青い葉のような愛でした
ポケモンの研究をしたいと言いアローラ地方へ飛んだカルトが一年の勉強を終え、とうとう今日帰ってくる。手紙は送り合っていたが、やはり顔が見れないのは悲しかった。
この一年でカルトに話したいことが山ほどできた。自分を退けたジムチャレンジャーのこと、大きく変わったガラルのこと、君がいなくて寂しかったということ。
カルトは昼過ぎに帰ってきた。待ちくたびれたが、会えるだけでこんなにも嬉しい。カルトはアーマーガアに揺られて少し顔色が悪かったが、いつものくしゃりとした笑顔だった。オレに手を振ってくれたカルトに抱きつく。相変わらず細い体が少しよろけた。

「久しぶりだな! 少し痩せたか?」
「そう? ダンデは相変わらずかっこいいね」

褒められることにも慣れたけれど、オレにとってはカルトの言葉こそが最高の賞賛だった。喜びに笑みを隠せないオレに、カルトも微笑み返す。

「アローラのポケモンはどうだった?」
「すごかったよ、姿かたちも違うし、ここにはいないポケモンもたくさんいたしね」

そう言いながら前髪を整えたカルトの右手の薬指には、

「カルト……それ、」
「あ、これ?向こうでできた恋人から貰ったんだ」

銀色の指輪が嵌っていた。右手の薬指、向こうでできた恋人、弾き出される答えはあまりにも。
カルトの照れた笑顔に心臓が冷えた。次にどくどくと早鐘を打ち出す。

カルトはなんでもないことのように違う話題に移っていた。「キミは……オレを……」オレは心臓に置いてけぼりにされた頭で話そうとして、結局上手く紡げなかった。

「あぁ、いいんだ。脈が無いのはわかってたからさ。ごめんな、気遣わせちゃって」
忘れてくれよと薬指を撫でるカルトに、目の前が真っ白になった。



ずっと前、オレがチャンピオンに成ってすぐの時、カルトがオレに好きだと告白してきたことがあった。今になって思えばオレはその時からカルトが好きだったのだが、その時のオレは幼く、ポケモンバトルが一等楽しくて恋なんてこれっぽっちも知らなかった。それに、友達じゃなくなることでこの楽しい時間が終わるのが嫌で、何も返せなかった。カルトは「また今度でも、聞かせて」と言ってすぐにオレに背を向けてしまったから、きっと断られたと思ったんだろう。実際、そのつもりだった。
そのあとも、別に恋人にならなくたっていいと思っていた。カルトとレストランに行ったり、ワイルドエリアに探検に行ったり、告白される前と何も変わらなかったから。
でもカルトがポケモンの研究をしたいと言いガラルを出て初めて恋人になりたいと思った。もしも恋人だったらカルトを引き止めることが許されただろうから。たとえ離れても今より近くあれたはずだ。その指の銀の代わりにダンデと刻まれた指輪を嵌めたかった。

脈がないと判断されたのはいつだ。オレの心臓はこんなにも動いているのに。バトルの高揚とは違う嫌な高鳴りに手が悴むように震えていた。まだ返事をしていないじゃないか、と言おうとして、自分にその資格がないことに気づいた。何年もカルトに甘えて、その思いを見ない振りしていたのだから。恋人は男か女か、その想像すらオレを苦しめる。オレのカルトを、なんて詰ることもできない。不甲斐なさに握りしめた拳がギチリと嫌な音を立てた。
不自然にならないように喋らないと、もつれる舌でなんとか返事を返す。

「いっぱい勉強したからソニアちゃんに置いていかれずに済むよ。ダンデやキバナの知識もすごいからちょっと気後れしてたんだ」
「……カルトは、がんばりやだから、オレは、追い越されたかもな」
「流石にチャンピオンには…あ、元チャンピオンか。聞いたよ、まさかダンデが負けるなんてな」

カルトにダンデと呼ばれるのがこんなに辛いなんて、知っていたらあんな選択はしなかった。もっとちゃんと大切にして、オレだけの恋人に、オレだけのカルトに。バトルじゃこんなミスなんかしないのに。
泣けもしない、ただただ情けない顔をしたオレをカルトが心配そうに見つめる。ああ、そんな優しい声でオレの名前を呼ばないでくれ。
カルトの手の中で、誰かの名が刻まれた銀環が目に痛いほど輝いている。おめでとうとは最後まで言えなかった。
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