甘いものが好きな君。
尾形くんとは別段仲がいいという訳ではない。
しかし運悪く予想外の雨に降られ、しかもお互い傘を持っていないということで、致し方なく、それはもう本当に致し方なく近くにあったカフェに急いで入ることになった。
今日が雨でなければ、そしてこんなに寒くなければ、今頃はとっくに分かれてそれぞれの家についていただろう。しかし残念ながら今、カフェの温かな照明が私たちを包み、窓の外にはしとしとと雨が落ちている。
全く止む気配がないその雨に気まずくて、何か話さなければと頭の中で必死に考えるが、普段尾形と会う時は必ず誰かしらがいたので、どんな話をしたらいいのか全く分からなかった。
「……ここ、アシリパが言ってたが、何でも美味しいらしいな」
顔にこそ出さないが混乱している私とは裏腹に、尾形くんはいつも通りクールだ。……服に僅かに着いた雨を手で払いながら、メニューを眺めている。
私もそれに倣ってメニューからスイーツを探しているふりをする。しかしこっそり視線を上げて尾形くんの様子を伺う。
黙っていれば尾形くんの端正な顔立ちと落ち着いた雰囲気は、かっこいい男の人そのもの。こんな人といつも一緒にいたのかと認識してしまったが最後、少しだけ心拍数が早くなる。
……だからだろう。
尾形くんに少しでも魅力のある女として映っていたくて、いつもなら絶対にしないであろう、いかにも女の子っぽい発言をしてしまった。
「……生クリームたっぷりのケーキ、美味しそう。頼もうかな。」
つい口にしたメニューは、「女の子らしい」甘さたっぷりのケーキ。だがそれは私が最も苦手としているものだった。
(なんで私こんなの美味しそうって言っちゃったのよ……。絶対食べられないじゃん!コーヒーだけで良かったのに!!)
尾形くんは当然そんな私の心の葛藤なんていざ知らず、表情を変えずに店員さんを呼び止め、コーヒーを二つと私が口にしたケーキを注文した。
しばらくするとコーヒーの良い香りがして、オーダーしたものが運ばれて来た。尾形くんはそのコーヒーを一口含んだ。その時、僅かに眉を顰めた気がした。もしかして熱かった?
「もしかして熱かった?尾形くん。」
その様子に少しの違和感を感じながら、けれど美味しそうなコーヒーの香りに、思わず味の感想を尋ねると、尾形くんは「まあ、……美味い。」と短く答えた。
しかしその表情はどこかぎこちなく、目を細めて何かに耐えているように見えた。不思議に思いながら、ケーキを一口運んだが、生クリームの重たさがどうしても喉を通らず、ふと口を噤んでしまった。
ふと視線を感じ、尾形くんの方を見ると、私の手元をジッと見ていた。
(流石に不自然だったかな、尾形くん、鋭そうだし、本当のことバレちゃってるかも。)
これ以上嘘をつくのは難しいと感じて、私は素直に白状した。
「あの……私、生クリームが苦手で……だから実はこのケーキ、食べれそうになくて……。」
ゴニョゴニョと視線を落としてそう言うと、尾形は一瞬驚いたように目を見開き、次の瞬間、思わず小さく笑った。
「え?」
「すまん。お前もかと思っただけだ。……実は俺も、ブラックコーヒーは苦手でな。甘いものが好きなんだ。」
その言葉に、思わず目を丸くしてしまった。尾形くんが、あのクールな尾形くんがまさか甘いものを好むだなんて!
