しあわせのかたち
私の彼氏である尾形百之助は誕生日なんてどうでもいいと思ってる人である。
確かに社会人になってから誕生日なんてものはただの日にちでしかない。平日なら尚更だ。けれど、だからこそ!彼女である私が何かお祝いしてあげたい。
とは言え私よりも稼いでるであろう彼は、本気で欲しいと思ったものは自分で買っている。パッと見た感じ、身につけているものはシンプルだけれど上質な良いもので揃えている。
そうなると何を買ったら良いのか、一人でうんうん唸りながら悩んでいた所、たまたま隣に座っていた宇佐美に手加減なしで思いっきり頭をはたかれた。
「痛っ!」
「うんうん、唸り声が五月蝿い。」
「だってー」
「どうせ百之助の誕生日プレゼントどうしよー♡とか思ってるんでしょ?」
「うっ!」
語尾にハートマークが付くかどうかは置いておいて、まさに考えていることを言い当てられて言葉に詰まる。
「じゃあ相談乗ってよ〜」
「嫌だね。僕は忙しいんだ!」
「私のこと気に掛けれるくらい暇してるじゃん。」
「お前の唸り声が五月蝿いから集中できないんだよ。」
「えー…」
そう言いながら嫌々ながらも話を聞いてくれる宇佐美は優しいと思う。
「百之助はここのブランドが好きだったよ。キーケース辺りをプレゼントすると良いんじゃない?」
「すでに持ってない?」
「持ってた。けど、だいぶ使い込まれてたと思うよ。」
結局相談に乗ってくれ、そしてアドバイスもくれた宇佐美にありがとうとお礼を言うと、今度ここ奢りでいいよ、なんてスマホでお店のホームページを見せながら見返りを求められた。
……そう言うところはちゃっかりしている。
ともかくこれで大体は決まった訳で、後は実際見てみようと早速仕事帰りにお目当てのショップへと足を運んだ。
****
「いらっしゃいませ。」
声を掛けてくれた人は、若いのにとても落ち着いた優しそうな雰囲気の人だった。プレゼントを探していると伝えると親身になって色々アドバイスしてくれた。
「普段、その方はどう言った服装をされているのですか?」
「シンプルでシックな格好が多いですね。
ごちゃごちゃしたものがあまり好きじゃないみたいです。でもモノに興味がない訳じゃなくて、一つ一つの服や物を大事にしてるみたい。」
「なるほど。」
「その中の一つに入れてくれたらな、…なんて烏滸がましいですかね?」
「いえ、素敵だと思いますよ。」
ペラペラと話してしまった自分に気付き、急に恥ずかしくなり一気に体が熱くなる。恐らく顔が赤くなっている。それを誤魔化すように耳をそっと撫でた。
そんな様子に気付かない訳がないのに、目の前の店員さんは変わらず柔らかい笑みを浮かべ、おすすめの品を出してくれた。
「そうやって自分の事を一生懸命考えながら選んでくれるなんて、その方は幸せですね。」
「あ、ありがとうございます。」
尾形もそうであればいいな、と思いながらおすすめされた中から一つ一つ見ていく。
メンズものはよく分からなくて、最終的に手に取った時の直感で決めてしまうのは許してほしい。
「ではこちらでよろしいですか?」
「はい。」
そうして選んだのはブラックのシンプルなレザー製のキーケース。プレゼント用にラッピングをお願いし、そして仕上げにもう一つ。
「あ、の」
「はい。」
「お願いがあるんですが…」
私は厚かましいとは思いながらも、手に持っていたソレを店員さんに渡した。
****
一月二十一日、土曜日。尾形の誕生日前日。
「お邪魔しまーす」
「ん。」
浮かれている気分を悟られないように、いつもと同じように定位置に荷物を置き、少しゆっくりした後夕飯の買い物に行く。
