あなたに縋られたいので


ピッ、ピッ、と高い音が等間隔で聴こえる。もう聴き慣れた音だ。もう、苛立つことも怒ることもない。そんな気力は何処かへ行ってしまった。偶に様子を見に来てくれていた同僚達も今となっては来ない。死んだのか、飽きられたのか。どちらにせよ悲しいことだ。何処にも行くことのできない管に繋がれた体が忌々しい。
そしてこの病室に入ってから覚えた足音がして、扉が開いた。入ってきたのは森医師で、初めは全く見慣れなかった草臥れた白衣もすっかり馴染んでいる。「調子はどうだい?」と優しく聞かれたが、普通、としか言えなかった。もう良いも悪いも判別が付かない。ずっと頭が痛くて、ずっと此処にいないような気持ちがする。こんな患者、見ても詰まらないだろうな。特に森医師は。
よいしょ、と身体を起こせば森医師はおれの患者衣の前を寛げて触診をする。手が冷たいなぁ。
結局おれの病名は教えられていない。判ることは体が重いぐらいだし、見当も付かない。

「森医師、ごめんね」
「何がだい?」
「おれは幼女じゃないから、診てもつまんないでしょ」

診察紙から顔を上げて、森医師は呆れ返った、という表情になった。でも、このご時世に見返り無しに人助けが出来る人間がどれだけいるというのだろうか。おれには金も無いし、森医師との関係だって、ギリギリ知り合いといった具合だし。

「なまえ君は私を何だと思っているのかな」
「だって、おれに良くしてくれる理由が無いじゃない? 」
「私は医者だよ。利益じゃない」
「そっかぁ、森医師は善い人なんだね」

森医師「勿論」とにっこり笑って、注射を取り出した。二日前に打たれたところがまだ一寸痒いし痛いから嫌だけど、森医師が云うから耐えないといけない。そうすればきっと良くなるはずだ。

「良くなったら働きに出て、森医師にお礼をするね」
「ゆっくり治せばいいよ」

と云って森医師はもう一本注射を打った。急に眠くなってくる。あ、まだありがとうって云ってないや、


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