仲良しの一歩目


コンコンと宿舎の扉をノックしたが返事が返ってこなかったため、宿舎扉を開けて中に目当ての人物がいないか見渡しながら尋ねる。

「12F、いるー?」
「私はここですよドクター殿」

「何かあったのですか?」と後ろから問うてくるのは低くて穏やかな声。振り返れば金のようなオレンジのような瞳がおれを見ていた。

「暇なら相手して欲しいなと思ってさ。でももう休むところだった?」
「いえ、少し休憩しようと思っていただけですから。お供させてください」
「じゃあ執務室行こうよ、コーヒー淹れるわ」
「それは嬉しいです。ドクター殿の珈琲は美味しいですから」

まったく嬉しいことを言ってくれる。今日は特にお気に入りの豆を挽いちゃおうかな。
執務室についてソファを勧めれば、12Fは緊張した様子で腰を下ろした。12Fにはずっと秘書を務めてもらっているし、そろそろ慣れてもらいたいところなのだが、どうしてもこの自己肯定感の低さは治らない。それは決して悪いだけではないのだけど、それで12Fが生きづらくなるのはよくない。
コーヒーを渡して名前を呼べば、少し笑った。硬い皮膚でできたその表情はわかりにくいけれど。

「ねぇ、おれのこと名前で呼んで。なまえって」
「……どうしてですか?」
「もっと仲良くなりたいじゃんか。ほら、早く」

彼の硬い皮膚がじわりと赤く染まる。おれとは違う種族だが、同じ色の血が通っているのだ。例え力が弱くても何も引け目を感じる必要は無いのに。弱いっていったっておれより強いし。
12Fがぷるぷる震えながら小さく口を開けては閉じてを繰り返す。そんなに緊張するとは思っていなくて申し訳なくなる。ようやく絞り出されたのはほんの小さな声だった。

「……なまえ、殿」
「…………及第点! ありがとう12F」
「も、もうやめてください……恥ずかしいです」

いつも大人な12Fがここまで真っ赤になっているのはちょっと面白い。次はちゃんと名前で呼んでもらおう。


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