守ってくれる人

 お偉いさんが並ぶ中、私みたいな小娘が同等に並んでいるのは非常に場違いだと思う。
 本来なら辞退するべきその場所は、父の講演会ということもあり、それは不可能だった。
 本来なら家でもっとだらだらしていたいやつなんだと心の中で泣きながら、話しかけてくる方々に笑顔で挨拶をする。
 チラリと後ろを見ると黒いスーツがよく似合う男の人達が3人。会場の入り口を見るとそこにも同じような人達が2人ほど見えた。
 きっと見えないだけで他にも何人か居るはずだ。

「お嬢さんが気になさらなくても我々がお守りしますから大丈夫ですよ。」

 そう言ったのは隣のダンディなおじさまだ。確か鶴見さん、と名乗っていたような気がする。



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 事の発端は家に届いた脅迫文めいた手紙だ。
 要約すれば、辞退しないと襲っちゃうぞ☆ってやつ。
 こういう文は何回も送られてきたことがあるものだから、父も慌てることなくどこかに電話した。そしてやってきたのがこの人、鶴見さんだったというわけだ。
 その時はただ依頼を確認しにきただけだからか、連れは一人だけだった。
 黒目が大きい、猫みたいな人。それが彼の第一印象。

「尾形百之助と申します。」

 刈り上げにオールバック、そして整った顔。
 黒いスーツを嫌味なく着こなしている。
 SPとしては目立ってしまうのではないか、と思うその容姿にビックリしたものだった。

「よろしくお願いします。」

 警護をしてくれるということなので、私も猫を被ってそこら辺のご令嬢っぽくお辞儀をする。
 しかしその尾形さんはチラリと見ただけで何も言わずにスタスタと何処かへ消えてしまった。

「彼のことは気にせんでください。ああ見えても優秀なので。」

 鶴見さんはそう言ったが依頼人の事を無視ってどういうこと!?とこの時の私は思っていた。



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 話を戻そう。
 あんな態度を取っていた尾形さんがこの講演会場の何処にいるのか気になっていた。
 パッと見渡してみたけれどそれっぽい人は居ない。
 それともあれか、あの時の態度が悪くて今回は外されたか?とも考えたのだが、どうやらそうでもないらしい。
 SP同士で情報を交換しているらしく、何かをそこから情報が流れたらしく口に手を当てながら、百之助後で殺す!って小声で怒鳴っている人がいた。

 ……怖いね。

 ちなみにその人は宇佐美さんというらしい。
 そんなこんなで作り笑顔をしながら過ごし、催し物もそろそろ終わりに差し掛かろうとしていた時だった。

「〜〜っ、〜〜」

 1人の男の人が何か小声でブツブツと言いながらこちらに近付いてきた。
 そして勢いよく手に持っていた刃物で斬りかかろうとしてきたのである。

 よくあるシーンだ。

 しかし本当に危険を感じた時、私のようなただの人に何か出来るわけもなく、あーこれ死ぬやつだ、とただそれだけを考えた。

 パンっ!!

「うっ!」
「下がって!」

 ようやく周りの音が聞こえるようになった頃にはキャーキャーと周りの人たちの叫んでいた。そしてそのまま慌てて会場の外へと逃げ出している。
 出口を見ると入り口にいた黒スーツの人たちが外へと誘導しているようだった。

 私はというと、その男に斬りつけられる直前、後ろに引っ張られたお陰でどこも怪我をしていなかった。
 きっと後ろにいた宇佐美さんが引っ張ってくれたのだろう。
 男は耳から血を流し、痛みで悶えている様子だった。
 どうやら最初に聞こえた発砲音は彼の右耳を掠ったようだった。

「随分冷静だなぁ」
「お、がたさん…」

 何処から現れたのかは分からないが、尾形さんの手には小型の銃が握られていた。
 間違いない。彼が刃物男を打ったのだろう。

「怪我はないか?」
「……ないです。」

 座り込んでいた私に合わせるためか、尾形さん自身もしゃがんで私の手や足を軽く触り、怪我をしていないかを確認した。
 その背後では、大勢の人が急いで刃物男を取り押さえていたのが見える。

「こらー百之助!お前、この人に弾が当たってたかもしれないんだぞ!」
「え?」
「当たってなかったじゃねーか。」
「それは僕が後ろに引っ張ったからだろうが!」

 それはつまり、あのままだったら刃物男もろともやられていたかもしれない、と。

「しかもお前、発砲なんてしやがって!」
「大丈夫だ、死なないように威嚇しただけだ。」

 何が大丈夫だ!威嚇だ!こっちは死を覚悟したんだぞ!
 そう思ったら勝手に身体が動いた。

「うっ」

 まさかこんな女からボディブローを食らうとは思わなかったらしい。
 流石に鍛えているだけあってあまり深くまでは入らなかったが、不意打ちだったのもあって少しはダメージがあったらしい。

「なんですか、SPだからって何しても良い訳じゃ無いんですよ!このアホが!犯人確保より依頼人の安全を守れ、バカ!」

 怒りのままに一気に捲し立てた私に、周りの人達は一瞬ポカンとした。

 そした宇佐美さんが爆笑した。

「あははっ百之助、めっちゃやられてやんの!」
「黙れ」

 そんな言葉で冷静なり、辺りを見回したがもう遅い。
 周りの黒スーツの人たちは目を丸くして私たちのことを見ていた。



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 その後の話をしよう。

 今では尾形さんは私専属のSPとなった。
 いくつかの事件を共に過ごすのだが、あまりの頻度に見兼ねた父が彼を私専属のSPとして雇ったのだ。
 どうしてこうなった、と思わないでもないがあれ以来必ず側で守ってくれている。
 何かあった時はこの人の背中にいれば安心だ、とまで思えるようになった私はチョロいのかもしれない。

「ははぁ、巻き込まれやすい体質というやつですかな?」
「尾形さん、それ嫌味?」
「分かってんじゃねーか。」

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