レッツシェア
バレンタイン然り、ホワイトデー然り、世の中の記念日に企業の思惑を感じる昨今。
今日十一月十一日も同じ。
細長いお菓子の日ということもあって、あちこちで細長いソレを目にする。
お昼を買いに行った時もレジ横に置いてあるし、何だったらご丁寧に可愛らしいポップ付きでカゴに山積みされている。
そんなに並んでいるなら久しぶりに食べてみようか、と手に取ってしまうちょろい私は、定番の緑のパッケージのソレを取ってお昼ご飯のお弁当と一緒にレジへ出した。
「終わったか?」
「後少しです。」
もう誰も居なくなったフロアで、尾形主任の低く心地よい声が響く。
上司から急に振られた仕事のせいで残っているのは私と尾形主任だけだ。仕事を振った上司は早々に帰ったというのに、部下が残っているからと、わざわざ残ってくれた尾形主任に申し訳なくて、自分ができる最大限の速さで仕事を終わらせる。
カタカタとパソコンを打つ音だけがしばらく鳴り響き、ようやく終わったとエンターキーを少し強めに押すと、その気配を察したのか尾形主任がこちらをチラリと見た。
「尾形主任、終わりました。」
「ん、ご苦労さん。」
チェックをしてもらい、ようやく帰れると安心したら急にお腹が空いてきた。
くぅーとお腹が鳴り、フロアに響く。
当然尾形主任にも、聞こえていたようで黒目を猫のように細くした後、吹き出すように笑った。
恥ずかしくなって誤魔化すように、机を漁っていたら、引き出しからお昼に買ってそのままになっていた緑のパッケージのお菓子を見つけた。
正直このままでは家までもたない、何でも良いからお腹に入れて帰りたいと脳が強く訴えてきて、そのお菓子の袋を問答無用に開ける。
「おい」
「だってお腹空き過ぎてつらいんですよ。あ、尾形主任も食べます?」
レッツシェア〜なんて恥ずかしさを少しでも笑いに変えようとCMの真似をしながら自分用に一本口に加えて、残りをどうぞと袋ごと差し出す。
尾形主任は何も言わずに自分の席を立ち、私の席までやって来たから、やっぱり同じくお腹空いてたんだな、なんて呑気にお菓子を差し出しながら考えていた。
ぽり
小気味良い音を立てて尾形主任が一口細長いソレを食べる。
……目の前で。
言葉通り、めちゃくちゃ近い距離で一口、また一口と食べていく。
尾形主任が食べているソレは、差し出した袋のものではなく、私が口に加えているものだった。
学生の合コンのノリよろしく、端からどんどんと遠慮なしに近付いてくる。その行動に頭がついていかず、しばらく固まってしまったが、半分くらいまで来たところでようやく頭がまずいと認識し、慌てて尾形主任の身体を押し返した。
しかし思いっきり胸辺りを押し返したというのに、尾形主任の体は全く動かない。むしろ背中に手を回されて余計に距離が近くなった。
セクハラじゃないのか?と思わないでもない。
あと少しで唇が触れ合ってしまうと言うところで、覚悟を決めて目をギュッと瞑る。
「ふ、」
軽く笑う気配がして恐る恐る目を開くと、案の定口端を僅かに歪ませてニヒルな笑い方をしていた。
「マヌケな顔だな。」
「な、」
文句の一つでも言ってやろうと思ったのに、結局口から言葉が全く出ないまま、尾形主任は帰る支度をし始めた。
「何やってんだ。帰るぞ。」
「え、うそ、は?」
何もありませんでしたよ、と言わんばかりに通常通りな表情で尾形主任はさっさとエレベーターホールまで行ってしまった。
慌てて追いかけて腕を掴むと心底不思議そうな顔をされた。
「なんだ?」
「いや、何だ?はこっちのセリフですよ。」
何であんなことをしたのか、と普段の事なかれ主義な私では考えられない勢いで尾形主任に噛みつく。すると、鈍いお前にはあれくらい分かりやすくした方が良いだろ?としれっと尾形主任が言う。
流石にそこまで言われたら分からない訳がない。
「尾形主任、好きって言葉で言ってくれないんですか?」
「生憎、確信がないと動けない性分でな」
だから早く自分の気持ちに気付けよ、なんてするりと手を繋がれて、心臓が跳ね上がる。
