金曜日。
先日行ったプレゼンの結果がメールで返ってきた。
結果は悪くない、だ。
要約すると他の良い案かあり、そちらを採用すると言うこと。今回はダメだったけれど次も頑張ってほしいといった内容だった。
初めてのプレゼンだった訳だから採用されるとは思っていなかった。
けれどこうして文章で突きつけられるとやはり辛い。
「菊田さん、結果返ってきました。」
「うん?どうだった?」
「ダメでした〜。」
頑張ったんですけどやっぱり経験が浅いからか深く掘り下げられていない箇所も多々あった。
他の人のプレゼンを見た時、そう思ったのも事実。
何で私はそこまで出来なかったんだろうと悔しさが今になって出てきた。
「そうか、そうか。でもお前さん、今回の事で色々気付けたんだろ?」
「はい。」
「じゃあ次はもっと良いもん出来るな。」
「うー、はい!」
こういう時、この人の大人の余裕ってやつなのだろうか。次も頑張ろうと思わせてくれる何かがある。
「じゃ、とりあえずこの資料まとめてくれるか?」
「はい。……ってこれは菊田さんの仕事じゃないですか!」
「はは、バレちまったか」
もう、と資料を突き返して私も自分の仕事をし始める。
まだ悔しい気持ちはあるが、さっきよりも少しだけ心が軽くなった気がした。
****
「おい」
「はい」
自販機に飲み物を買いに行った時におい、と呼ばれたので反射的に返事をしてしまった。振り向くとそこにいたのはやけに威圧感たっぷりな尾形だった。
昨日の女の人と楽しそうに歩いている尾形を思い出し、その時の表情と全然違うじゃないかとモヤモヤした気持ちになった。そんな不機嫌さを知られたくなくて営業スマイルで返す。
「何でしょう。尾形くん。」
「随分と他人行儀だな」
やけに突っかかってくる尾形に、いつもだったらごめんなさいね、なんて適当に謝って適当に笑ってスルーするのだが、私自身も余裕がなかった。
「わざわざ忙しい営業部の尾形が声をかけてくれたのは嬉しいけど、今はちょっと忙しいんだよね。要件はメールでお願いできる?」
「なん「あ、いたいた尾形くん。」
尾形は何か言いかけたが、後ろからやってきた女性に声をかけられ、続きを聞くことは出来なさそうだった。
「尾形、呼ばれてる」
「…チッ、知ってる。」
「じゃあさっさと行きなよ」
もう一度舌打ちをしてその女性の元へと向かった。
女性が私に気付き、軽く会釈をしてくれたので慌てて返す。
そこで昨日尾形の隣にいた女の人だと思い出した。
可愛らしい声に華奢な体型。
よく似合ってるスカートに、くるりと綺麗に巻かれた髪。
全部私にはないものだった。
気づいてしまえば、せっかく少しだけ浮上した気持ちがまた一気に落ちてしまった。
どうしようもない気持ちを抱えたままトボトボと来た道を戻った。
「戻りました」
「あ〜、すまん、夢野。谷垣の奥さんが破水したらしい。急いで病院行かせたんだが、今日中の仕事が結構残っててな。」
「分かりました。今手が空いているのでこっちに回してください。やります。分からないところは菊田さんに聞けば大丈夫ですよね?」
とりあえず今は仕事だ、と目の前の資料をまとめるところから始めた。
そして終わったのが日付けが変わりそうになるちょっと前。
終電がギリギリある時間だったので、他に同じく残っている人たちへと挨拶もそこそこに慌てて会社を出る。
「おい」
なんかこのやり取りすっごくデジャブだと思いながら声がした方を見ると案の定尾形がいた。
「私の名前はおいじゃありません。」
その頃にはもう帰りたい一心で、適当に尾形をあしらいながら駅まで歩を進める。
「じゃあ歩きながらでも良い。聞きたいことがある。」
「ん?」
「昼の件だ。」
「何かあったっけ?」
お昼同様、営業スマイルで聞けば尾形は苦い顔をして続けた。
「その顔だ。」
「なによ」
「お前がその顔をする時はなんかあった時だろ。」
社会人になって初めて覚えたのは営業スマイル。自分の感情とか関係なく仕事をして、当たり障りなく過ごす。
「何年一緒にいると思ってるんだよ。」
そんな毎日。いい加減息が出来そうに無くなっていた時、尾形が声を掛けてきたんだっけ。
「……何もない。」
「嘘つけ。」
なんでこんな良いタイミングで声を掛けてくるんだろうか。
「本当に何もない。ただ仕事が忙しかったから自分にも他人にも余裕がないだけ。」
「谷垣のところ、子供産まれるしな。」
「そうだよ。今日もそれでこの時間だからね。」
本当は尾形が女の人と楽しそうに歩いているの見たからだよ、そう言いたい気持ちを心の奥底に押し込んでくだらない世間話をする。
「あ、駅着いた。じゃあね。」
尾形と私は反対方向だったはず。ばいばいと手を振りながら反対側のホームへ行こうとすると急に腕を取られた。
「お前、まだなんか隠してんだろ。全部吐いちまえよ。」
「……」
いつもだったら驚くほどアッサリする別れ際なのに、今日は尾形もなんだか余裕がないことに気がついた。
「どうしたの?尾形。」
「……昨日、宇佐美と楽しそうだったじゃねーか。」
「は?」
「あーあ、終電行っちまったな。」
振り返ると既に電車は動き出した後だった。
「家、くるか?どうせ明日約束してたろ。」
どうしようか、と悩んでいると手を取られ、そのまま電車に乗らされた。
訴えようにも取られた手はずっと繋がれたままだし、いつもより尾形が真剣な顔をしているから何も言えなくなってしまった。
