好奇心はなんとやら

「あ、柳せんぱーい」

 部活終わり、丸井先輩と仁王先輩と今週末の休みはどこか行くのかという話をしていたら、クリスマス仕様になっていると言うテーマパークを教えてもらった。
 どうせならみんなで行きません?って俺が言うと先輩たちも意外と乗り気ですんなり話が進んだ。
 丸井先輩はジャッカル先輩を、仁王先輩は柳生先輩を誘っていて、結局いつものメンバーじゃねえかって思ったけど、それはそれで楽しいから、よしとした。
 だったらもう全員に声を掛けるしかないなと思って、遅れて部室にやってきた幸村部長と真田副部長にも声をかけた。

「ここ、うさいぬとコラボしてるんですって。」
「む、うさいぬとコラボだと?!」

 副部長はうさいぬとのコラボと聞いて、案の定すぐに首を縦に振った。

「幸村部長も当然行きますよね?」
「あぁ、そうだね。楽しそうだ。」

 休みもこのメンバーで会うのは、もはや休みではなくて部活なんじゃないかと笑っていた時だった。
 顧問と話していたという柳先輩が部室に戻ってきたので、俺は先ほどと同じように誘った。

「その日か。すまないが、彼女と出掛けるのでみんなで楽しんできてくれ。」
「そうなんすか、残念……ってええ????!!」
「赤也、うるさい。」

 いやいや、驚くでしょうよ。
 柳先輩の口からまさか彼女ってワードが出てくるなんて思ってもいなくて、思いっきり声が出た。そしてそのせいで柳先輩にノートで頭を叩かれた。
 叩かれた頭を摩りながら他の先輩を見ると、俺と同じように驚いているようだった。
 どうやら知らなかったのは俺だけでは無かったらしい。

「れれれれ、蓮二、お前、彼女がいたのか。」
「ん?言ってなかったか?」
「聞いてないよ。」

 三強のメンバー間でもそんなやりとりは無かったようで、二人ともひどく動揺していた。
 ……珍しいもんが見れた。

「で、どこに行くんじゃ。」
「彼女から海エリア地区に行きたいと言われてな。あそこにあるテーマパークがうさいぬとコラボしてるらしい。」

 仁王先輩のファインプレーでデート場所も聞き出すことが出来たが、偶然にもそこは俺らがさっきまで行こうと話していた場所で……。
 日頃の訓練の賜物か、俺らは目を合わせ、この後何をするべきかすぐに理解した。そしてすぐさま実行に移した。

 幸村部長はすぐさま真田副部長の口を塞ぎ(副部長は話せないどころか、窒息しかけてた。)、仁王先輩と丸井先輩は素知らぬ顔で、テーマパークの情報をあたかも今初めて話したかのように伝え(まじでこの二人はしれっと自然に嘘がつけるから怖い。)、なんだったら面白がって柳生先輩も話を合わせているし(あの人が紳士とか嘘だろう。)、ジャッカル先輩はすまねえ、すまねえって部活の隅で言ってる(ほんとこの人苦労人だな。)。

 それにしても柳先輩の彼女さんってどんな人なんだろうか。
 きっとふわふわ系の可愛い女の子なんだろうな、なんて勝手に妄想した。



****



「と言うわけで、今日は蓮二の彼女がどんな人かしっかり把握するよ」
「「「「イエッサー」」」」

 面白そうだからと、柳先輩には俺たちも同じ日に同じテーマパークに行くのだと伝えないまま、当日を迎えていた。
 おそらく駅で彼女と待ち合わせをするだろうからとコソコソと隠れて隅の目立たないところで集合することとなった。

 流石に人が多すぎてこんな場所で見つけられるかと思ったが、改札を出てすぐの本屋で柳先輩を見つけた。その時はそれはもう心臓が飛び出るかと思った。なんだったら試合の時よりも手に汗かいたかもしれない。
 しかし柳先輩の方はと言うと、この人の多さで得意の観察眼はうまく発揮されていないのか、はたまた休日だからそこまで神経を尖らせていないのか、気付く様子はなかった。まさか俺らがいるとは思ってもいないのかもしれない。

