安寧
簡易シャワールームを出て宿舎へ向かう。戦場から帰ってきたばかりのドクターはまた戦場に駆り出された。記憶も戻らないドクターに宿舎にまで気を配らせたくはないので、自分ができる範囲で綺麗に見えるように掃除をしているのだが、最近それをオーキッドに褒められて嬉しかったので今からまた掃除に行くのだ。
ドアを開ければ乱雑に置かれたダンボールに座ってじっと紙を見つめるショウがいた。
「お疲れさま、ショウ」
「お疲れ様ですもうお休みになられますか」
仕事終わりなのにキリッとした顔で、 ちゃんとヘルメットまで被っている彼女の隣に腰を下ろす。ちょっとダンボールが凹んだが気にしない。
「休む前に掃除でもしようかなと思ってたところ。ショウは……それは地図?」
「はいオペレーターの皆さんの安全のために確認をしています」
「なるほどねぇ……」
淀みない早口で繰り出されるのはたしかな気遣いで、ちょっとよれたロドス基地マップはショウの優しさを表していた。
ロドスにいる女子は大体そんなもんだが、シュウは特に年齢が分からない。レディに聞くことではないし、私たちに年齢など些細なことなのだから別にいいのだが。若くても、みんな一生懸命感染者のために働いているし。私のやるべきことはすべて受け入れることだ。
子どもとほとんど変わらない小さな手を取って、その手にできたタコを揉む。あんな威力のホースや斧を握ってたらこうなってしまうだろう。
「どうしたのですか?」
「いつもありがとうね、ショウ」
きょとりとした丸い目に、優しく笑いかける。消防隊として頑張っているのだから、見た目ほど幼くないのだろうけど、子どものような手が固くなっているのは痛々しい。
「いえ小官はやるべきことをやっているだけですなまえさんにも小官はいつも助けられています」
「ありがとう。一緒にお茶でも飲もうか」
「小官も手伝います」
ぴょんとダンボールから飛び降りたショウと手を繋ぐ。明日の平和のためには、まず今日の平和である。
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