ぼくのきみにあげるよ 巣穴から漏れ出す光の中に、一段と太く輝く光が一本だけ見えた。禍々しさすら感じるそれの中身を覗けば、そこには赤と青の鱗にクリーム色の身体があった。ため息が出るほど美しいその生物、ミロカロスは図鑑の通り慈悲に溢れ、近頃荒んでいた心が溶けてなくなるようでおれは暫く見蕩れてしまった。 純粋に、この子が欲しいと思った。ポケモンの数にはもう一つ空きがある。そこにこの子を迎えるのも良いだろう。これだけ大きな光ならばきっと能力も申し分ない。 そうと決まれば、他の道場生にも協力してもらわねば。おれは道場への道を駆け出した。 「なぁみんな! ちょっとレイドバトルに協力して欲しいんだけど!」 「何が出たんだ?」 「ミロカロス! しかも光がでかいぞ」 「まじか!」 流石、師匠に学ぶ者たちは直ぐにタイプを理解して、でんきタイプやくさタイプ持ちが集まってくれた……が、その中にセイボリーの姿があった。セイボリーの目はやけに泳いでいて、おれとはちっとも合わせようとしてくれない。 こいつ、くさタイプとか持ってないんじゃないっけ。 「あー……セイボリー、今回はみずタイプだからさ」 「それがどうしたのです?」 「だって、ヤドランだろ? 相性が悪いわけじゃないけど……」 「心配無用です」 ツン、とそっぽを向いたセイボリーはおれとの話は終わったとでも言うように道場の外へ出た。つい、よくない言葉が出そうで、ぐっと堪える。 実を言うと、おれの荒んだ心の原因はセイボリーなのだ。 おれはこいつのこういう所が嫌いだ。いつも人を小馬鹿にした態度で、師匠やおかみさんの優しさを無下にしたり、負けたら癇癪を起こしたりするから。おれは初めて出会った時、仲間が増えて嬉しかったしエスパータイプ使いはほとんどいないからきっと高めあえるだろうとたくさん話しかけて、仲良くなろうとした。結果は無視と罵倒。震えるウールーのように情けない、と言われたときには殴ってやろうかと思った。 そんな態度とることないだろ、毎日顔を合わせるんだからさ。セイボリーも強くなりたくて来てるんだろ、人付き合いだって修行のひとつだろ! ヒートアップする心内を仲間たちに吐き出しても、みんな首を横に振るだけで何も解決しなかった。だからおれはあんまりセイボリーと関わりたくないんだが、まさかセイボリーからくるとは思っていなかった。 仲間のほうを見れば、みんなやけに神妙そうな顔をしていた。これは行けということだろうか。 そういえば、道場のみんなはやけにおれをセイボリーに宛がおうとする。おかみさんに一緒に居てあげて、と言われたこともあったし、おれは良いけどセイボリーは多分おれのこと嫌いだろうな。 仕方なく外に出れば、腕組みをしてこちらを睨むセイボリーがいた。自分から言い出したくせに、そんな顔しなくてもいいじゃないか。 清涼平原にある巣穴はまだ光を吐き出していた。少し怖気付きながら飛び込めば、そもそも大きなミロカロスがダイマックスした姿でおれたちを見下ろしている。パルスワンを繰り出せば強く頷いてくれた。 セイボリーのヤドランがダイマックスし、クイックドロウにより先制攻撃をする。すかさずミロカロスもふしぎなバリアを展開する。 「パルスワン! かみなりのキバだ!」 「サンダース、エレキボール!」 「ダダリン! ギガドレイン!」 畳み掛けるもバリアは分厚く、ミロカロスも攻撃の手を休めない。ヤドランの攻撃でなんとか破れたものの、また体力を削ればバリアは復活してしまう。パルスワンも攻撃をもろに喰らって、次攻撃を受ければ倒れてしまうだろうし、一気に決着をつけたい。そう思っていた矢先に、ミロカロスと目が合った。赤の目が、おれをとらえた。 やばいと思ったが、迫り来る巨大な尾におれができることはなかった。 「がはっ、〜〜〜ッ!……!」 「カルト!!」 「大丈夫か!?」 「……だ、だいじょぶ、だから、……」 吹き飛ばされた先の岩にしたたかに体を打ち付けたおれが最後に見たのは、おれに駆け寄るパルスワンと、焦りの色をした青い目だった。 ─────── 目を覚ますと、見慣れた天井があった。 