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気がついた時にはソレが家に住み着いていた。
猫のようにも見えるソレは可愛らしく首を傾げながらぷみゅと鳴いた。
フォゼと世間一般では呼ばれているソイツがいつから住み着いたのか覚えていない。気が付いたら当然のように家にいたし、外にポイと放り出したのに知らない間に家に戻ってきた。
何回もそうやって繰り返し家を追い出そうとするのだが、その度に戻ってきてしまうものだからもはや諦めるしかなく家に住まわせている。
「おい、いいか。」
「み。」
「あちこち暴れ回るんじゃねーぞ。」
「ぷみゅ」
まるで言葉が通じているみたいにこちらが何か話す度に耳をピクピクと動かすし、相槌も打つ。試しに危ない所を伝えるとそこには絶対に近付かなかった。
……思った以上に賢い生き物らしい。
そんなやつだがやはり動物は動物。本能には抗えないらしい。
外をヒラヒラと飛ぶ蝶を捕まえようとしたらしくテーブルからジャンプし、そして失敗して盛大に顔面から落ちた。
「ぶにっ」
はじめは何の音だと思ったが、鼻を赤くして足に擦り寄ってきた様子にすぐさま理解した。
「お前、こんな時は泣いていいんだぞ」
目に涙を溜めて堪えてるフォゼの頭をよしよしと撫でると途端にポロポロと水滴がこぼれ落ちた。
「にゃ〜……」
撫でていた手にスリスリと擦り寄ってくる様子に不覚にも可愛いじゃねーかと思ってしまった。
****
「なんか最近の百之助、付き合い悪くなーい?」
「そうか?」
「ぜーったいそうだって!」
昼休み、いつものように喫煙所で時間を潰していると宇佐美に絡まれた。
(めんどくせーな……)
「あ、今めんどくさーな、って思っただろう?」
ご丁寧に頭を撫で付ける動きまで真似してくるコイツは、腐れ縁と言ってはなんだが高校から何かと一緒に行動することが多く、少し前まで派手に遊んでいた。
「ま、いいけど。最近百之助飲みに誘っても断るし、しかも定時に帰るじゃん?」
悔しいけどお前が一緒にいると女の子に声かけられる率高いんだよ、とゲスい発言をしてくる。
「くだらねー……」
「とか言っちゃって、この前まですぐ女の子と消えたりしてたじゃん♪」
まあ俺も似たようなもんかと煙を吐き出しながら過去の自分の行動を思い起こす。
「……ま、たまに食ってたな。」
「でしょー!なのに最近どうしたのよ、お前。」
「別にどうしたもこうもねぇよ。」
「本当〜?」
好きな子でも出来たんじゃないの?と揶揄ってくる宇佐美に付き合っていられなくなり、舌打ちして喫煙所を後にする。
「あ、逃げんなよ。」
後ろから聞こえる声を無視し仕事へと戻った。
****
「帰ったぞ」
「み。」
トトトトと小走りにやってきて俺を出迎える。ネクタイを緩めながらフォゼの頭をワシワシと撫でてやる。
あの後戻ったら仕事が途端に忙しくなり、残業でこんな時間になってしまった。
「飯は食ったか?」
「に。」
「今日は窓に顔ぶつけなかったか?」
「ぷ」
「そうか。」
家に帰ると速攻シャワーを浴び、ビールを空けて寝るだけだったが、今ではフォゼがいるからか、いくらか健康的な生活を送っていた。
お陰で目の下の隈はいくらか薄くなったし、前より疲れにくくなった気がする。
「やっぱりお前、女が出来ただろう」
「またその話か。出来てない。」
昼休み、またしてもウザ絡みをしてくる宇佐美に、はぁとため息をつきながら返す。ついでに何を言ってるんだコイツは、という侮蔑の眼差しもセットにして。
「誘いは相変わらず断るし、かと言って遊んでる形跡もないし。」
「うるせーな、大声で言うことじゃねぇ。」
そもそも会社でそんな話するんじゃないと頭を引っ叩こうとしたその時だった。
角から出てきた女に気付けず思いっきりぶつかってしまった。
「きゃ!」
そんな衝撃で倒れるほど柔ではない。むしろ心配なのは相手の方。反動で女の方が後ろへとよろめいたのが見えた。
咄嗟に腕をとって自分の方へと引き寄せ、倒れないようにした。
「……わりぃ」
「いえ、こちらもよく見てなかったので……。」
失礼しました、と深々と謝られてしまった。
「あ、」
「?」
「その、リップが少しついてしまったようで……弁償しますので部署とお名前を教えていただいても?」
「あ?」
見ると確かにぶつかったところにほんのりとオレンジに近い赤がついていた。
「……あぁ、気にしなくていい。」
「でも、」
色々と面倒臭そうな気配を感じて、これ以上かかわる気はないという意味も込めてヒラヒラと手を振りその場を後にした。
「今の人、夢野さんじゃん?」
「知り合いか?」
「いや、最近入った中途の子。」
「なんでお前が知ってんだよ」
「え?そりゃ情報は早めに仕入れとかないと。」
さすが情報通というか何というか。曰く、先ほどの女はつい先月総務に入ったばかりのヤツらしい。その気立の良さで周りからは良い印象を受けているとのことだ。
「しかも仕事は早いし、丁寧らしいよ。」
「ほー、菊田さんたまには良い仕事するじゃねえか。」
「本当それ。」
