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玄関前に置いた鏡で髪を確認する。ひと房の乱れもない。眠気を抑えてなんとかやり遂げた昨日のスキンケアのおかげで肌の調子もいい。コーディネートもばっちり。今日はアウトドアで遊ぶ予定だからラフな格好だけど、手抜きに見えないようにきっちり考えてある。
エントランスを出て、待ち合わせ場所のポケモンセンターへ歩く。

「ごめん、遅かった」
「謝ってもらってごめんけど10分前だぜ。キバナくんえらーい」
「じゃあオマエはいつ来たんだよ」
「……30分前ぐらい?」

なんでもないように言って「早く行こ」とオレを急かす名前は本当にこのことを何とも思っていないんだろう。こういうところなんだよなぁ、を飲み込んで後ろを歩く。サングラスで光を削られてなお輝くピアスが見えてじんわり胸が暖かくなる。あのレストランから季節が流れて何度目かの夏だが、セトは相変わらずセトのままだし、もはや気まずさは無い。振り返ったセトを昇りきらない陽が照らす。オレの視界で、セトはいつでもキラキラしている。

「置いてくよー」
「今行く!」

でもこのまま終わるなんて絶対にさせない。バトルも勿論だけど、いつだって完璧なオレを見せたいと思っている。



セトと出かける場所は街かここ、ワイルドエリアだ。セトの唯一の手持ちであるジャランゴは種的にも闘争本能が強く、定期的に戦わせなければストレスが溜まってしまうためバトルをさせる必要があるのだ。しかしセトにジャランゴ以外の手持ちを増やす気はなく、バトルも観戦しかしない。ワイルドエリアに行くには危険だということでいつもオレがついていっている。わざわざレベルの高いポケモンばかりのワイルドエリアでなくてもいいということはお互い口に出さずとも承知の上だが、せっかくのお出かけのチャンスを自ら潰すようなことをオレは絶対にしない。
戦い終わり疲れた様子のジャランゴの顎の下を撫でながらセトが優しい声を出しキズぐすりを吹きかける。ジャランゴが羨ましくてしょうがないが、口に出したら負けた気がするから言わない。

「よしよし、痛かったね」
「結構鱗が剥がれてきたな……レベルもそれなりに上がったんじゃないか?」
「えー進化したら今の家じゃ狭くなるな。まあカッコイイからいっか」
「オレさまの隣に住めば? そうしたら広いし移動もしやすいよ」
「家賃て知ってる? さすがにタワマンはきつい」

それぐらいオレが全部出していいし、なんならオレのところに来てくれたら最高なのにな。家に帰ったらセトがいる、この想像をした回数は両手でも足りない。特にリーグ終わりで死ぬほど疲れて帰った時なんかは夢にまで見た。変に義理堅いセトはヒモになるなんて絶対にしないから無理だけど。

「よし、ゆっくりおやすみ」

隅々までチェックし終わったセトがジャランゴをボールに引っ込めた。今日のデートを終わりにするかどうか、今からのオレの行動にかかってる。

「今日はさ、」
「もう帰るか。ありがとねわざわざ」
「……いやー全然いいぜ、オレも楽しかったし」
「んで次はキバナの番だから。好きな時に言ってよ」

義理堅い面まで追加されて、今日は完敗という他ない。この悔しさを言葉にしたって、セトは白い目が向けるだけだろうから今日は次のデートでセトをどこに連れ回すか思案に耽ることしかできなかった。