途中、雑貨屋さんで見かけた猫のカップは尾形にそっくりで、迷わず色違いで買った。本屋に立ち寄って、私は続きが気になっていた小説を手にし、尾形は何だか難しい本を脇に抱えていた。
スーパーでは何が食べたい?と聞きながら、食材をカゴに入れていくのが楽しかった。私が辛いポテトチップを手にした時は、すかさず手首を掴まれ止められた。こう見えて、実は辛いものが苦手なのだ。
そんなこんなで楽しい時間はあっという間に過ぎ、家に帰る頃には空が綺麗にグラデーションになっていたので慌てて夕飯を作りはじめた。そんなささやかな何でもない時間が余りにも楽しくて、夕飯の時にワインをちょっと飲み過ぎてしまった。グラス片手にソファで尾形に絡んでいたら、急にグラスを奪われ唇を甘噛みされた。
「んぅ」
「……もう飲み過ぎだ。」
ソレがそういう事のサインだっていうのは、酔っ払っている私だって分かる。口に出してくれない尾形にふふふと笑いながら、こちらからも首に腕を回して応えた。唇を離すのが嫌で、そのまま抱き上げられ寝室へと連れていかれた。
……そして気が付いたら朝だった。
本当は日付が変わったらプレゼントを渡す予定だったのに、それは綺麗に鞄に入ったままだった。やってしまったと頭を抱えたがまずはシャワーを浴びにバスルームへと逃げた。
上がったところでテレビをつけ、コーヒーを入れると淹れたてのコーヒーの香りに釣られたのか、タイミングよく尾形がお腹をぽりぽりとかきながらリビングへやってきた。いつもは格好も髪型もビシッと決めている尾形が、こうして無防備な姿を見せてくれるのはなんだか嬉しい。
そのまま猫のように擦り寄ってきたかと思うと何を思ったのかスンっと首のあたりを嗅いでくる。
「シャワー、浴びたのか…」
「あ、うん。勝手にシャンプーとか借りちゃった。ごめんね。」
そういうと嬉しそうに口角を上げ、俺と同じ匂いだなと甘い声で囁く。声が思った以上に甘くて、思わず耳を押さえながら睨みつけると意地悪そうな笑みを浮かべていた。
「もう!」
「ははぁ」
私を揶揄う尾形は、乱れていた髪を楽しそうに後ろに撫で付けながらバスルームへと消えていった。その姿を見送った後、いまだにうるさい心音を鎮めるため、一つ深呼吸。落ち着いていたところで朝食に取り掛かる。
スクランブルエッグが出来たところで尾形がリビングへやってきた。昨日買ったばかりのマグカップにコーヒーを入れて渡す。
「マグカップ買って正解だったでしょ」
「あぁ。」
尾形の表情は変わっていなかったが、何処となく優しい空気を纏っている気がして、買ってよかったと心の底から思った。
朝食の後片付けを終えたところで、ソファに座っている尾形にプレゼントをおずおずと渡す。
「尾形、あのコレ、誕生日プレゼントなんだけど…」
まさかこのタイミングでプレゼントを渡されると思っていなかったのか、黒目がキュッと細くなった。
「開けて良いか?」
「勿論!」
「…キーケースか」
確認するや否や、尾形はいそいそと今のものから鍵を付け替えようとしていた。
「おい、これ」
店員さんにお願いしてつけてもらった鍵を指差し尾形は驚いた表情だった。
「うん。それ、うちの鍵。」
何となく恥ずかしくて、思わず自分の握った手を見つめながら言うが何も反応が返ってこない。
あまりにも反応がなかったので迷惑だったかな?と恐る恐る尾形の顔を見ると、そこには顔の表情が緩み切った嬉しそうな顔をしてる男がいた。初めて見るその表情に思わず見惚れていると、視線に気付いたのか慌てて顔を隠した。
「見んなよ、くそ」
いつものように悪態を突いているが、耳まで真っ赤にしながらの姿は全く怖くない。
