軽い男の末路


恋とは楽しいものである。ただの性欲だ、とか軽いだとかよく言われるけれど、神がわざわざ感情というものを作ったのだから、抑える理由なんてどこにもないだろう。惚れっぽくて、飽きやすい。恋愛体質とはおれを表すのにぴったりである。
偶に刺されそうになる事もあるのだが、裏社会で生きていくうちに身を守る術は身について、次第に強そうな人間にも恋するようになった。龍之介を好きになったのはそれが理由だ。圧倒的な強さで倒れた敵の中、独り立つ姿が美しかったから。自白すれば、そんな人間を自分のものにしたいという欲もあったと思う。でも真摯に愛していて、そして終わった。ほんとうに本気だった。遊びじゃなかった。ただ恋が終わっただけで。
だからそれを収めてください。そう絞り出した喉には真っ黒な刃が突きつけられている。

「話は終わりか?」

光を映さない真っ黒な目に惹かれて手を出したのは、あのポートマフィアの遊撃隊隊長だった。それはおれにとって恋を盛り上げる要素の一つだったが、今となってはこの状況を作り出した原因だ。彼の異能力の前に、身についた力は何の意味も持たず、床に押し付けられた無様な格好でおれは許しを乞うしかできなかった。

「お前は、僕を、愛していると云ったな?」
「云いました、云ったけど、」
「異論は求めていない」

影を体現した黒がゆらりと動いて首を撫でるように浅く切った。ごく浅い傷だが、ピリピリした痛みが強く主張してくる。

「僕に都合のいい言葉だけ吐いていれば良かったものを」

おれの血を舐め取り、痛みと苦しさから浮かんだ涙を嘲笑して、龍之介が云った。

「お前の言葉を借りるとそうだな……」

龍之介はケホ、と乾咳をひとつ落として異能を引かせた。やっと気道が解放されて必死で息を吸うおれの上に馬乗りになり、荒々しくキスをして、初めて見せる笑顔で云った。

「僕の恋はまだ終わっていない」

あぁ、とんでもない男に手を出してしまった。


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