あっためて


日が暮れるのがもう随分早くなって、厳しい風が襖の間を吹き抜けている。もう冬も近いようだ。
庭に面した廊下を歩いて半兵衛様の部屋に向かう。後で火鉢も持っていこう。

「半兵衛様。秀吉様から書を預かっております」
「ありがとう。北条の件かな」

久しぶりに見た働く姿に感動しながら持たされた書を手渡す。いつ見ても綺麗な顔だ。女性と言っても納得できてしまうくらいの長い睫毛と通った鼻筋と綺麗な黒檀の目が小さな顔にのせられている。
豊臣、というか織田には美人が多い。男も女も関わりなく、なんなら侍女だって器量がいいのがたくさんいるのだ。それなのに壷なんかに金をかける理由がさっぱり分からない。美しいものがこんなに身近にあるのに。
考え事をしていたら渡す瞬間、指先が触れた。それは冷めきっていて死人のような冷たさだった。ふと、夜中に咳き込んでいたことを思い出して、衝動のまま手を握った。やはり冷たい。ぱさりと上等な紙が床に落ちた。

「……どうしたの?」
「いえ、手が、半兵衛様の手が冷たくて」
「あぁ、これ? 俺手だけ冷えるんだよねぇ。風邪じゃないよ」
「そ、そうでしたか……失礼な真似を致しました」

今更、お仕えする方にとても失礼なことをしてしまったと思い頭を下げる。「気にしないで」肩に置かれた手からは、やっぱり熱は伝わってこない。

「なまえの手は温かいんだね」
「湯か何かお持ちします。冷えていては眠れないでしょう」
「んー……いや、いいかな」

「左様でございますか……」言い終わらないうちに半兵衛様がおれの手を取った。

「なまえが俺の手、あっためてくれれば解決でしょ?」
「う、いや、しかし私如きがお手を取るなぞ……!」
「今日の仕事おーわり! はい、手貸して」

そろりと手を出せば優しく握られて一気に顔が熱を持つ。

「温かいね」

美しく笑うその顔に、どれぐらいを期待してもいいのだろうか。


Top