キミの隣はつらい
※チャンピオンはユウリ



「ホップ! 一緒に遊ぼう」
「いいぞ!」

ハロンタウンの隅から隅まで走り回って、ジムチャレンジのために一緒に勉強して、「二人とも元気ねぇ」なんて微笑まれていた。それがなんだか誇らしくて、おれたちは親友だと本人の前で堂々と言えるぐらい嬉しかった。
ジムチャレンジだって一緒に行けると思ってた。セミファイナルの決勝で戦えたら最高で、別にどっちが勝ったっていい。負けたら悔しいだろうけどホップだったら本選でも応援するし、おれが勝ったってホップは笑顔で喜んでくれる。ホップはすごいやつだし、おれたちは親友だから。
そう、思ってたのに。

「ポケモンの勉強のためにヨロイ島に行くんだ。一緒に来てくれないか?」

お前が、それを言うのか。




まだ一年も経っていないから、よく思い出せる。女の子が引っ越してきて、おれの理想的な空想は砕け散った。

「あれ、そのポケモンなに?」
「アニキにもらったんだぞ! ユウリと一緒に!」

赤と白の長い耳のポケモンは草むらで見たことのないものだった。ダンデさんが帰ってくるって言っていたから、今日は遊べないだろうと家でテレビを観ていた。誘ってくれたら良かったのに、と言う前にひとつ喉に引っかかった。
ユウリといつの間にそんなに仲良くなったんだよ。
ホップが誰と友達になったって、それはホップの勝手なわけで、ただモヤモヤした気持ちだけが残った。
まあ、一緒にジムチャレンジに挑戦するのはおれだし。
そう思っていたのに。町を出る当日、ホップはずっとユウリと一緒にいて、おれとは少し言葉を交わしただけだった。がんばろう、なんて、やめろよ。そんなの誰だって言えるじゃん。

「ホップもがんばって」

頷いてユウリのところに駆けていったホップの後ろ姿を見送った。なんだか悲しかった。
それから後を追いかけてターフタウンのジムはなんとかクリアしたけど、何もかも虚しく感じて、次に進むことはしなかった。すぐに戻るのは恥ずかしくて、少しエンジンシティを歩いたけど、何も楽しくなかった。親に怒られるかも、と思って家に帰るのは気が向かなかったけど、父さんも母さんも何も言わなかった。
テレビを見ることも避け続けて、ようやく観られたセミファイナルは、ホップとユウリの対戦だった。試合は白熱して、最後は二人がダンデさんからもらったポケモンどうしの戦いだった。観たくないと思っても、視線は引き付けられてしまって、ユウリのインテレオンがエースバーンを撃ち抜いて、エースバーンが倒れて、カメラがホップの顔を抜いた。
ユウリに負けたときの、ホップの顔は、──金色の星がゆっくりと瞬いた──いろんな感情がごちゃまぜのその顔に、おれはホップのことを何にもわかっていなかったんだと気付かされた。
それから、ホップと会うのが怖かった。おれはホップの親友にはなれないし、先におれを見限ったのはホップだった。父さんの「そういうこともあるさ」という渋い笑顔だけがおれをわかってくれた気がした。




思い出したのは口の中が苦くなる思い出ばかりだった。
なんと返事をすればいいのか、わかっていないのに口は勝手に動く。

「ごめん、無理だ」
「え?」
「一緒に行けない。ごめん」

こんな気持ちでついて行って、何になるんだ。多分ホップは次の目標を持っている。おれは中途半端なままだ。
ホップのキラキラの目がきょとんと丸くなって、二三度瞬きした後、弱々しく口が開かれた。

「な、なんで……」
「ホップと一緒、なの、つらいから」
「あ、じゃあ! カルトが嫌なところ直すぞ! それなら……」
「いや、ホップが悪いわけじゃないんだ。これはおれの問題で」

どうしてそんなにおれにこだわるんだよ。不安気に揺れるホップの目が、それでもおれから離れなかった。このケンカにもならなかったおれのワガママが、何か進展させてくれる気がしていた。

「やっぱり、オレのせいか?」
「なにが」
「カルトが、ジムチャレンジやめたこと……」

ホップにそれを言われたことは、嬉しいような気まずいような、居心地の悪い気分になった。罪を白状させた高揚感と自分のワガママに巻き込んだ申し訳なさにぐちゃぐちゃになって黙ったおれに、ホップが続けた。

「母さんに、ユウリのこと手伝ってあげなさいって言われたから一緒に進んでたんだ。カルトとは後から会おうと思ってて……途中で、カルトがいないことに気づいたんだぞ。でも場所もわかんないし、スマホもなんでか繋がらなかったし」

「寂しかった」スマホは早々に電源が切れて、それから充電をしなかった。もしも電話がかかってきたら上手く喋れないって分かってたから。今だって口はまともに動かない。でも悪くはならないと確信していた。ホップの言葉を待ち続ける。

「ユウリとのジムチャレンジは楽しかったけど、やっぱりカルトも一緒がよかったぞ」

照れたようなホップの顔に、ふっと体から力が抜けた。
そのまま笑いがこみ上げて、しばらく大笑いしていたらホップはびっくりして、でも最後には笑ってくれた。

「ごめん、さっきのやり直していい?」

ホップは、おれがどんな気持ちだったか知らないだろう。おんなのこに向けちゃいけない思いをユウリにぶちまけそうになった。戦い足りなかったポケモンたちの不満げな目を宥めて、あったはずの未来ばっかり夢にみた。
息を吸い直して、ホップの目をしっかり見つめる。

「おれもついて行きたい……けど、先に行ってて欲しい」

音になっていなくても、ホップの顔を見れば何を言いたいかはすぐにわかった。「どうして?」

「もう一回、ちゃんとジムチャレンジをやりたいんだ」
「ほんとうか! うん、応援するぞ!」
「ありがとう。じゃあ約束しよう!」

指を絡ませて、くっつくぐらい顔を寄せ合う。理由もわからない手の熱は、ホップも同じだと信じたい。
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