First
Anniversary



ハウトゥー幸せな情死


さらさらの金糸。知性を感じさせる碧色の目。科学を超越したサイコパワー。何より連れているのがヤドラン!何もかもが完璧だった。
独自の生態系を持ち、全体的にレベルが高いポケモン達が多く見られるヨロイじまは研究を生業にするおれにとって最高の環境だった。さらに、好みど真ん中の男とも出会った。しかもその男は今回のおれのメインの研究対象であるガラルヤドンの進化形をつれていた。ああ、なんて最高な偶然!
その男はセイボリーという名で、エスパータイプを得意とするトレーナーだ。ガラル特有の色をしたヤドランと戦う姿に見蕩れているところ、気づかれてしまいそこからアタックを始めた。だがおれの性分のせいか、はたまた彼の防御力が高すぎるせいか、ちっとも上手くいかない。
研究者にあるあるだが、大概は人付き合いが上手くない。目立ってるオーキド博士とか、ああいう子どもにポケモンを渡すような人は珍しいのだ。しかしお忘れなきよう。おれたちみたいな地味な奴らだって立派に社会に貢献している。
話が逸れたけど、とにかくおれは人間関係がどうにも難しく思えてしまう人種だ。化学式みたいに答えはひとつじゃないし、ひとによって正解のアプローチが違うなんてどうしてこんなことになっているんだ。それでもなんとかお近付きになりたくてあれこれ試してみたけど、結果は惨敗だった。

『セイボリーさん、今日も素敵ですね。ヤドランもよく育っている。そういえばヤドランがどくタイプになった理由はほとんど解明されていないんですが、おれの見解では脳内である成分が……』

『この花、セイボリーさんに似合うと思ったんです。良かったらもらってください。実はこの花はキレイハナが育てたもので、香りや花の色が特にいいんですよ。しかもこの色は自然界に存在してなくて……』

手紙花褒め言葉贈り物。修行中ということで外界に閉鎖的にならざるを得ない彼に合わせて、できる限り色んなことをやった。返ってきた反応といえば、独特な言い回しの悪口やらドン引きした顔やら、とにかくいいものはひとつもない。初めの頃は褒められて嬉しそうにしていたから、そうしたら好いてもらえると思ったんだけど予想が外れてしまったようだ。会話は続かないし、ずっとムッツリした顔を見るのが申し訳なくて最近逃げるようにビーチでヤドンを観察している。時々近くで彼を見るけど、これ以上嫌われるなんて嫌だから何も言えないし。
ヨロイじまに来るにあたってたくさん協力してくれたミツバさんにアドバイスを求めたら快く了承してくれたけど、無駄にしてしまったのが申し訳ない。



「喋りすぎるのがいけないんじゃないの」
「それは……つまり?」
「褒めるだけにしとけばいいのに、いらないことまでどんどん喋るでしょ」
「でも、新しい情報をくれるやつって印象は大事だと思わない?」
「その印象、恋人に必要なの?」
「……ちがうかも。なーんもわからん」

タイピングしながら、それでもちゃんと話を聞いてくれるハイドくんは本当にできた子だと思う。ダメもとで話してみたけど、ちゃんと真面目に答えてくれてよかった。素晴らしい若き才能はぜひうちの研究所に欲しいけど、まだ道具づくりが楽しいようだし、何よりおれの問題がちっとも片付かないので勧誘は後回しにする。

「ぼくは話したことないけど、セイボリーさんってそんなにステキなの?」
「そりゃあもう。美人だし気位が高くて、ポケモンのセンスもいい……なんか、無理な気がしてきたな」
「諦めるの?」
「だって嫌われてるしなあ、うーん」
「どうしたっていいけど、お礼のWはたくさん用意してね」
「それは任せて」
「あと、こういうことはダディ達にきいてよ」

それは本当に申し訳ないと思う。ごめんね。
でも自分の中でこれからどうすべきかちょっとまとまった気がする。諦めるか、やり方を変えるか。まずこの二点を考えよう。
ひとまず、暫くはWを集めるために駆けずり回ることになりそうだ。


