ヒソカに一発入れたい♡ 3年振りのルーキーハンターの肩書きと、金が稼げるかはまた別の話である。 ハンターカードでできることの幅広さに惹かれた気でいたが、自分の力を試したいだけだったと気づいたときにはすっかりやる気がなくなっていた。雇い主を探すのも、秘境に出向くのもめんどくさい。生活には金がかかる。選んだのは天空闘技場での賞金稼ぎだった。 50階までは相手にもならない。100階までは楽勝。200階までは、まあ、たまに骨のあるやつもいたが、秒殺。 潤っていく財布に、また闘争心が顔を出す。意外といけるのかも。自分がここまで上ってくるまで、200階以上の参加者の戦いは見られなかったから、未知数ではあるが、言うほどでもないだろう。 200階に足を踏み入れた瞬間、変わった空気に、それ以上足が出なかった。澱んでいるような、突き刺すような痛みすらあるその空気――殺気というべきか。初めて味わった濃度だった ハンター試験とその前の生き方から学んだ。こういうときの対処法は、自分の気配を消すことだ。もう逃げたと思わせれば、嵐だっていつかは過ぎ去るものだから。この階で生き残れるか、まだわからないわけだし。みすみすワンフロア占有の機会を逃すのは惜しい。この殺気の主がどこかへ行ったらこっそり受付をしよう。無になって、自分が炉端の石ころであるような気持ちで――― 「それじゃダメだよ♥」 耳元に吹き込まれた声に、つい心臓が止まった。やっと目だけを動かしてみたのは、尖った鼻先、ピエロのメイク、にやついた顔。この男、ハンター試験を失格になった、 「ヒソカ……」 ヒソカは笑顔のまま、おれに助言をした。 「ここで気配を消したって、あいつはどうせここに来るよ♠逃げるなら、今だ♧」 「い、いや、ここまで来て、逃げる気は」 「死にたいんだね♥」 おれはカチンときて、まとわりついてくる重苦しい空気をかき分けて、ヒソカの胸に拳を叩きつけた。これがハンター試験を生き延びた拳だよ馬鹿が。お前のほうが圧倒的に強いかもしれないが、おれだってもうハンターだ。 「うるさいな! おれは行くんだよ、ここで止まってたまるか!」 「フフ……♧」 ヒソカは笑みを浮かべたまま引き下がった。なんのためにおれに忠告をしたのか、奴の行動原理が全く分からないが、大口を叩いた責任は取らなければならない。 ゆっくりと足を進めるが、殺気の主との距離は一向に縮まらない。なんとかたどり着いた頃には汗だくで、一発でも殴られたら倒れてしまいそうだった。 殺気の出どころには大男がいた。髭が生えていて、毛むくじゃらで、道着を着ていなければクマとでも間違えそうな大男だった。 「フン、これでも来るか」 「お前かよ、喧嘩なら買ってやる」 「いいだろう。だが、お前にはまだ早い」 汗まみれのおれを上から下までじろじろ眺めた後、大男はもう一度「いいだろう」と呟いて力を緩めた。周りの空気が軽くなって、まるで月にいるかのような心地になる。明らかな格上だ。だが、なんだ、おれは認められたのか? 「あのピエロ男、ハンター試験を失格になった者だな?」 大男からはヒソカのことが見えていないはずなのに、なぜかその情報を言い当てた。驚いて何も言えないおれに、憐れんだような目で大男は続ける。 「目をつけられたか。あの男は相当に面倒だぞ。俺はハンター試験を見ていないから、何とも言えないが、少なくともこのフロアで最も強いのは奴だ」 黙ってヒソカのいる方向を見るおれに、大男は言う。「今日は午後からヒソカの対戦日だ」 「さっさと登録をしろ。ヒソカとやり合いたいなら、まず修行だ」 ワックスが流された柔らかい髪を撫でる。意外と猫毛で指通りがいいから、調子に乗って何度も梳いているがヒソカは静かなままだ。おれの“絶”はそれほどまで練り上げられたのか、いやそんなはずはない。じゃあどうして? 「気を抜いたね♠」 瞬時に地面を蹴り距離を取るが、ヒソカはベッドの上から動かなかった。思考に集中して片膝を立ててこちらを見る顔はいつもと違う無表情で、戸惑っているようにも見える。 殺気が来ないから、武器に手を掛けることもできない。おれは殺しに来たわけじゃないからだ。 「何をしに来たかと思ったら、何、僕と寝たいの♧」 「いや、まさか。ただ単に……試合前に修行の成果を試したいと思っただけだよ」 「ふぅん……♥ なかなかやるね♦」 自分の育てた人間が育ったことに喜んでいるのか、ヒソカはいつの間にか笑みを浮かべていた。「だが二度はないよ♧」しっかりと釘を刺して、ヒソカはベッドに再び横になっておれに背を向けた。許されたとは思えないが、いますぐ戦う気もないらしい。 「あの……あの時発破かけてくれてありがとう。今度、お礼にご飯でも」 返事は返ってこない。背を向けないようにして部屋を出る。自室に戻るまで気を抜くことはできなかった。 いやあ、なんだか、慣れないことしちゃったな。あれからヒソカと話すことはなかった。邪念を消すのに修行はちょうどいいし、今後ヒソカと戦うことがあるのかわからないけれど、強くなるに越したことはない。ヒソカはあれから天空闘技場には来ないし、まるで違う場所にいてもう格下ばかりの天空闘技場には飽きてしまったのかもしれない。 せっかく念を習得しても、見せる相手が何もわかってないような観客ではつまらない。フロアマスターにたどり着ければいいが、それにはまだ勝てないだろうし。 大男、改め師匠は 「」 「」 「ヒソカだろう。行ってこい」 「……もし危なくなったら、おれのこと、助けてくれますか?」 「」 Top |