そんな想像もしていなかったからだ。
「それなら、それなら早く言ってくれたらよかったのに!尾形くんモテそうだから、合わせないとって思ってたのに……。」
「そっちこそ、女の子らしいケーキ頼んでたから、てっきりそういうのが好きだと思ってたぞ。」
そう言い合った後、私たちはお互いに顔を見合わせて、ふっと笑い合った。隠していた自分の本当の姿が、今初めてお互いに見せられた気がした。
気恥ずかしいような、でも心が温かく満たされるような感覚に包まれる。
「次は……お互い好きなもの、頼みましょ?」
夢主が小さくそう呟くと、尾形くんは少し照れたように頷いた。
「そうだな。それがいい。次は、そうだな……、俺は甘いパフェを頼むよ。」
尾形くんの意外な言葉に、思わず吹き出してしまう。ここまでいきなり素直になるとは思わなかった。
その瞬間、心の中で何かが少しだけ変わったことを感じた。
次の約束を交わした二人の間に、静かに淡い恋の始まりが訪れていた。
しかし運悪く予想外の雨に降られ、しかもお互い傘を持っていないということで、致し方なく、それはもう本当に致し方なく近くにあったカフェに急いで入ることになった。
今日が雨でなければ、そしてこんなに寒くなければ、今頃はとっくに分かれてそれぞれの家についていただろう。しかし残念ながら今、カフェの温かな照明が私たちを包み、窓の外にはしとしとと雨が落ちている。
全く止む気配がないその雨に気まずくて、何か話さなければと頭の中で必死に考えるが、普段尾形と会う時は必ず誰かしらがいたので、どんな話をしたらいいのか全く分からなかった。
「……ここ、アシリパが言ってたが、何でも美味しいらしいな」
顔にこそ出さないが混乱している私とは裏腹に、尾形くんはいつも通りクールだ。……服に僅かに着いた雨を手で払いながら、メニューを眺めている。
私もそれに倣ってメニューからスイーツを探しているふりをする。しかしこっそり視線を上げて尾形くんの様子を伺う。
黙っていれば尾形くんの端正な顔立ちと落ち着いた雰囲気は、かっこいい男の人そのもの。こんな人といつも一緒にいたのかと認識してしまったが最後、少しだけ心拍数が早くなる。
……だからだろう。
尾形くんに少しでも魅力のある女として映っていたくて、いつもなら絶対にしないであろう、いかにも女の子っぽい発言をしてしまった。
「……生クリームたっぷりのケーキ、美味しそう。頼もうかな。」
つい口にしたメニューは、「女の子らしい」甘さたっぷりのケーキ。だがそれは私が最も苦手としているものだった。
(なんで私こんなの美味しそうって言っちゃったのよ……。絶対食べられないじゃん!コーヒーだけで良かったのに!!)
尾形くんは当然そんな私の心の葛藤なんていざ知らず、表情を変えずに店員さんを呼び止め、コーヒーを二つと私が口にしたケーキを注文した。
しばらくするとコーヒーの良い香りがして、オーダーしたものが運ばれて来た。尾形くんはそのコーヒーを一口含んだ。その時、僅かに眉を顰めた気がした。もしかして熱かった?
「もしかして熱かった?尾形くん。」
その様子に少しの違和感を感じながら、けれど美味しそうなコーヒーの香りに、思わず味の感想を尋ねると、尾形くんは「まあ、……美味い。」と短く答えた。
しかしその表情はどこかぎこちなく、目を細めて何かに耐えているように見えた。不思議に思いながら、ケーキを一口運んだが、生クリームの重たさがどうしても喉を通らず、ふと口を噤んでしまった。
ふと視線を感じ、尾形くんの方を見ると、私の手元をジッと見ていた。
(流石に不自然だったかな、尾形くん、鋭そうだし、本当のことバレちゃってるかも。)
これ以上嘘をつくのは難しいと感じて、私は素直に白状した。
「あの……私、生クリームが苦手で……だから実はこのケーキ、食べれそうになくて……。」
ゴニョゴニョと視線を落としてそう言うと、尾形は一瞬驚いたように目を見開き、次の瞬間、思わず小さく笑った。
「え?」
「すまん。お前もかと思っただけだ。……実は俺も、ブラックコーヒーは苦手でな。甘いものが好きなんだ。」
その言葉に、思わず目を丸くしてしまった。尾形くんが、あのクールな尾形くんがまさか甘いものを好むだなんて!
そんな想像もしていなかったからだ。
「それなら、それなら早く言ってくれたらよかったのに!尾形くんモテそうだから、合わせないとって思ってたのに……。」
「そっちこそ、女の子らしいケーキ頼んでたから、てっきりそういうのが好きだと思ってたぞ。」
そう言い合った後、私たちはお互いに顔を見合わせて、ふっと笑い合った。隠していた自分の本当の姿が、今初めてお互いに見せられた気がした。
気恥ずかしいような、でも心が温かく満たされるような感覚に包まれる。
「次は……お互い好きなもの、頼みましょ?」
夢主が小さくそう呟くと、尾形くんは少し照れたように頷いた。
「そうだな。それがいい。次は、そうだな……、俺は甘いパフェを頼むよ。」
尾形くんの意外な言葉に、思わず吹き出してしまう。ここまでいきなり素直になるとは思わなかった。
その瞬間、心の中で何かが少しだけ変わったことを感じた。
次の約束を交わした二人の間に、静かに淡い恋の始まりが訪れていた。