素直になれない愚か者


気づいたら真っ白な部屋に居た。入口はなく、部屋の中心にスピーカーがひとつあるだけだ。中也が異能を使って壁を殴っても傷一つつかない不思議な部屋だ。おれは唯一の家具であるスピーカーを弄り回していたが、音もならなきゃ動かせもしない。

「チッ……何なんだこの部屋は」
「なんかの異能攻撃だろうが……おっ貼り紙だ」

スピーカーの裏、雑にセロハンで貼ってある紙を剥がして見る。中也も覗き込むが、二人とも内容がよく掴めなかった。

「『指を絡めて踊らないと出られない部屋』って、この部屋のことか?」
「八十分以内か…………今何分か判らんが、出られないのは拙いな」

それにしても、男二人で踊るだなんて如何してこんなにサムい条件にしたんだ。中也は背が低いとは云え、華やかだし踊るのも似合うだろうが、おれには無縁のものだ。仕方ないから踊るけど。

「はい、中也、手」
「……なんで手前なんかと」

刺々しい言葉だが、顔は決して嫌そうではない。此奴は根っからのマフィアだが、表情は中々に豊かだ。手を取れずにいる中也を急かすように、スピーカーから音楽が流れ出した。何処かで聞いたことがあるようなワルツだ。

「ほら、早く」
「……そんだけ云うなら、ちゃんとエスコートしろよ」

中也の手を取り、それっぽくステップを踏む。二人とも戦闘ばっかりやってきたから、リズムは合っていないし直ぐに転けそうになる。でもおれ達はいつの間にか楽しんでいた。踊るので精一杯だったおれ達もいつしか余裕が出てきて、中也の指におれの指を絡める。手袋越しなのが残念だが、これはおれ以上に中也が思っていることだろう。色が白いから隠そうにも直ぐに赤くなっちまって。

「おれ達、恋人みたいじゃない?」
「莫迦云ってると殴るぞ」
「怖ァい」

そんなこと云うなら手を離せばいいのに、指は強く絡められたままだ。いつこの部屋から出られるか知らないが、それまでになんとかおれを意識してもらいたいものだ。


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