体調が悪い時

 ふと目が覚めた。
 手元のスマホを見ると時刻は午前二時。心臓がバクバクと嫌な音を立てて動いている。どうやら怖い夢を見たようだ。内容なんて一つも覚えていないのに、何故か無性に泣きたくなる。
 昔からそうだった。これは明日体調崩して寝込むパターンだ。
 たまたま平日に休みを取っておいて良かった。薬を飲んで寝ておけば一日で治るだろう。そう思い、再び目を閉じるとすぐさま闇に引き込まれるように体が、頭が重くなった。

 目を覚ますとすでにカーテンから眩しい光が差していた。どうにか体を起こすも寒気がするし、頭も重い。
 よっこらしょ、と声をかけてキッチンまで向かい、常備薬を取り出す。
 何かお腹に入れたほうがいいのは分かるが、作る気力もないし、お腹も空いていなかった。すみませんと思いながら、水と一緒に流し込み、予備のペットボトルと体温計を手にベッドへと戻っていった。
 カサカサに乾いた唇を潤すようにペットボトルに口をつけ、体温計を脇に挟む。しばらくするとピピピピという音と共に、思った以上に熱があることを知らせてきた。
 あぁ、と思いながらベッドに沈み、目を閉じる。

 先程まで寝ていたから眠気は全くない。けれど目から入る余計な情報は私の頭には重すぎた。
 おでこに手を乗せ、少しでも熱が逃げるようにと気休め程度の体制をとり、ただひたすら体を休めた。



****



「ん、…」

 水分もろくに取っていなかったからか、喉の渇きを感じて目を覚ました。どうやらあのまま少し寝てしまったようだ。

「起きたか?」
「っ…お、がた…?」

 声の持ち主の名前を呼ぶと尾形はマスク姿でこちらにやってきた。
 ゲホゲホと咳き込む私の体を起こし、枕元のペットボトルを寄越してきた。

「喋るな、喉もやられてる。」

 背中を優しくさするその手の体温に涙が出てきた。なんで病気の時ってこんなに弱くなってしまうんだろう。溢れ出てくる涙をそっと拭った尾形の手は少しカサついているが優しい温度を私にくれた。

「食べられそうなもん買ってきた。ゼリーとかプリンとか。」

 薬飲むならなんか食べないとな?と一口プリンを掬って私に差し出してくる。
 普段からこんなに分かりやすく優しければ良いのに。そう言ってしまったら拗ねてやめてしまうから、決して口には出さないけれど。
 何か言いたそうな顔してんぞ、と言いながらさりげなくおでこに手を置き熱を測る尾形は、本当に出来る彼氏以外の何者でもなくて、なんでこの人が私のことを好きになってくれたのか、いまだに不明だ。
 ぶっきらぼうで表情が変わらないから勘違いされやすいが、この人は誰よりも感受性が強くて、誰よりも色々考えてしまう。少し臆病で、だから私が考えるよりもひと足先に色々やってくれたり、こうして世話をしてくれるのだ。
そんな尾形の優しさが何故だかいつもより一層沁みて、涙が溢れてくる。

「どっか痛むのか?」

 気持ち悪くないか、とりあえず寝とくか、と少し慌てた様子の尾形に私は泣きながら小さく笑った。そして大丈夫だと言いながら尾形の手を握った。

「ね、一つだけお願いして良い?」

 私が寝るまでそばにいてほしいと伝えると、尾形は嫌がりもせずコクンと頷き、私の手を握り返してくれた。



****



 すーすーと規則正しい寝息が聞こえる。どうやら落ち着いて寝られたようだ。
 先程触った額や頬、そして握られた手はいつもよりもひどく熱かった。
 きっと心細かったのだろう。潤んだ瞳で一緒にいてと言われた時は病人なのに、思わず襲ってしまいそうになりそうだった。
 ふー、とため息を吐き、そっと前髪を払いのけてやる。
 そろそろ一緒に暮らすのもありだな、と考えながら目を閉じた。

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