別れなんてなければいいのに


病室の中、なまえがぽつりと言った。あまりに悲しそうな声色だった。

「羨ましい」

何を返しても彼女の悲愴感を増幅させてしまいそうだったが、痛い沈黙と比較して、私は静けさを破ることを取った。

「何が?」
「ガヴィルが。強くて、アーツも上手く扱えて治療も出来て」
「……なまえだって出来るだろ」
「無理だよ」

無理だ、ともう一度なまえは繰り返した。アタシも簡単に否定することは出来なかった。
なまえの血液中の源石密度は異常に高く、鉱石病は最早治療の出来ないレベルまで進行している。体表にはおぞましい黒があちこちにある。まるで夜が彼女を蝕むようだった。ドクターも記憶を失って、もう望みがないのは明らかだ。医者でありながら治療できない自分が恥ずかしい。
これ以上彼女を不安にさせないように極めて明るい声を出す。

「そんなわけないだろ? ドクターも帰ってきたんだ。確かに不治の病だが、これからきっと……」
「ケルシー先生に言われたの。覚悟しておけって」
「…………そうか」

なまえが終わりを知っているならば、アタシに言えることはもうない。口を閉じてその黒髪を撫でた。今まで見た中でいちばん綺麗な黒髪だ。アタシとお揃いにすると伸ばした髪を揺らしてなまえがアタシを見上げる。

「だからね、ガヴィルはちゃんと生きてね」

それは完全なる別れの言葉だった。涙を浮かべて、それでも泣かないように眉間に力が入っている。

「……そんなこと、言わないでくれ……」

アタシはその手を取り、情けなく縋りついた。すぐにでも消えてしまいそうで、力強く掴んだ。源石になってしまったら、アタシはなまえを置いていくしかなくなる。アタシも、感染者なのだ。ロドスに居続けるには、これ以上感染を進めてはいけない。なまえの眼窩から涙がひとつ落ちた。

「ガヴィルは大丈夫だよ。もっと生きてね」
「わかった、わかったから今だけは言わないで……」

静まり返った病室に、なまえのすすり泣く声が響いた。


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