1/15

 映画デートだからと、いつもよりオシャレをして待ち合わせ場所まで行く。

 今回は私の方が早かったようで、スマホを弄りながら待っていたら尾形がやってきた。
 マスクをして見えている部分は僅かなのに、カッコいい雰囲気がダダ漏れているから、思わずウッと胸を押さえて悶えてしまった。

 当然尾形には、何やってんだという顔をされた。その顔が憎らしくて悔しくて、尾形がかっこいいから悶えたのだと素直に伝えると、ハンっと馬鹿にされたけれど、耳がほんのり赤くなっていたことに気付いた。
 うん、良しとしよう。
 素直ではない尾形にクスリと小さく笑い、手を取り映画館へと向かった。



****



「ポップコーンは塩でいいか?」
「うん。飲み物は?」
「アイスコーヒー。」
「じゃあそれ二つだね。」

 映画館で観る映画の良いところは大画面での迫力はもちろん、こういう食べ物のワクワク感があるところだと思う。
 家で映画を観たときに同じようにポップコーンと飲み物を用意したけれど、何だか違った。やはりこの大きなバケツ型のポップコーンでなければ出せない雰囲気がいい。

「スクリーン七だって。」
「ん。」

 チケットを受付で見せ、案内されたスクリーンへ向かう時もレッドカーペットを歩いているかのような気分になる。

「おまえ、本当、映画館好きだよな。」
「ん?好きって言ったことあったっけ?」
「いや、何となく。いつもより浮かれてる感じがする。」
「うそ、やだ。恥ずかしい……」

 顔に出していないつもりだったが、尾形にはバレていたらしい。
 そんなにはしゃいでいただろうか。

「周りの奴らは分からないだろうな。」
「そう?」
「そう。」

 短く返事した尾形は何だか上機嫌だった。



****



 楽しかったねー、と言いながら思いっきり伸びをした。飲み物とポップコーンの器をゴミ捨てに捨てて、じゃあ次はどこへ行こうか、という話になった。
 この後の予定は何も決めていなかったから、適当にブラブラしようと決め、気になるお店を見かけたら入ることにした。

「そういえば本当に誕生日プレゼント要らないの?」
「お前が祝ってくれるのがプレゼントだって言っただろうが。」

 多分尾形は素直に思っていることを言っただけに過ぎないが、すごくキザで嬉しいことを言われたようで体温が急上昇してしまう。

「あ、待って。ここ見たい。」

 そんな恥ずかしさを誤魔化すかのように、前から気になっていたお店に入ってもいいかと尾形に尋ねる。
 もちろんだと尾形は首を縦に振り、入り口のドアを開けてくれた。ありがとうとお礼を言ってから中に入ると一気に紙とインクの香りが広がった。

「ここは?」
「文房具のお店。仕事で使ってるペンが壊れちゃったから新しいの買おうと思って。どうせなら万年筆に変えようかなとかも考え中。」

 この店は品揃えはもちろん、オリジナルのインクを作れたり、自分だけのノートも作れたり、遊びがあって面白いお店で私のお気に入りだ。
 万年筆コーナーでじっくり見ていると、尾形もまじまじと見ていた。どうやら興味を持ってくれたようだったので、二人して試し書きをさせてもらった。
 残念ながらインク作りの方は人気らしく、オリジナルノートを作って終わった。今度は予約して来てみようというと尾形が珍しく乗り気で頷いた。

 結局当初の予定だったペンはこれと言ってピンとくるものがなく、買うのを諦め、店を後にした。
 それでもいい買い物をしたと、先ほど買ったノートの入った袋を大事に持っていると、尾形がそれとは反対の手を握ってきた。

「今日は家くる、か?」

 途中お昼も食べたりしたので、今は結構良い時間だ。

「今から行ったら帰れなくなっちゃいそう。」
「……それは、そうだな。」
「素直〜、じゃあ行かない。」

 そうキッパリ断った私に、そんなの想定内だと言わんばかりの尾形が握った手をさらにギュッと握って離さない。

「離して〜」
「家に行くって言ったらな。」

 どっちにしても離さないつもりじゃん、と言うと尾形はハハッと笑って髪を撫で付けた。


 尾形のお誕生日まであと残り七日。

HOME