社会人になって
尾形と再会したのは会社説明会だった。
斜め前に座っている彼を見てすぐに分かった。その後ろ姿をよく見ていたな、と説明会にも関わらず緊張よりも懐かしい気持ちの方が大きくなったのを覚えている。
そこでも私は尾形には話しかけなかった。
私が覚えていても向こうは私の事を覚えていないだろう。
高校の時、結局ちゃんと前から見たのは楽譜を落としたあの時だけだった。
だから私の事なんて他人以外の何者でもない。そう思い、青い春の思い出をそっと心の奥底に押し込めたのだ。
****
「嘘でしょ…」
思わず声に出してしまい、慌てて口を押さえる。
周りをキョロキョロ見渡すと、誰も私の独り言など気付いていない様子だった。だから私も何も無かったかのように席に着いた。
驚いたのは無理もない。
これで説明会で尾形に会うのは3回目。
いくら何でも会いすぎではないか。いやいや志望業種がきっと同じなのだろう。だから大体行動範囲が同じなのだ。
ぐるぐると思考は巡り、しかし何も結論が出ないまま説明会は始まり、モヤモヤした気持ちのまま人事の説明を受けた。
「なぁ」
「はい」
しかし事態は意外な方向から進んでいった。向こう、つまり尾形から私に話しかけて来たのだ。
「結構説明会被ってるよな。」
「あー、はい。」
気づかれていたのかと少しだけビックリしたけれど、顔には出さずに対応した私は偉いと思う。
「〇〇とか××とか見にいったか?」
「見に行きました。」
「その時の様子とか覚えてたら教えてほしい。」
話しかけてきた理由は至ってシンプルだった。
どうやら行きたい説明会が被っていて情報だけでも欲しかったらしい。
それから連絡を頻繁に撮ることになり、友達という関係になるまでは本当にあっという間だった。
どこどこの面接官からこんな質問された、とかこの説明会のこの部分が意味が分からなかったから教えて欲しいだとか、毎日何かしらラインでやり取りをするようになった。
「結局どこが第一志望なんだ?」
「私?第七商事。」
「あー、鶴見さん?だっけ。あの人、人たらしだよな。」
LINEに送られてきた「すげー惹き込まれた」というコメントと黒猫の困ったようなスタンプを見て、ふふふと笑う。
尾形は滅多に自分の感情を人に見せない。そんな彼が惹き込まれた、なんて言うくらいだから鶴見さんは本当に魅力的な人なんだと思う。
「おい、なんか返せよ」
テンポよく送られていたやり取りが止まったからか、尾形から催促のメッセージが来ていた。
慌てて返すと、話はくだらない方向に変わっていき、尾形の第一志望は?と聞くタイミングを逃してしまった。
****
「それで結局同じ会社に入社したんだけど」
「いや、だからそこは端折らないでぇ!」
「えー?」
あれから馴れ初めが聞きたいとうるさくする三人に仕方がなく話しているのだが、中々に注文が多くて困る。
やれ、この部分を細かく話せだ、この時はどう言う気持ちだったのか、など話の流れをバキバキに折ってくるから、どんどんこちらも対応が適当になってくる。
「そもそも!尾形!」
「んだよ、杉元」
「お前、いつから夢主ちゃんのこと好きだったんだよ」
「何でお前にいう必要あんだよ。」
「あぁ?」
全く何でこの二人はこうも喧嘩腰なんだろうか。
でもいつから尾形が私の事を好きになってくれたのか知りたいと思うのは仕方がないと思う。
「ね、私もいつからなのか知りたいな?」
まさか私からも援護射撃されるとは思っていなかったようで、尾形は黒目をキュッと細くした。
「ほら!夢主ちゃんもこう言ってる事だしぃ、尾形ちゃんこの際だから吐いちゃいなよ☆」
白石がピュウとウインクしながら言うと、尾形は心底嫌そうな顔をして舌打ちをした。
