは何処か行くのか?」

 いつもの通り、当たり障りない話をしていたら話題は次の長期休みの話になった。
 そこまでアクティブではないけれど、せっかくの長期の休みだ。何処かに出かけたいという気持ちはあった。

「出かけたいんですけど、移動方法考えちゃいます。電車移動って結構めんどくさい…。」
「はっ、正直なこった。」

 素直な気持ちを伝えるとバカにするように鼻で笑われたが、その目はひどく優しい。そう言うところだぞ、尾形百之助、と思いながら同時にゴールデンウィークに思いを馳せる。
 運転免許があるから、いざとなればレンタカーを借り、何処かに出掛けることもできるが、一人でそれをするのは億劫だ。
 ならばいっそ近くを散歩する?しかしそれは面白くない。
 うんうんと唸っていると、前に座っていた尾形さんが肘をつき、ジッと私のことを見ていた。

「な、なんですか?」

 その真っ黒な目で見つめられるといつも私はソワソワしてしまう。
 すこし吃りながらも首を傾げて聞いてみると、尾形さんはフッと軽く笑い、何でもない日常会話をするかのように言う。

「足、必要なんだろ?」
「へ?」
「何処行きたいんだ?」

 ワンテンポ遅れて会話が聞こえる。これは尾形さんと一緒に出かけてもいいと言うことなのだろうか。

「え?あぁ、私ネモフィラ見たいんですよね。」

 かつてテレビでやっていた一面青い花が咲く様子は圧巻だった。たしかゴールデンウィークまでは綺麗に見れると言っていたはず。
 曖昧な情報だったけれど、そう伝えると尾形さんは分かった、と首を縦に振った。

「じゃあ二日でいいか?」
「んん?」
「俺がお前の足になってやるよ。」
「本当ですか?!」

 まさか誘ってもらえるとは思わなくて、周りに人がいるにも関わらず、かなりの大きな声で反応してしまった。
 すみません、と周囲の人たちに謝りながらも、今日帰ったら行きたい場所をピックアップしようと心に決めた。



****



 後日の話をしよう。
 約束した日。
 車を走らせ色々巡った後、なぜか尾形さんのお祖母様の家へと行き、可愛らしいお祖母様に挨拶をすると、隣にいた尾形さんは俺の彼女だ、と私をお祖母様に紹介した。
 驚いて尾形さんを見ると、そう言うことだ、と嬉しそうな顔で言ってくるから、尾形さんの手をそっと握るしかできなかった。

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