「どうも」
「あっ、セイボリーさんこんにちは。今日もいいお天気ですね」

おれの考えが固まったぐらいに、彼とばったり出会した。一瞬で早鐘を打ち出すおれの心臓に引き換え、彼はすごく怒った顔をして、おれをじっと睨んでいる。話さなくてもこんな顔をさせるおれがセイボリーさんに振り向いてもらうなんて、やっぱり無理だったんだ。
そう、おれは昨日セイボリーさんを諦めることに決めた。せっかく決めたのだから、早いところ好きな気持ちもゼロにしたいのに、こんなタイミングで会ってしまうなんて運が悪い。会えて嬉しいのに、どうしてこんなことを思わなければならないんだ。全部おれの対人能力が欠けてるからです。

「最近は、研究が捗っているようで」
「あっはい。おかげさまで」
「道場に顔を出せないくらい?」
「そうですね、まぁ、はい」

最近は専らWを集めるばかりだったがなんとなく言わないでおいた。 仕事を放り出している奴だなんて思われたくはない。セイボリーさんの声は冷めていて、いつでもおれを刺せるほどだったから、地雷を踏まないようにしたかった。

「だから、ワタクシに会いに来なかったんですね?」

急に毛色の変わった質問に、ボロを出さないよう泳がせていた目でついセイボリーさんを見つめてしまった。おれは余程アホ面をしていたのか、セイボリーさんがムッとした顔でおれを追撃する。

「なんです? 質問に答えなさいな!」
「はい! そう……です」

その口振りはまるで会いに来るのを待っているようで、おれは目を瞬かせる。あんなに厳しい顔してたのに、今だって決して嬉しいなんて思えない顔だ。

「なら良いのです。……今後はこのようなことが、ないように」
「……あー、それはちょっと、無理かも、です……」

言いにくいことだったが、ここで言わなければタイミングを失うと思ってなんとか絞り出した。こんなことを言うのは自意識過剰かと思われるかもしれないけど、もう彼に迷惑をかけないと、諦めると表明しなければ。
目線だけでセイボリーさんが続きを促す。

「ああ、えっと、なんていうか、諦めた?」
「は……? どういうことです、説明しなさい!」
「いや、別に理由は……普通に、無理だなって思ったので……」

研究者にとってはあるまじきことではあるが、諦めるのは得意だ。どうしても歯が立たないものは、仲間たちに任せるか、未来で誰かが取り組んでくれると途中で放り出すことにしていた。自分の力量はわかっているし、この性格はおれのいいところだと思っていたから、セイボリーさんのことも今までと同じようにした。ちょうど、研究所が忙しくなったとかでお呼びがかかってしまったから早いところ研究を切り上げなければいけないし、タイミングとしては悪くない。この島に来て、彼と会って、もう半年になる。
感情気味なおれに対し、セイボリーさんの声は冷静だった。

「言い逃げというわけですか?」
「……何のことですか?」
「あなたがワタクシに言った全てです。ワタクシが好きだと、言ったことです」

おれは呆気に取られてしまう。ヨロイ島の美しい景色は何も変わらないし、天候も素晴らしいのにここだけが冷え込んだ冬を通り越して低温火傷しそうだ。やばい空気を感じ取っておれのコマタナが逃げ出してしまったからいよいよ孤立だ。

「許しませんよ……なんとか言ったらどうです……!」

糾弾しているのはセイボリーさんのほうなのに、きれいな青い目は潤んでいた。必死すぎるその形相に、耐えきれず笑ってしまった。諦めたおれと、諦めさせないセイボリーさん。凸凹すぎるけど、逆に相性がいいんじゃないのだろうか。
おれはひとつ息を吸った。楽天的な勝算を今から試すのだ。

「んん、じゃあ、どうしましょうか」
「ワタクシに言わせるつもりです?」

ナンセンスだ、と憤慨するセイボリーさんは美しいのにおもしろくて、やっぱり諦めたくないと思ってしまった。

「撤回してもいいですか? セイボリーさんとお付き合い、したいです」
「……いいでしょう。私をもう一度失望させたら、ヤドンでも顔を歪めるようなお仕置をしてあげますから」

彼の帽子の周りを漂うボールがピタリと動きを止めた。かなり情熱的らしい彼がおれの手を取った。熱いその手はおれを逃がさないと暗に言われているようで、ちょっぴりゾクゾクした。これは本当に、相性がいいということに違いない。理論も何もないけど、きっとおれたちは幸せである。







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