「この時間に本屋にいるってことは、彼女さん遅刻っすかね。」

 時計を見るともうすぐ開園時間になりそうな時間だった。

「赤也じゃないんだからそれはないんじゃないかな?」
「柳の彼女だろぃ?時間ぴったりか少し早く来るイメージなんだけど。」

 そんな俺たちの会話を聞いた真田副部長は、何か言いたそうにしたが、幸村部長の無言の圧で何も言えなくなっていた。

「まあまあ、真田くん。たまにはいいじゃありませんか。」
「しかしだな、柳生」
「あいつらがああなっちまったんだ。もう止められねえぜ。分かってるだろう、真田なら。」

 真田副部長と柳生先輩とジャッカル先輩の比較的まとも組のそんな会話を後ろで聞きながら、俺らはじっと柳先輩を観察する。
 開園時間十分前なると、柳先輩はコートからスマホを取り出し、メッセージを確認したようだった。そして電話をかけ、軽く手を挙げ、合図をした。

「お!来たぜよ。」
「くそ、後ろ姿しか分かんねぇ。」

 慌ててやってきたその人は、後ろ姿しか見えなかったが、黒のロングコートに赤いマフラー、そして少しだけヒールのあるブーツというシンプルな格好がよく似合っている。ゴテゴテと着飾っている様子もないのに、柳先輩の隣にいても何の遜色もない。なんというか柳先輩と似ているような気がした。

「ね。このままテーマパークに移動するんじゃないかな?とりあえず着いて行ってみようか。」

 幸村部長の言葉通り、柳先輩は駆け寄ってきたその女の人と何か一言二言会話した後、海側へと歩き始めた。
 やはり彼女さんだったらしい。
 チラリと見えた柳先輩の横顔が、いつもより柔らかい感じがした。

「手ぇ繋がないんか。」
「でも蓮二がベタベタしてるのって想像できなーい。」
「確かにそうですね。」

 先輩たちは明らかに面白がっていた。
 もちろん俺も。
 前を歩く二人を観察しながら、何々をしないのかだの、こうして欲しいだの、好き勝手言っている。そんなバカみたいな話をしていたら、あっという間にテーマパークへと着いてしまっていた。

 流石観光施設というだけあって、そんなに広くないはずなのに様々な乗り物があり、一日中いても楽しめる作りになっていた。
 二人はマップを見てからお化け屋敷に行ったり、絶叫系に乗ってみたり、シューティングをやってみたりと、色んなものを普通に楽しんでいた。

 その頃には俺らもその空気に飲まれ、テーマパークを楽しんでいて、柳先輩の彼女さんがどんな人なのか調べることはかなり後回しになっていた。

「む、うさいぬコラボはこれか。」
「あ!あっちにはグッズも売ってるっすよ!あっににはフォトスポットもあるみたいっす。」
「む、それはたまらん催しだな。」

 俺は真田副部長と一緒にはしゃぎ、あちこちに置かれたうさいぬをスマホで撮っていた。
 するとその時、突然カランカランと鐘の音が響き渡った。どうやらボール投げのアトラクションで高得点を出した人がいるらしい。
 どんな人が高得点を出したのだろうかと眺めていたら、わあという歓声と共に柳先輩と彼女さんが出てきた。
 彼女さんは景品であろう、大きめのうさいぬのぬいぐるみが抱えられていた。柳先輩はうさいぬを抱きしめている彼女さんを見て、いつもより数段優しい顔をしていたようだった。

「蓮二も楽しんでるようだね。」
「そうっすね。」

 日頃よく接している幸村部長がそう言うのだから間違いない。

 その後も二人は仲良くお店でグッズを見たり、ご飯を食べたり一通り楽しんだようだった。
 そして最後にシンボルでもあるでっかい観覧車に乗るようだった。

「おっきいねー。」
「ここまで大きいと揺れはどうなんだろうな。」
「止まるのだけは勘弁して欲しいな。」
「なんだ、絶叫系は平気なのにこういうのはダメなのか?」
「うん。」

 チラリと聞こえた会話から、彼女さんはどうやら絶叫系より観覧車が苦手らしい。しかしそうは言っていってもシンボル的なものに乗らないで帰るのは!と覚悟を決めたようで、柳先輩の手を取って観覧車の列へと向かった。

