夏目先生は偉大

 そういえば昨日十五夜だったんだね、と目の前の女が言う。

「コレ、スーパーで安く売ってたのってそのせいかぁ。」

 周りのフィルムをペリペリと巡りながら、何個目かの団子を美味しそうに食べているコイツは、完全に花より団子だ。

「……」

 もはや呆れて何も言えない俺をしってか知らずか。
 ゴクンと食べていた団子を飲み込んだ女は、椅子から立ち上がりカーテンをそっと開け外を見上げた。

「ね、尾形、見て。」

 そいつが余りにも一生懸命手招きするから、何だ?と言われた通りに隣に立つ。

「ほら、今日も月が綺麗だよ!」

 指差す方を見るとそこには綺麗な丸い形をした月。
 よりによって月が綺麗、だなんてこいつは……。
 かつて何処ぞの文豪が言った台詞だなんて知らず、ただ素直な感想を言ったに違いない。こっちの気も知らないで、女はそのまま続けた。

「昨日満月だったみたいだけど今日も綺麗だね。」
「……あぁ。」

 再び月を見て綺麗だ、と呟くコイツをどうしてくれようか。
 死んでも良い、なんて言ったところでどうせ伝わらないだろうし、きっと目を丸くしてから、何それと笑うだろう。
 そんな事を考えながら横の女を見ると、髪から覗く耳が僅かに赤くなっているのが見えた。

「ははぁ」

 何だ、知ってるんじゃないか。気付いたらすることはただ一つだ。


「お前と見る月だからだ。このまま死んでも良い。」

 そのまま女を引き寄せた。

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