枯れることも許されない


尾張の織田に嫁ぐ姫様を見送る人手が城門に集まっているのを見ながら、化粧をする姫様に話しかける。姫様は変わらず美しいのに、今日はこんなに憂鬱だ。

「ねぇ、姫様、人があんなに集まっていますよ」
「そうなの」
「みーんな、姫様をお祝いしています」
「そうね」

薬指に乗せた紅を唇の上に滑らせながら、姫様はてきとうに返事をする。姫様はこの結婚に良いとも悪いとも言わなかったけれど、織田についていい噂は聞かないし、きっと嫌だろう。信長はうつけだなんて言われているし、今川を破ったのだってまぐれに違いない。
姫様に仕えていることは私の誇りだ。お前はお濃の方にお仕えするのよと母上に言われて、仕事ができるようになって、やっと姫様の側につくことができた。小娘、と言われることもあるけれど私は姫様に仕えているのだからちっとも悔しくない。いっとう美しくて、戦場にも立つ姫様が私を認めてくれるのだから怖いことなど何も無いのだ。
だというのに。

「姫様、信長とやらはとんだうつけものと聞いております」
「詰まらないよりはいいわ」
「きっと作法も立ち振る舞いも知らぬ野蛮なおとこですよ」
「そのほうが、戦場でも楽しませてくれるはずよ」

私の悪口は、姫様の妖艶という言葉を体現するその笑みに封じ込まれた。と言っても、会ったこともない男への悪口はもう尽きそうだったが。この紫の似合う姫様は、もうすぐ真白になって、そうして織田の家紋を背負うのだ。なんて忌々しい。

「姫様、私、わたしも、連れて行ってください。私、よく働きますから、きっと邪魔はしませんから」
「ふふ、いいえ、貴女は残りなさい」

どうしてそんな意地悪なことを仰るのですか。私はこんなにもお慕いしているのに。涙を堪えるのに必死で何も言葉は出てこない。するりと白魚の手が私の頬を撫ぜる。涙がひとつ落ちた。

「かわいい私のなまえ。ずっとそのままでいなさい」

残酷で美しい人は、もうすぐ誰かのものになる。


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