お互い様 連絡の途絶えたメッセージ画面を見て溜息を吐く。つい最近店に来た顔も体型も申し分ない良い女と寝所まで持ち込んで、これからもそれなりに付き合おうと思ったのに又取られた。犯人はおれの目の前でテキーラ・サンライズを嘗める蓬髪の男だ。『熱烈な恋』だと? 「いい加減にしてくれ。もうやめろと散々言っただろ」 「なんのことだい? 私は普段と変わらないことしかしていないけれど」 「お前が手を出した女のことだよ、よくもまあそんな白々しいことが云えたものだな」 「……あぁ、彼女のことね」 初めから気づいていたくせに、漸く思い当たったという振りをするものだからおれは舌打ちを隠せなかった。 太宰とは此奴がポートマフィアに居た頃からの知り合いだ。行きつけは他所にあると云い乍ら、月に一度かそれより少ないくらいの頻度でおれのやっているバーに一人で来ていた。餓鬼に酒は出さないというおれに、不服そうな顔をし乍らもオレンジジュースを啜りおれから彼是訊きたがるその姿は可愛いものだったが、歳をとればとるほど此奴の女好きは加速し遂にはおれが関係を持った女にも手を出すようになった。 初めはおれだってひとりの女に執着する質でもないし、別に好きにすればいいと放っていたが流石にこうも重なれば苛立ちも出てくる。飄々とした態度が裏社会で生き抜く少年の可愛げに見えない年になったのだから、おれもこう云い返しているが、ポートマフィアの最少年幹部を務めた太宰の舌鋒は見事なもので結局おれは諦めて別の女に手を出すしかなかった。そして今日も太宰の舌は佳く回っている。 「でもそれって私のせいじゃないだろう? 彼女が私を選んだだけのことだ」 「だからおれはお前の恋路を邪魔したいわけじゃない、相手を選べと云っているんだ。何度もな」 「世界に同じ人間は二人も居ないんだもの。亮さんだってそれが判るから私に怒るんでしょう」 だから仕方がないとでも云えというのか。普段ならば他に客もいるし太宰の相手をするなんて時間の無駄だとさっさと強い酒でも出して追い払うが、今日はもう閉店済みでおれにも酒が入っている。引き下がってたまるか。 極めて優しい声を出し、ついでに中途半端に余っていた葡萄酒を太宰のグラスに注ぐ。太宰はにっこり笑ってそれを受け取った。 「おれはお前に謝って欲しいだけなんだよ」 「どうして? 私がいつ悪いことをしたんだい。女癖の悪さなら貴方だって負けていないじゃない……」 「太宰、判るな?」 話を遮り太宰を睨めつければ、太宰は目をほんの少し丸くした後肩を竦めた。芝居がかった態度でつらつらと並べるが、何もかもおれには関係の無いことだった。 「そもそも、ここまで私を通わせておいて私のことをちっとも理解しない貴方にも問題はあると思うが」 「それについて謝罪が欲しいなら好きにすればいいが、今日家に帰りたいなら大人しくおれの言い分を呑め」 「貴方と夜を明かすことも悪くはないけれど、仕方ないね」 太宰はチェアから立ち上がりカウンターに肘をついていたおれの手を取った。上目遣いでちっとも悪びれていない表情だ。 「御免なさい、亮さん。許しておくれ」 「……まァ、良いだろう。二度とするなよ」 「それは貴方次第だな」 本当に悪びれていないらしい太宰はグラスの残りを煽り、おれにコートを催促した。まだ腹の虫が治まりきらず投げ渡すおれにやれやれと首を振り、ドアの前で足を止めた。 「どうして私がこんなことをするのか、確り考えてくださいよ」 「お前がもう少し素直になったらな」 「ええ、どうやら私も回りくどすぎたようだ。次迄に考えておきます」 鼻を鳴らして軽く手を振れば太宰は眉を下げて笑い今度こそバーを出ていった。 太宰がいなくなった店内でグラスを拭き乍ら太宰の最後の台詞について考える。確り考えろとは、よく云うようになったものだ。おれだってお前がもっと素直なら、こんな無様な姿は晒していないというのに。 Top |