ポケ自己投影

2021/03/11

アサギ:ガラル地方の新チャンピオン。ダンデの次にポケモンを愛している。緊張しいで脳筋。りんごカレーがすき
インテレオン:アサギの初めてのポケモン。アサギが大好きでよく寝るしちょっとアホっぽい。アサギリと名付けられた
パルスワン:元気いっぱいな古参手持ち。ドラゴンみずひこうはおれに任せろ。ハチロウと名付けられた
キュウコン:個体値爆高の優雅な古参。バトル好きな紅一点。かえんほうしゃで燃やせないものなどない。コノコと名付けられた
シルヴァディ:アサギの好みでスチールメモリを持たされている。身体中撫で回されるのはきらいじゃないけど一応嫌がっている。ウタと名付けられた
ウーラオス:いちげきのかた。アサギに似ず頭が良いが、怒ったら見境なく攻撃を始める。ウキョウと名付けられた
ミロカロス:新参手持ち。アサギが死ぬほど探し回ってゲット。圧倒的美人だが♂。ナツキと名付けられた



『ぼくたちみらいのチャンピオン』
ドキドキして心臓が張り裂けそうだ。高揚もあるが、やはり緊張の占める割合の方が大きくて、おれはぎゅっと手を握りしめた。スタジアムはギラギラの照明と満員の観客で暑いぐらいなのに指が冷えきって爪が変な色をしていた。
最後の確認のため、ポケモンたちをボールから出す。体力は満タン、持ち物も不足はない。そう、ポケモンたちはいつも最善を尽くしてくれる。ミスをするとすれば、おれのほうなのだ。緊張した様子もないみんなを横目に、治まらない心臓をシャツの上から握りしめる。
「はぁ……逃げたいなぁ。いや、勝ちたいけど」
「ぐるる?」
「いやー、今更怖くなっちゃってさ」
気遣うように喉を鳴らしたパルスワンを撫でる。昔、会話できるのか!?なんてホップに驚かれたことがあるが、おれはただ、この子達の言葉がそう聞こえているから返事をしただけで、別にわかっちゃいないのだ。理解できたら、もっと仲良くなれたのになぁ。
緊張した時、こうやってマイナスのほうに傾くのは良くない癖だ。頭を振って、気持ちをリセットする。できないことを願ったってしょうがない。おれは負けたみんなの分も戦って、チャンピオンになってやるんだ。大丈夫。おれなら、おれたちならできる。すぅ、と息を吸った。
「今からいっぱい痛くなるかもしれないけど……もう少し、頑張ってくれる?」
「うぉぉん!」
一番付き合いの長いインテレオンが吼えた。次いでキュウコンが優しく擦り寄ってくれる。パルスワンはおれに乗りかかってきて、ダストダスとツンベアーは力強く頷いてくれた。フォクスライはいつもの飄々とした姿だが、たしかにやる気に満ちている。
「終わったら、みんなでまたキャンプしような」
グローブをはめなおして、みんなをボールに戻した。これ以上待たせるわけにはいかない。待たせる理由もない。だっておれたちは最強のチームだ。
コートへ歩き出す。向こう側から歩いてきたダンデさんが満足そうに笑った。

『ベストフレンドフォーエバー』
ナックルシティに並ぶ住宅の一つの扉を開く。今からおれは仲間との絆を確かめに行くのだ。手の震えは期待と興奮だ。
おれは確かめなくたって別にいいと思っている。人に言われなくたっておれたちは最強のチームだから。では何故確かめるのか。理由は簡単、気になるから。
「こんにちはー……」
「こんにちは!あなたとポケモンがなかよしか教えてあげよっか?」
「お願いします!!!」
自分よりもずっと幼い子どもに全力で頭を下げる。おかしそうに笑ったその子はきらきらの目でおれに質問した。
「どのコとなかよしか気になる?」
「アサギリでお願いします……!」
ぽんっと音を出して外に出てきたアサギリはバトルの時ぐらいキリッとした顔をしている。自信アリ、と言ったところか。
このインテレオンはおれが初めて貰ったポケモンで、アサギリと名付けた。頭は良いが好奇心が強くて、ちょっと抜けてるやつ。レベルが上がりきり、向かうところ敵なしなので、最近もちものをしんぴのしずくをこううんのおこうに変えたら不服そうな顔をされた。ごめん、おれ、いっぱい服欲しいんだ。話が逸れた。
「あなたとアサギリはねぇ……」
ドクン、ドクン。
もしも、嫌われたりしてたらどうしようか。いやいやそんなはずは。だってレベル5でまだ泣き虫のメッソンのときから一緒にいて、チャンピオンにまで上り詰めた。正しくしんゆうだ。
ドクン、ドクン。
じーっと大きな目がアサギリを見つめて離さない。しんゆうって、言ってくれるかな。アサギリは、しんゆうだって思ってくれているのだろうか。
にっぱり笑った子どもは高らかに言った。
「最高になかよしだよっ!!いっしょにいられて幸せだね!」
「……やったー!!」
「なかよしのしるしにいいモノつけてあげる!」
一緒に飛び上がって喜ぶ。後ろで上品なマダムにくすくす笑われてしまったが関係ない。おれたちはしんゆうなのだ!
リボンを首に着けられたアサギリが嬉しそうに笑った。これからもよろしくな、おれのしんゆう。