「……あれ、ここ、道場……?」 「あら、カルトちゃん、目を覚ましたんだね! 心配したよ」 「ワウッ」 「あ、パルスワン……すいません、おかみさん」 ぺろぺろ舐めてくるパルスワンを撫でながらおかみさんの話を聞けば、あの後も戦い続けてミロカロスに勝利し、おれを巣穴から出してくれたらしい。一人欠けた状態で勝つなんてすごいな。想像している以上に足を引っ張ってしまったのだろう。ちゃんと謝ってお礼をしなきゃ。 おれは気絶してからずっと眠り続け、もう二日経つらしい。気の立ったポケモンは危ないから気をつける、という常識も忘れるほど浮き足立つなんて情けない。次からはちゃんと気を引き締めないと。 あのミロカロスは誰かが捕まえたんだろうな。あーあ、もっとちゃんと気をつけておけばよかった。 まだあちこち痛む体をさすっていれば「しばらく修行はお休みね」と言われた。差がつくのは怖いが仕方ないだろう。いい機会だし、ポケモンたちにも休んでもらおう。 「あぁ、そうそう。セイボリーちゃんのことなんだけど」 「まさかあいつも怪我したんですか!?」 「ううん! そうじゃないわ。セイボリーちゃんが休憩の度にカルトちゃんの様子を見に来てくれてたのよ。後で話してあげて」 セイボリーが見舞いに来た?あのセイボリーが? それに話せと言われたって、何を言えばいいんだろう。ありがとうとごめんねと、それから。次の言葉は思いつかなかった。 おかみさんが出て行った部屋の中、手持ち無沙汰に伏せをしたパルスワンのお尻を眺めていると控えめなノックの音がした。はい、と返事を返せば少しだけ開いたドアの隙間から金髪と、次いでスカイブルーの瞳が覗く。客はセイボリーだった。 「やっと起きたのですね」 「あぁ、さっきな。ずっと見舞いに来てくれてたんだろ? ありがとう」 「べ、別に、あなたが心配なわけではないですから!」 おれの見舞いに来たのに? 何を焦っているのかまだ喋り続けているが、いつもの変な言葉遣いも無くなっている。もしかしたらこいつ、とても、とても素直ではないのではないか。そう思えば今までの言動も面白く感じてきてつい吹き出してしまった。 「な、何を笑っているのです!?」 「ふはっ、……んん、セイボリーって、可愛いところあるな」 「か、かわ!? ふざけるのも大概になさいな!」 「ふざけてないよ。ずっと嫌われてると思ってたからさ、嬉しくて」 セイボリーはおれの言葉に申し訳なさそうな顔をした。あの言動も多少は自覚があったらしい。でももう怒る気なんて更々なかった。素直じゃないのがこいつらしいから。 でかい怪我はしたけど、セイボリーと仲直りができて良かった。 「では、ワタクシはもう戻ります」 「そっか。修行頑張ってな」 「ええ。…………あの、これ、差し上げます」 渡されたのはモンスターボール。中に入っているのは、 「え、ミロカロスじゃん」 「ふふん、ワタクシが捕まえて差しあげたのです。これでカルトも少しはエレガントになれるはずです」 「一言多いなお前は……じゃなくて、ありがとう。大切にするよ」 ミロカロスは珍しいし、この子は能力も高いから自分のものにして良かったのに。エスパー使いのこだわりかな。 ボールの滑らかな曲線を指で撫ぜた。治ったら出してあげよう。それまではこの子にも休んでいてもらおうかな。何か喋ってないかな、なんて耳に近づけてみる。当然何も聴こえないが、それだけのことが何だかおかしくて笑った。 もう一度礼を言うために顔を上げれば、セイボリーが白い肌を真っ赤に染めて口を開けた、今までに見たことない表情で固まっていた。まだいたのか。 何かしてしまったかと目を動かすも原因はちっとも見当たらない。 「ど、どしたセイボリー、大丈夫か」 「な、な、何でもありません!セイボリー テレポート!」 「お、おう。気をつけろよー」 一人になった部屋の中、パルスワンのなきごえがひとつ響いた。ふわふわの毛を撫でる反対の手で、もう一度ボールの形を確かめる。 おれたちの仲直りのしるしは、美しいいつくしみのかたちをしていた。 |