もう離れられない。

 蓮二のことは好きなのに、エッチ好きじゃない。

 そんなこと、他の人に言ったところで何を言っているんだとか、贅沢な悩みだねとか言われ、私の気持ちなど誰一人分かってはくれない。
 幸いにも蓮二は忙しくて、中々会う機会もない。だからそういう行為をすることが少ない。そもそも普段の彼は他人にそう言う欲を見せたりすることはない。だからそう言う気持ちになってくれるというのは、彼女としては嬉しいのだが、いかんせん体格が違いすぎる。少しずつ、けれど容赦なく私の中の、しかも奥深くまで入り込んでくるものだから、終わった後は身体も痛い。あちこち痛い。
 痛いのは最初だけ、そのうち慣れるなどと友達は言っていたが、付き合って、少なくはない回数をしているはずなのに、一向に慣れる気がしない。むしろする度にいつまで我慢すればいいのか、と考えてしまう。


 蓮二がしてくれるキスや愛撫は私を最高に気持ち良くさせてくれる。それなのに、いざ入ってきた途端に苦しくなる。中が圧迫され、息が出来なくなる。勝手に涙が出てくる。

「夢子、動かないからゆっくり息を吐け。」
「ぅ、っん。……は、……っ」

 蓮二は苦しそうな私を見て、優しく頭を撫でながら髪を梳く。その仕草がまるで子供にするようだと頭の片隅で思いながら、蓮二の言われた通りにゆっくり息を吐こうとするのだが、お腹の違和感で中々上手く息が吐けない。それでも何とか息を吐き切り、私がようやく落ち着いてきた頃、蓮二もそのままではやはり辛いのか、ゆっくりと動き出した。

「ぅあ……、っん」
「っ」

 いくらかマシになったとはいえ、それでもやはり苦しいものは苦しい。喘いでいるのか、苦しんでいるのか分からない嬌声を上げ、その行為が少しでも早く終わればいいと願っていた。


 前にあったのは半年前。蓮二の遠征が続き、私もなんだかんだで予定が合わず、漸く会えた日だった。
 だからこそゆっくりまったりと互いの存在を確かめ合いたかったが、珍しく蓮二にはどうやらそんな余裕はなかったらしい。まだ明るい時間だというのに部屋のカーテンを閉め、あっという間にベッドへと押し倒された。
 いつもの蓮二だったら、軽く何回か唇が触れ合い、感触を楽しんだ後、柔らかな舌でゆっくりと唇を押し広げられ、少しずつじわじわと責めてくるキスをしてくる。けれど今日はとことん余裕がないのか、まるで獣に食べられるのではないかと思うほど最初から激しいキスだった。
 噛み付くように唇を合わせたと思ったら、舌先で唇を開けと、刺激される。驚いて思わず唇を開けてしまったところを蓮二が見逃すわけもなく、すかさず舌を差し込まれ、あっという間に侵入を許してしまった。
 口内に入り込んだ熱い蓮二の舌は、奥へと逃げ込んだ私を逃すまいと掬い上げるように絡め取る。それだけならまだ良い。ここが好きなんだろうと言わんばかりに、弱い部分ばかり責められ、酸素が足りなくなる。
 普段キスの最中は目を閉じている私だが、あまりにも性急なその動きに好奇心から薄ら目を開けてしまった。

 ……見なければ良かった。

 視線の先には、冷静沈着を絵に描いたような蓮二が、熱に浮かされたような目で私を見ていた。
 その目を見た途端、背中にぞくぞくとした快感が走り、思わず息を漏らす。あまりの快感に腕の中から逃げようとするのだが、蓮二はもちろんそれを許さない。腰に回していた腕の力をさらに強め、微塵の隙間も許さないと身体を密着させた。次第にその息苦しささえも気持ち良くなってきて、とうとう身体の力が抜けてしまった。
 キスだけでこんなに蕩けさせられるのに、なんでエッチは苦手なのだろう。
 毎回挿れられるまで、何回も指や舌でイかされ、ぐずぐずに溶かされ、前後不覚になっているのに、どうしてエッチが好きになれないのだろう。
 原因ははっきりしている。挿れられた時の圧迫感からなのだろう。
 蓮二は身長も大きいのだから、当然アレも大きい。挿れられるとどうしても気持ちよさよりも苦しさの方が優ってしまい、身体が硬くなる。
 なんでこんなにも蓮二のことが好きなのに、蓮二のことは受け入れられないのだろう。挿れられて苦しくなる度、そう思ってしまう。
 そんな私の想いを、人の気持ちに聡い蓮二のことだから、当然気付いているのだろう。
 だから今日だって、本当はもっと激しく動きたいのだろうに、挿入ってから暫く動かないでいてくれた。
 しかし蓮二にいつまでもそうやって我慢させたくなくて、少し楽になった頃合いを見て、動いて欲しいと伝えた。それでも気を遣って、ゆっくりと動いてくれる蓮二に罪悪感を感じながら、そっと大きな背中に手を伸ばした。