ズルい、と文句を言いながらも、繋がれた手を握り返した。
今日十一月十一日も同じ。
細長いお菓子の日ということもあって、あちこちで細長いソレを目にする。
お昼を買いに行った時もレジ横に置いてあるし、何だったらご丁寧に可愛らしいポップ付きでカゴに山積みされている。
そんなに並んでいるなら久しぶりに食べてみようか、と手に取ってしまうちょろい私は、定番の緑のパッケージのソレを取ってお昼ご飯のお弁当と一緒にレジへ出した。
「終わったか?」
「後少しです。」
もう誰も居なくなったフロアで、尾形主任の低く心地よい声が響く。
上司から急に振られた仕事のせいで残っているのは私と尾形主任だけだ。仕事を振った上司は早々に帰ったというのに、部下が残っているからと、わざわざ残ってくれた尾形主任に申し訳なくて、自分ができる最大限の速さで仕事を終わらせる。
カタカタとパソコンを打つ音だけがしばらく鳴り響き、ようやく終わったとエンターキーを少し強めに押すと、その気配を察したのか尾形主任がこちらをチラリと見た。
「尾形主任、終わりました。」
「ん、ご苦労さん。」
チェックをしてもらい、ようやく帰れると安心したら急にお腹が空いてきた。
くぅーとお腹が鳴り、フロアに響く。
当然尾形主任にも、聞こえていたようで黒目を猫のように細くした後、吹き出すように笑った。
恥ずかしくなって誤魔化すように、机を漁っていたら、引き出しからお昼に買ってそのままになっていた緑のパッケージのお菓子を見つけた。
正直このままでは家までもたない、何でも良いからお腹に入れて帰りたいと脳が強く訴えてきて、そのお菓子の袋を問答無用に開ける。
「おい」
「だってお腹空き過ぎてつらいんですよ。あ、尾形主任も食べます?」
レッツシェア〜なんて恥ずかしさを少しでも笑いに変えようとCMの真似をしながら自分用に一本口に加えて、残りをどうぞと袋ごと差し出す。
尾形主任は何も言わずに自分の席を立ち、私の席までやって来たから、やっぱり同じくお腹空いてたんだな、なんて呑気にお菓子を差し出しながら考えていた。
ぽり
小気味良い音を立てて尾形主任が一口細長いソレを食べる。
……目の前で。
言葉通り、めちゃくちゃ近い距離で一口、また一口と食べていく。
尾形主任が食べているソレは、差し出した袋のものではなく、私が口に加えているものだった。
学生の合コンのノリよろしく、端からどんどんと遠慮なしに近付いてくる。その行動に頭がついていかず、しばらく固まってしまったが、半分くらいまで来たところでようやく頭がまずいと認識し、慌てて尾形主任の身体を押し返した。
しかし思いっきり胸辺りを押し返したというのに、尾形主任の体は全く動かない。むしろ背中に手を回されて余計に距離が近くなった。
セクハラじゃないのか?と思わないでもない。
あと少しで唇が触れ合ってしまうと言うところで、覚悟を決めて目をギュッと瞑る。
「ふ、」
軽く笑う気配がして恐る恐る目を開くと、案の定口端を僅かに歪ませてニヒルな笑い方をしていた。
「マヌケな顔だな。」
「な、」
文句の一つでも言ってやろうと思ったのに、結局口から言葉が全く出ないまま、尾形主任は帰る支度をし始めた。
「何やってんだ。帰るぞ。」
「え、うそ、は?」
何もありませんでしたよ、と言わんばかりに通常通りな表情で尾形主任はさっさとエレベーターホールまで行ってしまった。
慌てて追いかけて腕を掴むと心底不思議そうな顔をされた。
「なんだ?」
「いや、何だ?はこっちのセリフですよ。」
何であんなことをしたのか、と普段の事なかれ主義な私では考えられない勢いで尾形主任に噛みつく。すると、鈍いお前にはあれくらい分かりやすくした方が良いだろ?としれっと尾形主任が言う。
流石にそこまで言われたら分からない訳がない。
「尾形主任、好きって言葉で言ってくれないんですか?」
「生憎、確信がないと動けない性分でな」
だから早く自分の気持ちに気付けよ、なんてするりと手を繋がれて、心臓が跳ね上がる。
ズルい、と文句を言いながらも、繋がれた手を握り返した。