斜め前に座っている彼を見てすぐに分かった。その後ろ姿をよく見ていたな、と説明会にも関わらず緊張よりも懐かしい気持ちの方が大きくなったのを覚えている。
そこでも私は尾形には話しかけなかった。
私が覚えていても向こうは私の事を覚えていないだろう。
高校の時、結局ちゃんと前から見たのは楽譜を落としたあの時だけだった。
だから私の事なんて他人以外の何者でもない。そう思い、青い春の思い出をそっと心の奥底に押し込めたのだ。
****
「嘘でしょ…」
思わず声に出してしまい、慌てて口を押さえる。
周りをキョロキョロ見渡すと、誰も私の独り言など気付いていない様子だった。だから私も何も無かったかのように席に着いた。
驚いたのは無理もない。
これで説明会で尾形に会うのは3回目。
いくら何でも会いすぎではないか。いやいや志望業種がきっと同じなのだろう。だから大体行動範囲が同じなのだ。
ぐるぐると思考は巡り、しかし何も結論が出ないまま説明会は始まり、モヤモヤした気持ちのまま人事の説明を受けた。
「なぁ」
「はい」
しかし事態は意外な方向から進んでいった。向こう、つまり尾形から私に話しかけて来たのだ。
「結構説明会被ってるよな。」
「あー、はい。」
気づかれていたのかと少しだけビックリしたけれど、顔には出さずに対応した私は偉いと思う。
「〇〇とか××とか見にいったか?」
「見に行きました。」
「その時の様子とか覚えてたら教えてほしい。」
話しかけてきた理由は至ってシンプルだった。
どうやら行きたい説明会が被っていて情報だけでも欲しかったらしい。
それから連絡を頻繁に撮ることになり、友達という関係になるまでは本当にあっという間だった。
どこどこの面接官からこんな質問された、とかこの説明会のこの部分が意味が分からなかったから教えて欲しいだとか、毎日何かしらラインでやり取りをするようになった。
「結局どこが第一志望なんだ?」
「私?第七商事。」
「あー、鶴見さん?だっけ。あの人、人たらしだよな。」
LINEに送られてきた「すげー惹き込まれた」というコメントと黒猫の困ったようなスタンプを見て、ふふふと笑う。
尾形は滅多に自分の感情を人に見せない。そんな彼が惹き込まれた、なんて言うくらいだから鶴見さんは本当に魅力的な人なんだと思う。
「おい、なんか返せよ」
テンポよく送られていたやり取りが止まったからか、尾形から催促のメッセージが来ていた。
慌てて返すと、話はくだらない方向に変わっていき、尾形の第一志望は?と聞くタイミングを逃してしまった。
****
「それで結局同じ会社に入社したんだけど」
「いや、だからそこは端折らないでぇ!」
「えー?」
あれから馴れ初めが聞きたいとうるさくする三人に仕方がなく話しているのだが、中々に注文が多くて困る。
やれ、この部分を細かく話せだ、この時はどう言う気持ちだったのか、など話の流れをバキバキに折ってくるから、どんどんこちらも対応が適当になってくる。
「そもそも!尾形!」
「んだよ、杉元」
「お前、いつから夢主ちゃんのこと好きだったんだよ」
「何でお前にいう必要あんだよ。」
「あぁ?」
全く何でこの二人はこうも喧嘩腰なんだろうか。
でもいつから尾形が私の事を好きになってくれたのか知りたいと思うのは仕方がないと思う。
「ね、私もいつからなのか知りたいな?」
まさか私からも援護射撃されるとは思っていなかったようで、尾形は黒目をキュッと細くした。
「ほら!夢主ちゃんもこう言ってる事だしぃ、尾形ちゃんこの際だから吐いちゃいなよ☆」
白石がピュウとウインクしながら言うと、尾形は心底嫌そうな顔をして舌打ちをした。