「これは見ものじゃのう。」
「仁王くん、流石にここまで追いかけるのは薮蛇では?」
「とか何とか言いながら柳生も気になってるじゃろ。」

 どうやら仁王先輩は観覧車の中で何かが起こるんじゃないかと踏んでいるらしい。
 わかる。
 俺も彼女が出来たら、観覧車っていう密室でいちゃいちゃするに違いない。
 仁王先輩はニヤリと笑い、丸井先輩と俺を連れ、二人から少し距離を取りながら観覧車の列へと歩き出した。

 観覧車は意外にも空いており、柳先輩たちの次のゴンドラに乗ることになった。流石にバレないかとヒヤヒヤしたが、景色の方に夢中なのか二人の視線がこちらに向くことはなく、一番上近くまで来た。

 その時、柳先輩の乗っていたゴンドラが僅かに揺れたのが見えた。どうやら柳先輩が彼女さんの隣へと移動したらしい。
 彼女さんはなんで移動したの?と、揺れたゴンドラに少しだけパニックになっていたようだ。


 あ。


 それは一瞬だった。



「見た?」
「見た!ちゅーしてたっす!!」
「参謀もちゃんと男だったっちゅうことじゃ。」

 ゴンドラはあと降るだけ。
 二人の様子が見えなくなってしまったのは残念だけれど、俺たち三人は先ほどの光景でテンションが上がってしまっていた。
 ……この後待ち受ける恐怖に気付くことなく。



****



「足元気をつけて降りて下さいねー。」

 ひとしきり盛り上がり、スタッフの明るい声と共に地上に戻ってきた。

「空の旅は随分と楽しかったようだな。」
「「「や、柳」」先輩……っ」

 降り口に待ち構えていたのは、薄ら笑みを浮かべている柳先輩、その人だった。
 機嫌の良さそうに満面の笑みを浮かべてはいるが、俺らは知っている。
 この顔をしている時、柳先輩が静かに怒っているということを。
 けれど、聞かずにはいられなかった。

「「彼女さんはどうしたんすか?」とお前は言うな。彼女なら化粧を直しに行った。」

 だからお前たちにこうして会えているわけだと、さらに笑みを深めて柳先輩は言う。

「さて、どうやって記憶を消すか。」
「記憶を消すこと前提なんすか!!??」
「どうやってってことは何種類かあるのかよぃ!」
「丸井にしては頭が回るな。おい仁王、逃げるな。」
「ピヨ。」
「狡いっす!仁王先輩!!」

 俺らを身代わりに、しれっとその場から居なくなろうとしている仁王先輩を柳先輩はあっさり捕まえ、どう調理してやろうかと考えを巡らせている。
 その姿は真田副部長や幸村部長よりも怖かった。

「蓮二、お待たせ……、ってその人達は?」
「ああ、同じ部活のメンバーだ。」
「いつも話してる人たち?」

 タイミングよく戻ってきてくれた彼女さんには感謝しかない。

「はじめまして。いつも蓮二がお世話になってます……で、合ってる?」

 改めて真正面から見据えると、予想していたふわふわ系女子では無かったけれど、それはそれは綺麗な人だった。

「お世話、はしているほうだな。特に赤也。」

 そうだな、と僅かに開いた瞼から覗く視線が、これ以上余計なことをするなと物語っていて、首を縦に振ることしか出来なかった。

「では明日部活でな。」
「え?いいの?私のこと気にせず話せばいいのに。」
「気にするな。あいつらとは明日も会う。その時にじっくりと話せば良い。」
「そう?」

 じっくりと、とやけにゆっくりと言われたのが恐ろしい。そんな俺らの様子を見た柳先輩はフッと笑った後、彼女さんの手を取り、次の目的地へと歩みを進めた。


 もうこれ以上深追いは出来ない。
 いや、したくない。

「明日、遅刻して良いっすか。」
「俺も行きたくねえ……。」
「真田の雷が落ちても良いならな。」
「うへえ」

 行っても地獄、行かなくても地獄。

 好奇心は猫をも殺すとはまさにこのことか。
 身をもって知った一日だった。

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