学生時代の尾形くん。

 うちのクラスには三人の有名人がいる。

 一人は杉元くん。
 杉元くんは、明るくて人懐っこい性格だから誰ともすぐに仲良くなれる。運動神経も良くて、確か部活は柔道部なんだっけ。牛山先生がめちゃくちゃ期待しているとか何とか。ザ・男の子って感じだけれど、可愛いものが好きらしく、そのギャップが堪らないと周りの女子が熱く語っていた。

 二人目は鯉登くん。
 鯉登くんは中学の時、お父さんの仕事の関係で鹿児島からこっちに来たらしく、取り乱した時には方言が出てしまうらしく、早口言葉のような言葉で何か言ってくる。が、普段は丁寧な言葉遣いで、元々綺麗な顔立ちをしているのと、気品の良さが全面に出ているため、玉の輿狙いで狙っている子は多いようだ。

 そして三人目は尾形くんだ。
 尾形くんは何と言うか、ダークホースだった。最初は目立っていなかった。それどころかほとんどの人がそこら辺にいる普通の男子高校生だと思っていたと思う。けれど夏休み明けに突然何を思ったのか、坊主頭だったのにツーブロになり、元々持っていた一匹狼な雰囲気と相まって、かっこいいと評判になった。一部の生徒からの指示は凄まじく、まさしくガチ恋勢と言っていいだろう。

 そんな三者三様なイケメンが集まってるクラスに、私のような地味を絵に描いたような女がいるのが本当に驚きだ。休み時間は違うクラスの子達が見にくるのは当たり前だし、先輩や後輩までもがわざわざ見にくるなんてことも結構ある。本人たちは気にしていないようだが、このザワザワした雰囲気はどうも苦手だ。
 何でお前みたいな女が同じクラスにいるのか、みたいな視線が向けられているみたいで(自意識過剰なのはわかっている。)たまったものじゃない。
 そこで、せめてもの対処として、休み時間は極力教室以外のどこかで過ごすか、隅っこで目立たないようにするかのどちらかだ。
 今日も教室から出て、目的地までコソコソと歩く。



****



「お前、また来たの?」

 最近のお気に入りの逃げ場は、屋上へと続く中央階段。うちの学校は屋上が立ち入り禁止で先生の許可なく上がることは出来ない。だから普段、屋上の扉の鍵は開いてない。つまりそれは誰もここに来ないと言うことを意味していた。
 そんな場所で数ヶ月前からスマホを弄り、休み時間をソシャゲやSNSで楽しく潰していたのに、同じことを考えてた人がいたようで、最近は隣のクラスの彼、宇佐美くんもここによく現れる。

「元は私が見つけた場所だし……。」
「はあ?僕の方が先に見つけたんだけど?」

 宇佐美くんは性格に難ありだが、黙っていれば女の子みたいな綺麗な顔をしているので、彼もまた有名だった。
 休み時間には杉元くんたちと同じように他のクラスや先輩、後輩から話しかけられるそうだが、正直面倒くさいと鼻息を荒くして言っていた。

「ってかいうかさ、お前のところのクラス、めちゃくちゃ大変じゃん。僕のクラスはイケメンが僕一強だからあれだけど、お前のところは三人もいるわけじゃん。」

 そう言って宇佐美くんは彼らの名前を言いながら一本一本指を折っていった。タイプが違うとか守備範囲がどうとか、ぶつぶつと呟いている宇佐美くんにドン引きしながら、持ってきたお弁当を開ける。

「んで、お前は誰がタイプなの?」
「は?え?」

 突然の質問に思わずお箸を落とそうとしてしまった。宇佐美くんは今、一体何と言ったのか。耳に手を当て、もう一度言うように促す。

「タイプくらいあるでしょ?聞いてるのはどうせ僕だけなんだから言ってみ?」

 どうやら聞き間違いではなかったようだ。宇佐美くんは地味で冴えないこの私に、誰がタイプなのかと聞いていた。
 確かにいうだけはタダだ。しかも今聞いているのは宇佐美くんだけ。けれど何回も言うようだが、私は地味で取り柄もない。そんな私なんかが彼らを選んで良いわけない。

「っ、「おい、#name#。」
「あ、百之助じゃん。」

 いきなり予期せぬ人から名前を呼ばれ、びくりと肩が跳ね上がる。ゆっくりと振り返ると、宇佐美くんが楽しげに名前をようだ彼、尾形くんがいた。

「なん、でしょう、か……。」
「あはっ、うけるー!百之助、めっちゃ怖がられてるじゃん。」
「チッ」

 怖いっ!!話したこともないのに舌打ちとか!めちゃくちゃ怖いよ!というか、宇佐美くんは尾形くんのこと下の名前で呼んでいるし、仲良いの?
 あれ?私、尾形くんに名前呼ばれたよね。めっちゃいい声だなぁ。この声、好きだなぁ。

「ねー、この子、青くなったり赤くなったりしてるんだけど」
「宇佐美黙っとけ。……#name#。」
「はいっ!」
「先生が探してたぞ。職員室来いって。」

 どうやら尾形くんはわざわざそれを言うために、私を探してくれていたようだった。無愛想で黒目がちな目でじっと見られると、視線が外したら最後、何かされるのではと疑ってしまうほど怖い印象だった尾形くんだったけれど、もしかして優しくて良い人なのかもしれない。

「あ、りがと。行ってみます。」
「なんで敬語なんだよ。」

 まだ少し怖いから、とは言えない私は何とか誤魔化して、その場を後にした。



「で?」
「で、とは?」
「お前、あの子のこと好きだろ。もろタイプだもんな。」
「は、何言ってんだか。」
「じゃああの子、頑張って落としちゃおうかな?」
「……。」
「何回も顔合わせて、めちゃくちゃ話合うし。お子ちゃまの助よりも僕の方が仲良いし。」
「……くそが。」

 最後に暴言を吐いた百之助の背中にニヤリと笑う。「地味で取り柄もない、私なんて」が口癖の彼女は自分のことを大層下に見ているようだが、サラサラの黒髪にツヤツヤの肌は思わず触りたくなるし、長めの前髪で隠されているがチラリと見える目は大きなアーモンドの形をしていて綺麗な目をしている。スタイルだって悪くない。むしろ良い方だと思う。
 あれはきちんと磨けば光るタイプだ。僕がせっかくだから磨いてあげようと思ったのだが、その必要はなさそうだ。
 小窓から外を眺めると、渡り廊下を二人で歩いているのが見えた。先程まで怖がっていた様子だった彼女はもう百之助の隣で楽しそうに笑っている。

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