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「昨日はお楽しみだったようで。」
「は?」

 自販機で飲み物を買っていた時、後ろからやってきた宇佐美に言われた言葉に、思わず声が低くなる。
 そんな私の様子を怖い怖いと揶揄いながら、首をトントンと指で叩く。

「跡」
「あー……」

 結局あの後、散々良いようにされ、帰るのがだいぶ遅くなってしまった。
 家に帰ってシャワーを浴びる時、鏡で身体を見るとあちこち歯形だらけでビックリした。バレると色々めんどくさいからと今日は髪も下ろして、タートルネックで来たのに、どうやら目敏いこの男には分かってしまったらしい。

 何飲みたいの?と口止め料代わりに聞くと、わざとらしいくらいキャピキャピしながらブラックコーヒーのボタンを押した。

「ってか次の日が月曜日って分かってる上でソレってどんだけなの、百之助。」

 そんな下世話なことを言われても、さぁ?と笑って流す。
 昔はそんなこと言われたらすぐに恥ずかしくなって顔を赤くしたものだったが、今では軽く受け流せるようになった。……それだけ歳を取ったということか。

「てか今週末あいつ誕生日でしょ?」
「誕生日、なんだよなぁ……」
「ん?何々?なんか不満でもあるの?」

 ワクワクしながら聞いてきた宇佐美に、違う違うと否定する。

「不満なんてものは、これっぽっちもないんだよ。むしろその逆で、年々尾形のことを好きになっていくから怖い。もし別れるなんて事になった時、私どうなっちゃうんだろうね。下手したら死んじゃうんじゃないかな。考えただけでもゾッとする。」

 そうペラペラと息継ぎもろくにせずに語り始めた私に、宇佐美はうぇと舌を出して辟易した顔をした。

「あー、はいはい。惚気ないでくださーい。」
「惚気てなんてない」

 これ以上聞かされたら午後の仕事に支障がきたすから退散しよっとと、手をひらひらとさせて宇佐美は去っていった。



 全く、百之助もあいつも同じ事、僕に語りやがって。
 僕はサンドバッグじゃないんだ。と怒り狂いながら通路を闊歩していた宇佐美がいたことを私も尾形も知らない。


 尾形のお誕生日まであと残り六日。

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