「百之助、お誕生日おめでとう」
幸せな誕生日の始まり。
確かに社会人になってから誕生日なんてものはただの日にちでしかない。平日なら尚更だ。けれど、だからこそ!彼女である私が何かお祝いしてあげたい。
とは言え私よりも稼いでるであろう彼は、本気で欲しいと思ったものは自分で買っている。パッと見た感じ、身につけているものはシンプルだけれど上質な良いもので揃えている。
そうなると何を買ったら良いのか、一人でうんうん唸りながら悩んでいた所、たまたま隣に座っていた宇佐美に手加減なしで思いっきり頭をはたかれた。
「痛っ!」
「うんうん、唸り声が五月蝿い。」
「だってー」
「どうせ百之助の誕生日プレゼントどうしよー♡とか思ってるんでしょ?」
「うっ!」
語尾にハートマークが付くかどうかは置いておいて、まさに考えていることを言い当てられて言葉に詰まる。
「じゃあ相談乗ってよ〜」
「嫌だね。僕は忙しいんだ!」
「私のこと気に掛けれるくらい暇してるじゃん。」
「お前の唸り声が五月蝿いから集中できないんだよ。」
「えー…」
そう言いながら嫌々ながらも話を聞いてくれる宇佐美は優しいと思う。
「百之助はここのブランドが好きだったよ。キーケース辺りをプレゼントすると良いんじゃない?」
「すでに持ってない?」
「持ってた。けど、だいぶ使い込まれてたと思うよ。」
結局相談に乗ってくれ、そしてアドバイスもくれた宇佐美にありがとうとお礼を言うと、今度ここ奢りでいいよ、なんてスマホでお店のホームページを見せながら見返りを求められた。
……そう言うところはちゃっかりしている。
ともかくこれで大体は決まった訳で、後は実際見てみようと早速仕事帰りにお目当てのショップへと足を運んだ。
****
「いらっしゃいませ。」
声を掛けてくれた人は、若いのにとても落ち着いた優しそうな雰囲気の人だった。プレゼントを探していると伝えると親身になって色々アドバイスしてくれた。
「普段、その方はどう言った服装をされているのですか?」
「シンプルでシックな格好が多いですね。
ごちゃごちゃしたものがあまり好きじゃないみたいです。でもモノに興味がない訳じゃなくて、一つ一つの服や物を大事にしてるみたい。」
「なるほど。」
「その中の一つに入れてくれたらな、…なんて烏滸がましいですかね?」
「いえ、素敵だと思いますよ。」
ペラペラと話してしまった自分に気付き、急に恥ずかしくなり一気に体が熱くなる。恐らく顔が赤くなっている。それを誤魔化すように耳をそっと撫でた。
そんな様子に気付かない訳がないのに、目の前の店員さんは変わらず柔らかい笑みを浮かべ、おすすめの品を出してくれた。
「そうやって自分の事を一生懸命考えながら選んでくれるなんて、その方は幸せですね。」
「あ、ありがとうございます。」
尾形もそうであればいいな、と思いながらおすすめされた中から一つ一つ見ていく。
メンズものはよく分からなくて、最終的に手に取った時の直感で決めてしまうのは許してほしい。
「ではこちらでよろしいですか?」
「はい。」
そうして選んだのはブラックのシンプルなレザー製のキーケース。プレゼント用にラッピングをお願いし、そして仕上げにもう一つ。
「あ、の」
「はい。」
「お願いがあるんですが…」
私は厚かましいとは思いながらも、手に持っていたソレを店員さんに渡した。
****
一月二十一日、土曜日。尾形の誕生日前日。
「お邪魔しまーす」
「ん。」
浮かれている気分を悟られないように、いつもと同じように定位置に荷物を置き、少しゆっくりした後夕飯の買い物に行く。
