水滴が落ちるまで※ホラー

 クーラーの効いた部屋。
 昼間にかいた汗はお風呂で流してきた。

「ねー、百ー聞いてー。」

 そう呼ぶ女の元に行くと既にローテーブルにロング缶が何本も空になっていた。
 片手にビールを持って隣に座るとまだ髪が濡れているというのにくっついてきた。

「おいっ、濡れる」
「えー、良いじゃん」

 グイッと身体を押し返すも思いの外強い力でくっついてくるから最終的には諦めた。

「んでね、聞いてよー。」

 どうやらさっきの話の続きらしい。
 聞かないと終わりそうにない絡みにうんざりしながら続きを促す。

「今日さ、お墓参り行ってきたじゃない?」
「あぁ」
「あの時にさ、暑いなーって思いながらもお墓を綺麗にして手を合わせてきた訳よ。」

 そういえば朝からバタバタしながら出ていったな、と今朝のことを思い出す。

「で、ね。
そのあとは近所のおばちゃんのうちに寄って、しばらく涼んでたんだよー」
「いいな」

 ばあちゃんっ子の俺にとっては懐かしい気持ちになるその光景に純粋に羨ましいと伝える。

「でしょー?
で、そこでさ、おばあちゃんが出してくれる料理とかめちゃくちゃ美味しいわけよ。」

 海苔の佃煮とか、茄子の浅漬けとかさ、とベラベラ喋る隣の女にそうか、と適当に返事をしながらテレビのリモコンを適当に操作する。

「ちょっと!ちゃんと聞いてよー」
「聞いてる聞いてる」
「でね、気が付いたらもう一人私と同い年くらいの女の子がいたんだよねー」

 反応が薄いのにも関わらず、ソイツはまだ話すのをやめない。

「でもね、私はその子のこと全然知らないの。
普通従兄弟だろうがなんだろうが親戚だったら歳の近い子って知ってるはずじゃない?」
「普通かどうかは分からないが、知らない場合もあるんじゃないのか?」
「えー?親戚で知らない子なんていないよー」

 ソイツは何が面白いのか、一人でケラケラと笑っていた。

「ま、いいや。
でその女の子のこと、私は知らないのにおばちゃんとかおばあちゃんとか普通に話してるんだよ」

 ピロン、とメッセージアプリの通知音が鳴った。

「で、その女の子のことおばちゃんとかおばあちゃんに誰?って聞いても答えてくれないの。」

 隣の女は更に抱きついてくる。

「しかも私が話しかけても無表情なんだよー」

 怖くない?ちょっとホラーだよね!という。
 抱きついてくる腕が少しだけキツくなってくる。

「おい、いい加減離せ。」

 ピロンと2回目の通知音。
そ れを開こうとスマホに手を伸ばすと、ソイツが手を重ねて邪魔をする。






「ねえぇぇえ?百ぅ。
怖くないぃ…?」


 目の前の女が、知っている顔のはずの女が、どんどん別の知らない顔になっていく。
 声もどんどん知らない声になっている。
 いや、そもそも俺はこんな女を知らない。



****



 ガチャと玄関のドアが開いてパタパタと足音がする。

「あれ?百いるじゃん!」

 何回も連絡したのになんでメッセージ見てくれないの?と怒る〇〇が目の前に来たところでようやく我に返った。
 はっと隣を見るとそこに転がっていたはずのロング缶は無く、俺が飲んでいるビール缶がポツンとテーブルの上で汗をかいていた。
「夢野、か…?」
「なに?寝起き?」
「いや。」

 歯切れの悪い俺に何を感じたのかは分からないが、バンバンと肩を叩いて笑い飛ばした。

「この休み中外に出ない生活してるか白昼夢でも見たんじゃない?」
「もう夜だがな」
「そうだねー」

でもソレは夢だよ、という彼女の目はやけに強かった。

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