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※Word Palette 『光輝く、名前、銀』と同じ



一世一代の告白をした。相手は幼馴染みで一番長い付き合いの男だ。平凡といえば平凡なんだろうが、オレさまにとっては一番輝いている男。粗野に見えてどこまでも気が使える男。オレさまが誰よりもセトが好きだと胸を張って言える自信がある。
金を掛けて身だしなみを整えて、ナックルシティで一番の高級レストランに連れて行った。やっとの事で口に出せたがタイミングが悪くてセトは美味い料理を口に詰め込んでいたところだった。オレも緊張して、声が震えていた気もするが、セトは一瞬目を丸くしただけで特にこれといった驚きは見せなかった。

「チャンピオンになったら付き合ってやるよ」

ガーリック味のクラブを咀嚼しながらなんでもないように言ってのけたセトが本当にオレを好きか、その時はよくわからなかった。オレさまの実力がチャンピオンに届くものだと思われているなら最高の返事だし、そんなものは無理だと思われているなら史上最大の断り文句だ。後者なら立ち直れないかもしれない。一応肯定されていると自分を落ち着かせてなんとかコース料理を食べきった。味がしなかったが、偏食気味なセトが喜ぶ姿は嬉しかった。
セトはその後オレと揃いのピアスを開けた。見慣れた小さな球体が微かな応援のように感じられて、胸がぐっと詰まった。絶対にチャンピオンになるから、と宣言してまた練習に明け暮れる日々を送った。セトは変わらず友達だった。

正直、セトはオレが好きだと思う。オレのSNSにいつも反応してくれているし、体が触れても嫌がらない。二人きりで会うことも月に二回は絶対にある。
しかしセトはオレからの好意は絶対に受け取らない。好きとか一緒にいたいとか、何を言ったって本気じゃない適当な笑い方で躱されてしまう。一度返事を強請ったら、困った顔をするセトのスマホをいじっていないほうの手がピアスを撫でるものだから引くほかなかった。指先が雄弁に約束は守れと語っていたからだ。
それでもどうにか意識して欲しくて、セトに指輪を買った。セトの趣味に合うように選んではみたが、あからさまな銀色だ。軽く投げ渡したが本気さは伝えたかった。もしもオレがチャンピオンになる前にほかの誰かを選んだら、オレはセトに何をしてしまうかわからない。セトは料理をひとくち分けられたときと同じテンションで礼を言った。
セトは翌日指輪にチェーンを通してつけていた。指につけないのか、とがっかりはしたが以前仕事終わりに飲んだ時、シャツにひっそりと浮き出ていたから大切にしてくれていることはわかっている。でもそれを見る度にオレの心臓はぐつりと痛む。
シャツの下で燻るそれが、本当の場所で光輝くことができないのはオレのせいだから。
ダンデはチャンピオンであり続けてもう10年経つ。それなのにオレはまだダンデに勝てない。昔よりも確かに前に進んでいるはずなのに、目標はいつまでも程遠い。



広々とした部屋のソファにべたりとくっついて、セトに話しかける。社交的に見せて意外とパーソナルスペースの広いセトがこんなに心を許してくれているのに、オレが勝てないせいでオレとセトの関係の名前はいつまでも友人だ。ここ最近、どうも疲れが溜まっていて思考がネガティブに傾いてしまう。
ふと思いついた言葉は本心ではないが、ちょうどその真横にあるぐらいの言葉だ。茶化して言うつもりだったのに、意味も声も重くなってしまった。

「オレさまがさ、もうバトルやめるって言ったらどうする?」
「詳しくどうぞ」
「……キバナさま、もう挑み続けて10年経つんだぜ。普通なら、とっくに諦めるべきだろ」
「お前自分を普通と思ってたん?」

セトは初めてスマホからオレへ目を動かした。呆れた、という目はオレのことなんて何もわかってないように思えて少しムッとしてしまう。

「その諦めの悪さはガラルで一番でしょ。誇れよ」
「でもほら、見てよこの厳しいコメント」

普段なら簡単にスワイプできる、今は果物ナイフなみに胸に刺さる言葉たちをずいとセトの目の前に出した。一通り眺めたあと、セトはあっけらかんと言った。

「こんなんどうでもいいと思わん?」
「おいおい、キバナさまだって傷つくんだぜ」
「おれとの約束のほうが大事でしょ。もう一歩なんだからさ、お願いだから頑張ってよ」

もう引き下がれないんだよ、おれだって。
初めて見たセトの瞳は縋っているような懇願するような色をしていた。

「でももしも、一生チャンピオンになれなかったらオレは……オマエに顔向けできないよ」

期待してくれるセトに、あまりにも情けないセリフだ。わかってる、わかってるんだ。オレはどうせ諦められないし、セトのこともずっと好きでいるんだ。

「しょうもな」

からからとセトが笑う。それでいい。これはただの空想だから。セトは知らないのだから。
つん、とセトがオレの額を突く。いつの間にかセトから顔を背けていたらしい。セトがこっち向いてと言うから正座で向き直れば、セトは優しい顔でオレを見つめていた。

「なんのつもりで言ってんのか知らんけどさ。おれはお前が何しても嫌いにはならんよ。おれがどれだけ待ってるか、知ってんでしょ」
「…………知ってる!」
「え? まってなんで泣きそうなん」

堪らずセトを抱き締めた。そうだ、セトがオレのことをわかってない訳がなかった。どこまでも気が使える最高に優しい男は目を丸くしながら、けれど抵抗もせずされるがままになっていた。ありがとうの代わりにきつく力を入れる。
オレさまの腕の中は、オマエに与えてもらったものでいっぱいなんだ。あぁ、オマエを好きでよかった。