話題はここにはいない人事の菊田の話に切り替わり、既にその女の事は頭の片隅にも残っていなかった。
猫のようにも見えるソレは可愛らしく首を傾げながらぷみゅと鳴いた。
フォゼと世間一般では呼ばれているソイツがいつから住み着いたのか覚えていない。気が付いたら当然のように家にいたし、外にポイと放り出したのに知らない間に家に戻ってきた。
何回もそうやって繰り返し家を追い出そうとするのだが、その度に戻ってきてしまうものだからもはや諦めるしかなく家に住まわせている。
「おい、いいか。」
「み。」
「あちこち暴れ回るんじゃねーぞ。」
「ぷみゅ」
まるで言葉が通じているみたいにこちらが何か話す度に耳をピクピクと動かすし、相槌も打つ。試しに危ない所を伝えるとそこには絶対に近付かなかった。
……思った以上に賢い生き物らしい。
そんなやつだがやはり動物は動物。本能には抗えないらしい。
外をヒラヒラと飛ぶ蝶を捕まえようとしたらしくテーブルからジャンプし、そして失敗して盛大に顔面から落ちた。
「ぶにっ」
はじめは何の音だと思ったが、鼻を赤くして足に擦り寄ってきた様子にすぐさま理解した。
「お前、こんな時は泣いていいんだぞ」
目に涙を溜めて堪えてるフォゼの頭をよしよしと撫でると途端にポロポロと水滴がこぼれ落ちた。
「にゃ〜……」
撫でていた手にスリスリと擦り寄ってくる様子に不覚にも可愛いじゃねーかと思ってしまった。
****
「なんか最近の百之助、付き合い悪くなーい?」
「そうか?」
「ぜーったいそうだって!」
昼休み、いつものように喫煙所で時間を潰していると宇佐美に絡まれた。
(めんどくせーな……)
「あ、今めんどくさーな、って思っただろう?」
ご丁寧に頭を撫で付ける動きまで真似してくるコイツは、腐れ縁と言ってはなんだが高校から何かと一緒に行動することが多く、少し前まで派手に遊んでいた。
「ま、いいけど。最近百之助飲みに誘っても断るし、しかも定時に帰るじゃん?」
悔しいけどお前が一緒にいると女の子に声かけられる率高いんだよ、とゲスい発言をしてくる。
「くだらねー……」
「とか言っちゃって、この前まですぐ女の子と消えたりしてたじゃん♪」
まあ俺も似たようなもんかと煙を吐き出しながら過去の自分の行動を思い起こす。
「……ま、たまに食ってたな。」
「でしょー!なのに最近どうしたのよ、お前。」
「別にどうしたもこうもねぇよ。」
「本当〜?」
好きな子でも出来たんじゃないの?と揶揄ってくる宇佐美に付き合っていられなくなり、舌打ちして喫煙所を後にする。
「あ、逃げんなよ。」
後ろから聞こえる声を無視し仕事へと戻った。
****
「帰ったぞ」
「み。」
トトトトと小走りにやってきて俺を出迎える。ネクタイを緩めながらフォゼの頭をワシワシと撫でてやる。
あの後戻ったら仕事が途端に忙しくなり、残業でこんな時間になってしまった。
「飯は食ったか?」
「に。」
「今日は窓に顔ぶつけなかったか?」
「ぷ」
「そうか。」
家に帰ると速攻シャワーを浴び、ビールを空けて寝るだけだったが、今ではフォゼがいるからか、いくらか健康的な生活を送っていた。
お陰で目の下の隈はいくらか薄くなったし、前より疲れにくくなった気がする。
「やっぱりお前、女が出来ただろう」
「またその話か。出来てない。」
昼休み、またしてもウザ絡みをしてくる宇佐美に、はぁとため息をつきながら返す。ついでに何を言ってるんだコイツは、という侮蔑の眼差しもセットにして。
「誘いは相変わらず断るし、かと言って遊んでる形跡もないし。」
「うるせーな、大声で言うことじゃねぇ。」
そもそも会社でそんな話するんじゃないと頭を引っ叩こうとしたその時だった。
角から出てきた女に気付けず思いっきりぶつかってしまった。
「きゃ!」
そんな衝撃で倒れるほど柔ではない。むしろ心配なのは相手の方。反動で女の方が後ろへとよろめいたのが見えた。
咄嗟に腕をとって自分の方へと引き寄せ、倒れないようにした。
「……わりぃ」
「いえ、こちらもよく見てなかったので……。」
失礼しました、と深々と謝られてしまった。
「あ、」
「?」
「その、リップが少しついてしまったようで……弁償しますので部署とお名前を教えていただいても?」
「あ?」
見ると確かにぶつかったところにほんのりとオレンジに近い赤がついていた。
「……あぁ、気にしなくていい。」
「でも、」
色々と面倒臭そうな気配を感じて、これ以上かかわる気はないという意味も込めてヒラヒラと手を振りその場を後にした。
「今の人、夢野さんじゃん?」
「知り合いか?」
「いや、最近入った中途の子。」
「なんでお前が知ってんだよ」
「え?そりゃ情報は早めに仕入れとかないと。」
さすが情報通というか何というか。曰く、先ほどの女はつい先月総務に入ったばかりのヤツらしい。その気立の良さで周りからは良い印象を受けているとのことだ。
「しかも仕事は早いし、丁寧らしいよ。」
「ほー、菊田さんたまには良い仕事するじゃねえか。」
「本当それ。」
話題はここにはいない人事の菊田の話に切り替わり、既にその女の事は頭の片隅にも残っていなかった。