犬も吐き捨てるレベル


舌打ち、貧乏揺り、ペンのヘッドを机に叩きつける音。部屋で一番位の高い中也がイライラしているせいで、中の人間は戦々恐々としている。一人を除いて。

「はぁ〜〜〜さすが中也くん今日も顔がいい〜〜〜〜神の創造物じゃん……」

鬱蒼とした雰囲気に一切臆さず、観葉植物の後ろから世迷言を垂れ流しているのは別部隊に所属する亮だ。目を隠すボサボサの前髪と頭にシワのよったシャツはかなりだらしなく見えた。その癖左手に持っているビデオカメラは最高の画質で動画を撮れるという触れ込みの高級品で、微動だにすることなく中也に向けられている。明らかにストーカーだ。ポートマフィア内に侵入者か、と慌てる新人に対して古株たちは自然な様子である。但し、そのストーカーがこの空気の原因であることも理解しているため、時々亮に対して避難の目が浴びせられるが当の亮は何処吹く風だ。
中也は痺れを切らして亮に声をかける。かなり怒気を孕んだその声に部下の一人が悲鳴を漏らしたが、亮は嬉しそうな声を発した。

「おい、手前いつまでそこにいるつもりだ」
「えっっっ中也くんから認知されてる……今日は命日か……それでもいい……」

またひとつ舌打ちが響く。

「莫迦。さっさと出てこい」
「いやでも中也くんの横に並ぶなんて……!」
「いいから来い!」
「はい!ごめんなさい!」

べキリ。重力をかけるまでもなく、高級なペンは中也の握力で砕けた。
亮は中也を怒らせてしまったと眉を下げて悲しそうな顔をしているが、それすら中也の怒りに油を注ぐだけだった。観葉植物の前で誤魔化すようにビデオカメラの突起を弄る亮の目前に、中也が立ちはだかる。青筋が立ったその顔に、一瞬亮のカメラを持った手がピクリと動いたが流石に自重したようだ。

「手前はよぉ、いつになったら俺の云うことが理解出来るようになんだ?」
「だって仕事中の中也くんだよ? 普段見れないから今のうちにカメラで撮っとこうと思って」
「意味の判んねぇ事云ってんじゃねえぞ。お前のせいで部下共が集中出来ねえだろうが」

よくぞ云ってくれた。部下達の心は団結したが、亮はまだ諦めきれないといった様子で言葉を返す。

「だって、一緒に居られることなんて殆どないじゃないか……少しぐらい許してくれても」

うじうじと言い訳を述べ続ける亮に、とうとう中也の堪忍袋の緒が切れた。

「それは手前が恥ずかしいだのなんだのいつまでも云ってるからだろうが!! 何の為に恋人になったと思ってやがる莫迦野郎!!!」

部下達の口がポカンと開いて塞がらなくなってしまった。恋人?誰が?亮が?このストーカーが??
対して亮の顔は真っ赤に染ってしまって、はくはくと口が動いてようやく音を為した。

「だっ駄目でしょ中也くん! おれなんかと恋人なんて、バレたら中也くんの評価に傷が……!」
「だーもううるせえな! 俺がいいっつってんだから早く慣れろ!」
「あああ中也くんがめちゃくちゃカッコイイやばい死ぬ」

顔を覆って蹲る亮を見る中也の顔は先程の怒りが少し鎮まっていて、なんだか愛おしいものを見る顔をしていた。
一番付き合いの長い側近に「少し出る」とだけ云って、中也は亮の襟元を掴んで部屋を出た。その寸前見えた亮の顔は存外綺麗で、その顔が嬉しそうに笑んでいた。二人少なくなった部屋は巻き込まれた部下達のため息で埋め尽くされた。 なんだただの痴話喧嘩か、と。





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