途中、雑貨屋さんで見かけた猫のカップは尾形にそっくりで、迷わず色違いで買った。本屋に立ち寄って、私は続きが気になっていた小説を手にし、尾形は何だか難しい本を脇に抱えていた。
スーパーでは何が食べたい?と聞きながら、食材をカゴに入れていくのが楽しかった。私が辛いポテトチップを手にした時は、すかさず手首を掴まれ止められた。こう見えて、実は辛いものが苦手なのだ。
そんなこんなで楽しい時間はあっという間に過ぎ、家に帰る頃には空が綺麗にグラデーションになっていたので慌てて夕飯を作りはじめた。そんなささやかな何でもない時間が余りにも楽しくて、夕飯の時にワインをちょっと飲み過ぎてしまった。グラス片手にソファで尾形に絡んでいたら、急にグラスを奪われ唇を甘噛みされた。
「んぅ」
「……もう飲み過ぎだ。」
ソレがそういう事のサインだっていうのは、酔っ払っている私だって分かる。口に出してくれない尾形にふふふと笑いながら、こちらからも首に腕を回して応えた。唇を離すのが嫌で、そのまま抱き上げられ寝室へと連れていかれた。
……そして気が付いたら朝だった。
本当は日付が変わったらプレゼントを渡す予定だったのに、それは綺麗に鞄に入ったままだった。やってしまったと頭を抱えたがまずはシャワーを浴びにバスルームへと逃げた。
上がったところでテレビをつけ、コーヒーを入れると淹れたてのコーヒーの香りに釣られたのか、タイミングよく尾形がお腹をぽりぽりとかきながらリビングへやってきた。いつもは格好も髪型もビシッと決めている尾形が、こうして無防備な姿を見せてくれるのはなんだか嬉しい。
そのまま猫のように擦り寄ってきたかと思うと何を思ったのかスンっと首のあたりを嗅いでくる。
「シャワー、浴びたのか…」
「あ、うん。勝手にシャンプーとか借りちゃった。ごめんね。」
そういうと嬉しそうに口角を上げ、俺と同じ匂いだなと甘い声で囁く。声が思った以上に甘くて、思わず耳を押さえながら睨みつけると意地悪そうな笑みを浮かべていた。
「もう!」
「ははぁ」
私を揶揄う尾形は、乱れていた髪を楽しそうに後ろに撫で付けながらバスルームへと消えていった。その姿を見送った後、いまだにうるさい心音を鎮めるため、一つ深呼吸。落ち着いていたところで朝食に取り掛かる。
スクランブルエッグが出来たところで尾形がリビングへやってきた。昨日買ったばかりのマグカップにコーヒーを入れて渡す。
「マグカップ買って正解だったでしょ」
「あぁ。」
尾形の表情は変わっていなかったが、何処となく優しい空気を纏っている気がして、買ってよかったと心の底から思った。
朝食の後片付けを終えたところで、ソファに座っている尾形にプレゼントをおずおずと渡す。
「尾形、あのコレ、誕生日プレゼントなんだけど…」
まさかこのタイミングでプレゼントを渡されると思っていなかったのか、黒目がキュッと細くなった。
「開けて良いか?」
「勿論!」
「…キーケースか」
確認するや否や、尾形はいそいそと今のものから鍵を付け替えようとしていた。
「おい、これ」
店員さんにお願いしてつけてもらった鍵を指差し尾形は驚いた表情だった。
「うん。それ、うちの鍵。」
何となく恥ずかしくて、思わず自分の握った手を見つめながら言うが何も反応が返ってこない。
あまりにも反応がなかったので迷惑だったかな?と恐る恐る尾形の顔を見ると、そこには顔の表情が緩み切った嬉しそうな顔をしてる男がいた。初めて見るその表情に思わず見惚れていると、視線に気付いたのか慌てて顔を隠した。
「見んなよ、くそ」
いつものように悪態を突いているが、耳まで真っ赤にしながらの姿は全く怖くない。
「百之助、お誕生日おめでとう」
幸せな誕生日の始まり。