 蓮二のことは好きなのに、いつまで経っても受け入れられない、そんな自分のことが嫌いだ。




 そんなことがあってから二、三日経った今日、元立海男子テニス部のレギュラーメンバーで集まることになった。もちろん私を含め、マネージャーだった子たちも召集がかけられ、しかも全員が参加するという貴重な会で、それはまるでちょっとした同窓会のようだった。

「とりあえず乾杯しよっか。」

 幸村の音頭でそれぞれグラスを掲げ、飲み始める。最初こそ、綺麗に男女で分かれてはいたが、そのうちにごちゃごちゃになり、気が付けば私は仁王と幸村のテーブルにいた。

「なんか珍しい組み合わせじゃない?」
「プリ。」
「そうかな?」

 幸村は真田や蓮二と一緒にいることが多く、仁王は仁王で丸井や柳生と一緒にいることが多かった。だからこうしてお酒の席で二人が仲良く話しているのはひどく新鮮で面白い。
 私も追加のハイボールを頼み、二人の話を肴に楽しく飲ませてもらっていた。

「で、柳とは高校卒業からずっと付き合っとるんか?」
「うん、そう。」

 そして気が付けば、あっという間に何杯もジョッキを開けており、話は私の身の上話になっていた。最初こそ何を話したらいいのか分からなかったけれど、そこは二人の巧みな話術で根掘り葉掘り聞かれ、暴かれてしまっていた。
 幸いと言ってもいいのか分からないが、蓮二は私たちから一番遠い席にいて、向こうも向こうでお猪口を片手に楽しそうにしている。

「蓮二もあちこち遠征とかあるからあんまり会えなくない?」
「そうなんだよね。私も仕事でバタバタしてたりするから気が付けば半年ぶりとか、もう普通よ。」
「それは俺たちの宿命というか何と言うかだよね。」
「それで幸村も振られたことあったじゃろ。」
「なにそれ!私その話知らない。」
「仁王、余計なこと言わなくていいよ。」

 そんな内容、詳しく聞くしかないと前のめりで幸村に教えて欲しいと懇願する。そのあまりの食いつきっぷりに諦めたように一つ息を吐き、語り出した。

「俺だって寂しくなかったわけじゃないけれど、会えるのはどうしても半年とかになっちゃってて、さ。」
「そうじゃのう。お前さんがテレビに出ない日はないんじゃないか?」
「うんうん。」

 元々高校時代から雑誌に取り上げられるくらいには人気だった。それがプロになってから、さらにマスメディアに取り上げられるようになった。元々顔立ちが綺麗というのもあるが、その柔らかな雰囲気や、人当たりの良さもあり、テレビではCMやら試合の中継やらで見ない日はない。

「会えるには会えるけど、堂々と外に出てどっかに行くっていうのも躊躇われるから、結果いつもうちに呼ぶか、彼女のうちに行くかのどっちかしか出来ないわけ。」
「うんうん。」
「で、ね。家に一緒にいるってことはさ、そう言う雰囲気になるからさ、ついついしたくなるって言うのが男のサガってわけ。」

 そういうものなのか分からないが、仁王もうんうんと頷いているところをみるとそう言うものなのかもしれない。

「結局、彼女から『私はセフレじゃない』って言われて別れたんだよ。」

 その当時のことを思い出したのか、幸村はテーブルの上で組んでいた手の上におでこを置いてため息を吐いた。本当に大事にしていたんだけどな、なんて小さく呟いたところを見るときっとまだ彼女のことが好きなのではないかと感じる。

