ばかみたいに愛だね
拳を顔面に食らって地面に倒れ込んだおれを彼は逃がすことなく、おれは更に腹に蹴りを喰らった。防御も間に合わず、痛みに体を丸めるとそれも許さぬと云うように胸ぐらを掴まれた。その端正な顔がとても近いところにある。唾吐いてやりてぇな、クソ。年下でも優秀ならば尊敬するべきだと思っていたが、これは理不尽過ぎる。
「……おれが何をしたって云うんです。幹部様にだって真面目に働いてる組員を殴る権利はないでしょうよ」
「ええ、それはもちろん」
敵から攻撃を受けていた上に殴られ蹴られては、おれも流石に身の危険を感じてきた。何とかして逃れたい、が然し最少年幹部相手に何が出来るだろうか。そう考えていた矢先、太宰はおれに馬乗りになってくる。藻掻いたが手も足も出ない。頭もクラクラして、もはや怒り以外の感情がなくなってきた。如何しておれがこんな目に合わなきゃならねぇんだ畜生。
「如何してこんなことをするのか、という顔をしていますね」
「……良くお判りで。で、なんでだって云うんです?」
ここまでやっておいて、大した事ない理由だったらぶち殺してやる。例え出来なくても、だ。大宰はゆっくりと口角を上げて、甘ったるい声で云った。
「貴方がそうやって這いつくばっているのを見ると、迚も嬉しいんです」
「は、ははッ! 何処までいっても、お前はマフィアだなァ、感服しちまうぜクソ野郎」
余りにも自己の為、人の事なんて欠片も考えていない外道の答えが面白くて、敬語も何もかも忘れて笑ってしまった。あぁクソ、いつまでも上に乗りやがって、邪魔だな。大宰は心外だ、という顔をして、おれの首に手を掛けた。
「……勘違いしないでくださいね。僕は心から貴方を愛しているんです」
「どうだかな。そんな目しておいて、信用できるかよ」
此奴は尊敬に値するが、その目だけはいつも気に入らなかった。希望を持つことを諦めている癖に、何かをずっと求めているんだ。おれの言葉の意味をどれだけ判ったのか、大宰が嬉しそうに笑った。
「だから僕は貴方が好きだ」
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