『冷ますのはからだだけ』
とうとう、ガラルに夏がやってきた。強い日差しに、ジリジリ肌が焼ける感覚がある。実際焼けた。グローブを右手にしか嵌めていなかったせいで左右の手の色が違うというもう人前でグローブが外せない体になってしまった。冬までに治らないと、ホップあたりにバカにされてしまう。
「暑いよナツキ〜助けてくれ〜〜」
溶けたアイスみたいな声しか出せないまま、我が手持ちのミロカロスを呼んだ。最高に可愛いおれの癒し。もちろん皆超可愛いから。だからそんな目で見るなアサギリよ。
ナツキは優雅に体をくねらせて宙を泳ぐようにおれに寄ってくる。ほかの手持ちの子と比べたら過ごした時間は少し短いけれど、それでも懐いてくれた可愛いやつだ。
乳白色の体を撫でれば、水ポケモン特有のひやりとした温度が手に伝わる。ツルツルで、筋肉が詰め込まれている感覚。サダイジャとも似ているような手触りはおれのお気に入りだ。
そのままぎゅっと抱き締めれば驚いたナツキがしっぽをビタンと地面に叩きつけた。アイアンテールも繰り出すそのしっぽの勢いに血の気が引いたが、ついでに体の熱もなくなったのでお礼を言い体を起こそうとしたところぐいっと前に引っ張られた。
「うおっ、どうしたのナツキ……いたたいたいいたい」
突然ナツキのしっぽがおれをギチギチにしめつけ始めた。しめつけるは覚えさせてないはずなのにどうしてだ。筋肉の塊は全然柔らかくなくてさっき食べたカレーが出てきそうになる。ひんやりしてるのは気持ちいいんだけどさ。
「いたたたた……ナツキーおれもう暑くないよー」
「?」
もういいの?と赤い透き通った目がおれを覗き込む。辛うじて抜け出せた腕でぽんぽんと頭の付け根を軽く叩く。
「もー大丈夫。ありがとな」
「!」
おれを解放して、ナツキは嬉しそうにくるりと一回りした。
ちょっと苦しかったけど、折角おれのためにやってくれたわけだし、次の昼ごはんはナツキの好きな甘口アップルカレーにしようかな。


『きみが楽しいとぼくも幸せ』
食事終わりに、日向でうとうとしているハチロウをつつく。お腹いっぱいになったらすぐに寝てしまうのは、ワンパチの頃からずっとかわっていない。ベロがはみ出ている寝顔も昔と同じだ。
パチリとハチロウが目を覚ます。おれを目にしてぴょんぴょん跳ねるが、よく寝起きでこんなに動けるものだ。低血圧のおれには羨ましい。
「スッキリした? おーよしよし。じゃあもうそろそろ出発……ん?」
「わふ!」
ハチロウが前足でカリカリとおれのふくらはぎを引っ掻いたから何かと思えば、ポケじゃらしを咥えていた。遊べということか?
しかしハチロウのレベルはもう100に到達していて、到底楽しめるとは思えない。だって、ポケじゃらしよりも素早くて手応えがある相手を何度も相手にしてきたんだ。そもそも能力が高いハチロウがこんなに鍛えて強くないわけがない。レベル100は伊達じゃないのだ。
「ハチロウ、やりたいの〜?」
「わん!」
「しょうがないな〜〜!」
しかし手持ちには甘いのがトレーナーというものである。こんなにかわいいのに断れるだろうか。反語。
しゃっしゃっと左右に振ってやると、ハチロウの目付きが鋭くなる。バトルの時と同じなんだろう。普段逞しい背中しか見えないから、この特等席で見ることができるのは嬉しい。
「あ〜! 今写真撮りてぇ〜〜ってうわ危な!」
おれの巧みなポケじゃらし捌きに興奮したハチロウが堪らず飛びかかってきた。間一髪避けたものの、ハチロウの足元は抉れていた。本気には程遠いのにこの威力とは。
尻もちをついたおれを心配そうに見るハチロウに手を伸ばす。ハチロウはしゅんとした顔で耳を下げている。
「強くなったな〜! 偉いぞ〜!!」
流石おれのポケモン。二番目に手持ちになったハチロウが、こんなに強くなったなんて……。
「心配かけたか? おれだってそんなにヤワじゃないぞ」
ニヤリと笑ってみせれば、ハチロウも嬉しそうにひとつ吠えた。

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