結果は悪くない、だ。
要約すると他の良い案かあり、そちらを採用すると言うこと。今回はダメだったけれど次も頑張ってほしいといった内容だった。
初めてのプレゼンだった訳だから採用されるとは思っていなかった。
けれどこうして文章で突きつけられるとやはり辛い。
「菊田さん、結果返ってきました。」
「うん?どうだった?」
「ダメでした〜。」
頑張ったんですけどやっぱり経験が浅いからか深く掘り下げられていない箇所も多々あった。
他の人のプレゼンを見た時、そう思ったのも事実。
何で私はそこまで出来なかったんだろうと悔しさが今になって出てきた。
「そうか、そうか。でもお前さん、今回の事で色々気付けたんだろ?」
「はい。」
「じゃあ次はもっと良いもん出来るな。」
「うー、はい!」
こういう時、この人の大人の余裕ってやつなのだろうか。次も頑張ろうと思わせてくれる何かがある。
「じゃ、とりあえずこの資料まとめてくれるか?」
「はい。……ってこれは菊田さんの仕事じゃないですか!」
「はは、バレちまったか」
もう、と資料を突き返して私も自分の仕事をし始める。
まだ悔しい気持ちはあるが、さっきよりも少しだけ心が軽くなった気がした。
****
「おい」
「はい」
自販機に飲み物を買いに行った時におい、と呼ばれたので反射的に返事をしてしまった。振り向くとそこにいたのはやけに威圧感たっぷりな尾形だった。
昨日の女の人と楽しそうに歩いている尾形を思い出し、その時の表情と全然違うじゃないかとモヤモヤした気持ちになった。そんな不機嫌さを知られたくなくて営業スマイルで返す。
「何でしょう。尾形くん。」
「随分と他人行儀だな」
やけに突っかかってくる尾形に、いつもだったらごめんなさいね、なんて適当に謝って適当に笑ってスルーするのだが、私自身も余裕がなかった。
「わざわざ忙しい営業部の尾形が声をかけてくれたのは嬉しいけど、今はちょっと忙しいんだよね。要件はメールでお願いできる?」
「なん「あ、いたいた尾形くん。」
尾形は何か言いかけたが、後ろからやってきた女性に声をかけられ、続きを聞くことは出来なさそうだった。
「尾形、呼ばれてる」
「…チッ、知ってる。」
「じゃあさっさと行きなよ」
もう一度舌打ちをしてその女性の元へと向かった。
女性が私に気付き、軽く会釈をしてくれたので慌てて返す。
そこで昨日尾形の隣にいた女の人だと思い出した。
可愛らしい声に華奢な体型。
よく似合ってるスカートに、くるりと綺麗に巻かれた髪。
全部私にはないものだった。
気づいてしまえば、せっかく少しだけ浮上した気持ちがまた一気に落ちてしまった。
どうしようもない気持ちを抱えたままトボトボと来た道を戻った。
「戻りました」
「あ〜、すまん、夢野。谷垣の奥さんが破水したらしい。急いで病院行かせたんだが、今日中の仕事が結構残っててな。」
「分かりました。今手が空いているのでこっちに回してください。やります。分からないところは菊田さんに聞けば大丈夫ですよね?」
とりあえず今は仕事だ、と目の前の資料をまとめるところから始めた。
そして終わったのが日付けが変わりそうになるちょっと前。
終電がギリギリある時間だったので、他に同じく残っている人たちへと挨拶もそこそこに慌てて会社を出る。
「おい」
なんかこのやり取りすっごくデジャブだと思いながら声がした方を見ると案の定尾形がいた。
「私の名前はおいじゃありません。」
その頃にはもう帰りたい一心で、適当に尾形をあしらいながら駅まで歩を進める。
「じゃあ歩きながらでも良い。聞きたいことがある。」
「ん?」
「昼の件だ。」
「何かあったっけ?」
お昼同様、営業スマイルで聞けば尾形は苦い顔をして続けた。
「その顔だ。」
「なによ」
「お前がその顔をする時はなんかあった時だろ。」
社会人になって初めて覚えたのは営業スマイル。自分の感情とか関係なく仕事をして、当たり障りなく過ごす。
「何年一緒にいると思ってるんだよ。」
そんな毎日。いい加減息が出来そうに無くなっていた時、尾形が声を掛けてきたんだっけ。
「……何もない。」
「嘘つけ。」
なんでこんな良いタイミングで声を掛けてくるんだろうか。
「本当に何もない。ただ仕事が忙しかったから自分にも他人にも余裕がないだけ。」
「谷垣のところ、子供産まれるしな。」
「そうだよ。今日もそれでこの時間だからね。」
本当は尾形が女の人と楽しそうに歩いているの見たからだよ、そう言いたい気持ちを心の奥底に押し込んでくだらない世間話をする。
「あ、駅着いた。じゃあね。」
尾形と私は反対方向だったはず。ばいばいと手を振りながら反対側のホームへ行こうとすると急に腕を取られた。
「お前、まだなんか隠してんだろ。全部吐いちまえよ。」
「……」
いつもだったら驚くほどアッサリする別れ際なのに、今日は尾形もなんだか余裕がないことに気がついた。
「どうしたの?尾形。」
「……昨日、宇佐美と楽しそうだったじゃねーか。」
「は?」
「あーあ、終電行っちまったな。」
振り返ると既に電車は動き出した後だった。
「家、くるか?どうせ明日約束してたろ。」
どうしようか、と悩んでいると手を取られ、そのまま電車に乗らされた。
訴えようにも取られた手はずっと繋がれたままだし、いつもより尾形が真剣な顔をしているから何も言えなくなってしまった。