「まあ、しょうがないじゃろ。そんで、おまんのところは大丈夫なんか?」
「私?」

 仁王は思ったよりも幸村が引き摺っているのを今知ったようで、気まずさを誤魔化すように私に話を振ってきた。

「昔から忙しい人だったから今更って感じだなー。」
「いいなぁ……そのわかってる感。」

 幸村はだいぶお酒が回ってきたようで、合いの手が大分グタグタになってきた。しかしお酒が回ってきたのは私も同じようで、普段なら絶対に言わないようなことを言ってしまった。

「……でも確かにエッチするのは考えるよ。色々と。」
「おん?」
「は?」

 うっかり口から漏れてしまったその言葉を慌てて取り消そうとするも、すでに遅く。早く続きを話せと促してくる。

「それは蓮二にも体目当てなの?とか思うわけ?」
「や、私の場合はそうじゃなくて……。その、さ、なんて言うか中々慣れない、というか、息出来ないくらい苦しいし、お腹重くて、しかもそのせいで蓮二にも無理させちゃってるのかもしれなくて……」

 お酒のせいなのか、普段思っていたことを取り止めもなく話す。
 キスとかは気持ちよくて好きなのに、挿れられると苦しくて、全然気持ちよくなれないこと。そのせいで蓮二に無理をさせているのではないかと思っていること。そのうち別の相性のいい女の子の方に行っちゃうんじゃないかと不安なこと。
 そんなことを何も考えがまとまってないのに、話し始めてしまった。本当はそんなこと言うつもりなんて無かったのに、二人がうんうんと優しく頷いてくれるから、うちに溜め込んでいた気持ちが次々と口から溢れ出す。
 しまいには薄ら目に涙が溜まってきてしまったので、誤魔化すようにテーブルにあごを乗せ、降参のポーズのように両腕を軽く上げる。

「そんなに不安に思わんでも、参謀がお前さんから離れることはないと思うんじゃが?」
「それは俺も同意。」
「だから安心しちょれ。」
「根拠は……?」
「「ない。」」

 そんなところで息ぴったり合わせないでよ、と笑いながらさらにジョッキを傾けた。

「まあその時がきたら、俺んところにきなさんな。」

 仁王はそんなことを言ってきたが、いつもの悪ふざけだろうと思い、笑ってそうだねなんて答えた。そのまま話は流れ、結局答えなんて出ないまま、その場はお開きになり、飲み足りない人たちは二次会に行くことになった。聞けば元レギュラーメンバーは全員が二次会に行くようなので、私も参加しようとしたところ、後ろから大きな手が肩を掴んできた。

「すまないが、俺たちはここで失礼する。」
「えー、柳さんも夢野さんも行かないんすか?」
「すまんな、赤也。また次誘ってくれ。」

 蓮二にしては雑に別れを切り出し、私は蓮二に促されるまま、大通りへと歩き出した。すでにアプリで呼び出していたらしく、タクシーが目の前で止まり、確認するまでもなく蓮二は運転手に自宅の住所を告げ、それ以上何も話したくないのか、そのまま窓の外を眺めていた。ただ手はずっと強く握られたままで、その手の熱はお酒のせいなのか、はたまた別のものなのか分からなかった。




 蓮二の住むマンションに到着しても、繋いだ手は一瞬たりとも離してはくれなかった。
 そのまま引き摺られるように玄関に入ると、すぐに顎を捉えられ、ちゅっちゅっと軽くリップ音を立てて唇を合わせられた。そしてその合間にボソリとつぶやく様に言った。

「あとできちんと謝る。」
「え?」

 何のことだか分からない私は、ただぼんやりと蓮二を見上げる。蓮二は少し困ったような、辛そうな顔をしていた。

「蓮、っんぅ」

 名前を呼ぼうとしたその時、ぬるりと舌を入れられ、口内を荒々しく舐めまわされる。ゾワゾワとした感覚が競り上がり、足元に力が入らない。腰に回された腕が無かったら、きっと床に座り込んでいただろう。そんな様子を感じ取った蓮二は、軽く私を持ち上げるとヒールを落とすように脱がし、自分も急いで靴を脱ぎ、中へと向かっていった。
 降ろされたのは蓮二が普段使っているベッドで、何をされるのかなんて分かりきっていた。

「蓮二っ、せめてシャワー!」
「どうせ汗をかく。後でいいだろう?」

 いつもだったら絶対に身体をキレイにするのに、今日の蓮二はそう言うや否や、首筋を舌先でなぞる。そのまま大きな手は服を器用に脱がし、あっという間に下着だけの姿になっていた。
 クロッチ部分をスリスリとなぞられると、もどかしさからか腰が勝手に動いてしまう。
 あっという間に下着を剥ぎ取られ、クリトリスを指でグリグリと刺激されると、身体が勝手に快楽を拾い上げる。あまりに強い快感にいやだと首を振っているのに止めてくれない蓮二に、不安を覚える。

