何度でも言うよ

 何度、「好きだよ」と言っても、尾形はいつも同じ答えを返すだけだった。

「そうか」

 その一言に、何度も心を傷つけられた。尾形が冷たく無関心だということは分かっている。それでも一緒にいる限りは、この関係に期待してしまう自分が嫌だった。それは本当に愛されているのかどうかも分からないまま、答えのない日々に甘んじている自分への不満でもあった。

 ある日、私はついに我慢できずに杉元くんに相談をすることにした。尾形と杉元くんはよく言い合っている。人と距離をとる尾形がそんな言い合う相手ならと、勇気を出して悩みを打ち明けると、杉元くんは驚きながらも、優しく耳を傾けてくれた。

「尾形のやつ、ほんとに言葉が足りねえよな。夢野さんがどんだけ悩んでるか、まるで気づいてねぇんだろうな」

 おしゃれな夜のカフェ。そんな中、肘をつきながら答える杉元くんは、それはそれは笑顔で「大丈夫だ」と声をかけてくれた。その瞬間、少し心が軽くなる気がして、少しだけ微笑み返した。

 そのときだった。

 ふと気配を感じて振り返ると、尾形がこちらを見ていた。いつもの無表情ではなく、どこか険しい瞳で彼女を睨みつけている。

 その尾形のただならぬ様子に、慌てて外に出て声をかける。

「……杉元と楽しそうだな」

 冷たい声音に、思わず息をのんだ。尾形の表情には、初めて見る嫉妬の色が宿っていた。

「いや、そうじゃなくて……。ただ相談をしていただけだよ。」

 夢主が慌てて弁解するも、尾形はそれを聞こうとせず、冷たい声で突き放した。

「なら、俺に相談すればいい。俺以外の男にニコニコ愛想振りまくなんざ、いい趣味だな」

 その理不尽な態度と言い分に、沸々と怒りが湧いて来た。
 なんでこんなことを言われなければいけないのだろう。今までどんなに冷たくされても我慢してきた。けれど、尾形にここまで不当な言葉を投げつけられるいわれはない。

「もう、……ない。」
「あ?」
「、なんで杉元くんと会ってたのかなんて知らないくせに!……尾形なんか、もう好きじゃない!」

 思わずそう言い捨てて、ハッとした。言ってしまった言葉は取り戻せない。その事実に気付き、足元から冷えていく。ボロボロと何かが崩れている気がして、慌ててその場から駆け出した。

 尾形は引き留めようとはしなかった。私も振り返らなかった。だから尾形がどんな顔をしているのかなんて知る由もなかった。

 ああ見えて繊細な尾形が、自分の言葉にどれほど尾形が傷つくかも分かっていた。だが、それ以上に今はもう、これ以上尾形に振り回されたくなかった。

 冷たい夜風が頬を打つ。

 いつの間にか涙がこぼれていた。愛されたい、ただそれだけだったのに。

「っ……、ぅっ……」

 夜とはいえ、泣きながら走っている女なんて、他の人からしたらさぞ奇妙なものに映っていることだろう。けれど溢れ出てしまった想いは止めることは出来ない。
 はぁはぁと息を整え、ようやく冷静になれた場所は、先ほどの場所からだいぶ離れた所だった。ここなら誰も見ていない。
 思いっきり泣いてやろう。そう思った時だった。背後から足音が響いた。
 振り返ると、息を切らした尾形がいた。どうやら私を追いかけてきたようで、急いで逃げようとするが、それは叶わなかった。
 尾形が腕を強く掴んで離してくれなかったから。

「本気で、俺のことが、もう好きじゃないのか?」

 尾形の問いかけに、驚き、そして言葉を失った。いつもの冷静な彼とは違い、その顔には焦りと切なさが浮かんでいる。

「……お前が好きだ。」

 尾形は絞り出すように言葉を口にした。静かで、そして不器用な告白だったが、その一言は私の心にじんわりと沁み込んだ。

 しかし、それでも足りない。
 その気持ちが本物だという証が欲しい。

 言葉にできない思いで私はじっと尾形を見つめた。尾形はそんな私の様子に気づくと、真剣な表情で私を見返した。
 そして息を整え、少し声を震わせながら、低い声でこう続けた。

「……夢子、愛してる。」

 その言葉が、静かに夜の空気に溶けていく。
 尾形の瞳には、初めて見るほどの真摯な感情が宿っていた。
 尾形のその一言に全てが救われるような気がして、涙がまた頬を伝った。

 尾形は私の溢れ出た涙を指でそっと拭い、そしてしっかりと抱きしめてくれた。
 冷たい風が二人を包み込みながらも、彼の体温が心まで温めてくれるようだった。

「もう、絶対に逃げるな」

 尾形の言葉に、小さくうなずきながら、彼の腕の中でそっと目を閉じた。

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