もの言わぬ口など
「ねぇ、これから、どうする?」

言葉を持たぬポケモンであるメタグロスが答えるはずは無かったが、問わずにはいられなかった。

「もうみんな、いなくなっちゃったよ」

しんと静まり帰った部屋の中、ひとつ残ったボールを握り締めた。無機質な瞳がじっと私を見つめる。
ねぇ、ともう一度声を掛けた。

「私といるのは、そんなに不幸だった?」

プラズマ団は人とポケモンが一緒にいるべきではないと言った。

「私は、みんなを不幸にしてしまっていたの?」

本当は、思ったことがある。自由だったポケモンを縛りつけて、戦わせて、怪我をさせてしまうことだってあった。だからといって、私からポケモンを奪ってしまうのか。私たちは確かに幸せだったはずだ。
メタグロスが鈍い音をたてて歩く。私の前まできたメタグロスは、何も言うことなく私を見つめ続けた。彼には何か伝えたいことがあるような気がした。

「どうした?あぁ、お腹、すいたの?」

メタグロスはまだ見つめることをやめない。
「じゃあ、眠い?ボールに戻る?」どうやらこれも違うようだ。
ちっともメタグロスの気持ちをあてられない。私はメタグロスのことを何もわかってあげられないじゃないか。

「ごめんね」

私にはみんなを縛りつける資格なんて無かった。




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私の主人は、昔から少々ネガティヴで後ろ向きな性格だった。私は一番の古株で、ダンバルの頃からずっと一緒に育ってきたのだ。小さな女子には避けられる硬い体を持つ私に、主人は優しく触れてくれた。ともに仲間を見つけ、ともにここまで成長してきた。
しかし、冒険で少しずつ明るくなった性格も、また元通りになってしまった。いや、元通りにしてしまった。
格下であるプラズマ団ごときに勝負で負けるはずがなかった。当然だ。ジムを全て制覇し、今からポケモンリーグへ向かうところだったのだから。しかし、プラズマ団は圧倒的な数で我々に挑んできた。いくら倒しても溢れてくる敵に回復も追いつかず、ついには負けてしまった。
モンスターボールに戻った私たちに、主人は必死に手を伸ばしたが、醜く笑うプラズマ団たちに奪い取られてしまった。結局残ったのは私だけ。主人は私を守るために、卑劣な暴力にも耐えた。袖から見える痣が痛々しく、また、それを治せない自分がどうにも情けなかった。硬い体では、触れることもできないまま。
先の不幸かという問い。私は確固たる意志を持って、幸せだったと言える。私にはそれを伝える手段はないけれど。
主人に近寄ると、眉を少し下げて主人は私に問いかけた。
いいえ、空腹ではありません。
眠くもありません。
ただ、あなたが心配でどうしようもないのです。

「ごめんね」

あなたにそんな顔をさせるなんて。私は自分の不甲斐なさをひたすら悔いた。
最期まであなたのそばに。私にはそれしかできない。
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