「今その表情は逆効果だ。」
「っぁ」

 自分が今、どんな顔をしているか分からないが、どうやら蓮二の何かに触れてしまったらしい。何の前触れもなく長い指が中に入ってきて、今まで培われたデータを基に、確実にイイトコロを刺激してきた。

「やだ、れんじ…っ」
「やだ、じゃない。気持ちいいの間違いだろう?」
「ん、ぅっ……」

 そのうち、ある一点を指先で刺激され、思わず蓮二の腕を強く掴む。

「お前の弱いところはここ、だな?」
「ゃっ、そこトントンしないで」

 いつもよりも性急で、そして乱暴な愛撫なのに、泣きたくなるほど気持ちがいい。耳を塞ぎたくなるほどの水音が部屋に響く。

「ん、ッ、っぁあ゛、れ、んじっ」
「中がヒクついてる。イキそうか?」

 コクコクと首を縦に振ると、しばらく触っていなかった胸をやわやわと揉みしだきながら中のリズムを早くする。

「一緒、やっ……だめっ!」

 私が嫌だというと、今度はもう片方の胸の乳首を舌と唇で愛撫してくる。三箇所も同時に刺激されてしまい、いよいよ我慢ができなくなり、壊れたオモチャのようにカクカクと腰を震わせる。

「イけ」
「っっっ〜〜♡」

 蓮二の低い声が脳に響き、あっという間にイッてしまった。それなのに私の身体はまだ貪欲に蓮二を求める。その証拠に今も中がヒクヒクと蓮二の指を奥へ奥へと導いている。蓮二もそれに応えるように指を曲げ、先ほどよりも激しく出し入れをする。

「っ、あ!まっへ、まだ、っぁ゛あ!!」
「まだイけるだろう?」
「っぁあ゛♡」

 こんなに自分から快楽を求めるのは初めてで、どうしたらいいか分からない。二回目の絶頂はあっという間だった。がくがくと震える中から容赦なく蹂躙した指がちゅぽんと抜かれ、その後を追うようにだらしなく愛液が溢れ出た。
 そんなに早く二回も達したことがなく、耐えられないと重くなった瞼を閉じようとしたその時だった。


「お前は誰にも渡さない。」


 その言葉と同時に、蓮二のものが奥深くまで一気に入ってきて強制的に覚醒させられる。

「ぅあ゛……っ」
「仁王のところなど、行かせてたまるか……っ」
「にお、?」
「俺を捨てるなんて許さない」
「捨て、るなんて、」

 訳がわからないけれど、捨てることなんてありえない。そう言いたかったのだが、その言葉を紡ぐ前に唇を塞がれ、奥を捉えられたままグリグリと腰を動かされ、息を飲む。

 いつもなら、それは苦しくて痛いだけの行為だった。けれどこの時、明らかにいつもと違う感覚が身体中を駆け巡り、目の前にチカチカと光が散っているのが見えた。

「んぁ゛、れ、んじ……まって♡へんっ♡♡からだ、へんなの♡」

 ただ揺すられているだけなのに、今までと比べものにならないくらい気持ちよさが押し寄せてきて、お腹に手を当て、その原因である存在を確かめる。

「ッ……、ようやくだ。ようやく俺の形になったな。」
「れん、じの?」
「遅いかもしれないが、なっ」
「ッ♡♡♡」

 背中に手を回され、身体を持ち上げられた。何の覚悟もなく蓮二の上に跨るように抱き抱えられたため、自重で再び深いところまで入ってしまい、三度目の絶頂に達してしまった。
 それでも蓮二は容赦なく下から突き上げてくる。

「お前が中々俺のものになってくれなくて、しかし無理強いするのもどうかと思っていたが……。」
「ぁッ、あっ、ぁ゛♡ああっ……♡」

 何か蓮二が言っているが、私はそれどころではない。奥を突かれるたびに自分が自分じゃなくなるくらい気持ちよくなってしまっていた。
 怖くて仕方がない。

「れんじ、っれんじ……♡」

 助けて、やめて、許して。そう訴えるも、蓮二は一向に止める気配がない。むしろうっとりとした目で私を見つめ、口角を上げながら言った。

「もう、これでお前は俺から離れられないな。」
「〜〜〜っッ♡♡♡♡」

 低く甘えるような声で言われたその言葉が引き金になり、あっという間にまた達してしまい、ギュッギュッと中に入っている蓮二を刺激する。
 蓮二も流石に堪えきれなくなったのか、再び身体を倒してきた。

