プロポーズ

 いつも待ち合わせ場所には先についている尾形。

「待った?」
「待ってねえよ」

 そういって私しか知らない優しい顔で笑う。それからそっと手を差し伸べて手を繋いでくれるのに、今日は待った?と聞いてもどこか上の空なのか。
 なんというか表情が固い。
 それでも手を繋いでくれるから、飽きられたなんて事は無さそうだ。

 ひとまず今日の目的である映画館へと向かう。

「おい、こっちだ。」
「え?でも席…」
「もう取ってある」

 繋いでいたはずの手はいつの間には腰に回され、上映されるスクリーンまで連れていかれる。

「うわー。」

 案内された席はいわゆるカップルシートと言うもの。
 普通なら2人の間を隔てる肘掛けはなく、2人掛けの大きなソファがそこにはあった。促さられるまま座るとふかふかなソレに感動する。

「凄いね。」
「気に入ったか?」
「うん。これで映画見れるなんて贅沢だね。」
「そうか」

 見た映画は決してラブストーリーなんて甘いモノではなかったが、いつもより近い距離にいるせいかドキドキしてしまった。
 ……今日は一体どうしたと言うのだろうか。



「まさかの最後だったよね。」
「お前、あのシリーズ好きだよな」
「うん!特に今回のペアが最高なんだよねー。」

 いつものように映画の感想を言い合いながら、ぶらぶらと当てもなく適当に歩く。
 ここが好きだった、ここが納得いかない、この部分が理解できないなど、1人だとできなかった意見の交換をするのが楽しい。
 尾形もそう思ってくれているのか毎回映画を観る度に付き合ってくれる。なのにやはり今日は変だ。

「尾形、どうしたの?なんか上の空。」
「……そうか?」
「分かるよ、それくらい。」

 杉元くん辺りは何考えてるか分かんない、とよく愚痴をこぼすが、結構分かりやすい。

「……そうか。」

 繋いだ手をぎゅっと握られ、何かを決意したような顔をした。

「おが「俺は、お前の苗字になりたい。」
「は?」

 突然言われた言葉に理解が追いつかない。

「毎日お前と一緒にいたい。」

 辺りはもう時期夜。
 この時間特有のグラデーションが綺麗。
 イルミネーションももちろんピカピカ輝いていてロケーションは最高にロマンチックだ。
 けれど……

「やだ」





「…やはり俺では「私が尾形の苗字になりたい。」
「!!」

 私だって尾形になりたいんだよと勢いよく抱きつくと、慌てながらもいつもより強く抱きしめてくれる尾形がいた。

「いいのか?」
「うん。」
「本当か?」
「うん。」
「だが、」
「しつこい!!」

 そんなやり取りをした後、私たちはそのまま婚姻届を貰いに行った。



****



「尾形ー、証人のところどうする?」
「あ?あー、勇作さんと宇佐美にお願いしてみるか。」
「ん、了解。」
「つーか、お前も尾形になるんだろうが。」
「あ、そうか。」

 いい加減名前で呼べよ、と言った尾形の耳がほんのり赤くなっているのに気付いた。
 ……この人はやはり案外分かりやすいよ、杉元くん。
 今度会った時には教えてあげよう。

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