枕元にも立ったのにさ
ガタガタ椅子を動かせばキバナの肩が跳ねた。そろりと青い目がこちらを向いたがおれを捉えることはなく、またスマホに戻された。
「もう、本当になんなんだろうな……」
画面の上をすいすい動くその指を捕まえようとしても、簡単にすり抜けてしまう。理由は簡単だ。おれはもう死んでいる。
死んだのはただの事故で、即死だったようで死ぬ前に恋人であるキバナの顔を見ることは叶わなかった。おれは古くから伝わる迷信のように死後はゴーストタイプになるものだと思っていたが、デスマスになることもゴースになることもなかった。図鑑に載っていたあの情報は嘘だとソニアちゃんに教えてあげたいのに、誰にどれだけ呼びかけても何の反応も返ってこない。
ソファに寝転ぶキバナの美しい輪郭を撫でれば透けたおれの指がキバナの中に埋まってしまった。最愛の恋人に触れることもできないなんて、こんな姿でここにいる意味はどこにあるのだろうか。つらくてしょうがないからいっそ天国にでも連れて行って欲しい。
「まーた仕事詰めてたんでしょ。無理するのやめてって言ったのに、おれとの約束忘れたのか」
幽霊になってから気づいて欲しくてたくさん邪魔したのにちっとも取り合ってもらえなかった。手持ち無沙汰にテーブルの上に置いてあった傷まみれの指輪を弄っているとうっかり下に落としてしまった。
拾おうか迷っているとキバナが飛んできて爪が強く床に当たるのも気にせず指輪を拾い上げた。
指輪を握りしめてこちらをキツく睨むキバナはやっぱりおれを見ていない。
「ゴーストか? 悪いけど、次にこれに手を出したらネズを連れてくるぞ」
結構ひどい勢いで突っ込んだのに、ちゃんと残ってたか。拾ってくれるのはいいけど、捨てたほうがいいと思うよ。捨ててくれたら、多分おれも成仏できるからさ。
キバナがぎゅっと握りしめていた拳を開く。傷があっても、それは銀色に光り輝いていた。キバナはそれをじっと眺めて、そしてため息をついた。
「……あーあ、なまえが会いに来てくれたらいいのに」
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