「っッ、くっ……」
「♡♡♡」

 容赦なく腰を打ち付けられ、中がひっきりなしに痙攣している。それでも止めてくれない蓮二を嫌いになってもおかしくないのに、今はその激しささえ愛おしくてしょうがなくて、そっと顔に手を伸ばし、そのまま私からキスをする。
 その時に薄目で見えた蓮二は、少しだけ泣きそうな顔をしていたが、そのまま唇を合わせながらラストスパートと言わんばかりに先ほどとは比べ物にならないくらい荒々しく出し入れをし始めた。肌が合わさる音と水音、それから私たちの荒い呼吸音と篭った嬌声が部屋に響く。

「イ、くっッ、っ」

 耳元で切羽詰まった蓮二の声が聞こえたと同時に、中に熱い液体が広がったのが分かった。その感覚で再びイッてしまい、遂に意識を失ってしまった。

 最後に私が呟いた言葉は彼に届いただろうか。

「私は蓮二だけ」




 再び目を開けた時には、身体のあちこちが小さく悲鳴をあげていて、起き上がるのもままならなかった。あれだけ声を出していたのだから当然と言えば当然だが、喉も痛くて掠れた声しか出せない。
 それでも求める人は一人だけ。

「れ、んじ……」

 そう呼んでみたが隣に彼の姿は無く、ベッドを触れても彼の体温はそこに無かった。それがなぜだか無性に寂しくて、涙が勝手に溢れてくる。

「ぅ、っく……、ふっ……ぅう」

 止めようとするのだが、一度溢れ出てしまった涙はどうすることもできず、ただシーツを濡らすことしかできなかった。




「っ、れんじ……っ」
「まだ、俺の名前を呼んでくれるのか?」

 聞き慣れた声に顔を上げると、困ったような顔をした蓮二がそこに居た。

「れんじ、蓮二っ……」
「すまない。こんなことをするつもりは無かった。」

 私が腕を伸ばすと蓮二は少し躊躇った後、優しく抱きしめてくれた。蓮二の心地よい体温と一定の心拍で安心出来たのか、あれだけ止まらなかった涙がピタリと止まった。
 暫くそうしていてくれた後、蓮二は再びすまないと謝罪を口にした。
 何でそんなことを言うのかと問おうとしたが、声にならなかった。その様子を見た蓮二はサイドテーブルに置かれたマグカップを渡し、飲むように促してきた。
 ようやく喉が潤ったところで再び同じ問いをする。

「なんに対してのごめん?」
「まずは無理させたこと。今泣かせたこと。そしてセックスしたくないと知っているのに無理やりしたこと、だ。」

 そう言いながら口元に手をやる蓮二に、まだ何かを隠している雰囲気を感じ、じっと見つめる。

「それと、仁王のところに行かせないように最低な手を使ったこと、だ。」

 そういえば最中にも仁王がどうとか言っていた。しかしその言い方だとまるで私が仁王のことを好きみたいではないか。しかし当然ながらそんな心当たりは全くと言っていいほどなく、なぜそんなことを言い出したのか考えてみる。

「俺んところにきなさんな。と仁王が言っていただろう。」
「……そんなことも言ってた、かも?」
「お前は笑って、その時が来たら、と言っていた。」
「覚えてない……。」

 そう言うと蓮二は呆れたような、それでいて安心したような、普段の表情よりも幾分崩れた顔をしていた。

「……つまり蓮二は私が仁王のところに行っちゃうんじゃないかって心配、というか嫉妬したと。」
「皆まで言うな。」

 手で顔を隠しながら、深いため息を吐いた蓮二の顔を見たくて、覗き込もうとする。しかしそれは背を向けられ、敢えなく失敗した。

「やめろ。お願いだから。」
「こんなに無茶苦茶されたのに?」
「それは本当にすまなかった。」

 でもようやく蓮二のものになれたね、と後ろから抱きついて頬にキスをする。これは予想外の出来事だったようで、滅多に開けない目を開けてこちらに振り向いた。

「もう蓮二から離れられないね。」

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