約束は遠い日に
今日は天気が良くて暑すぎず、昼寝には最高の条件が揃っていたので、半兵衛はいつも隠れて眠っている木の上に横になり目を閉じた。誰もまだ半兵衛が眠っていることに気づいていないらしく、風の音しかしない。やっと眠れると思ったところで、がさりと枝が揺れた。気配も何もなかった為、半兵衛が慌てて飛び起きると、揺らした張本人が枝に捕まってにんまり笑っていた。
「おーい、半兵衛ちゃん」
「……なんだ、君か。また来たの?」
「暇なんだよう、相手をしておくれ」
「俺は眠いんだって……」
もう一度横になった半兵衛の髪を弄りながら面白くなさそうにしている男は、それでも楽しそうだった。
明らかに人の届く高さではないところに突如現れた男と半兵衛が出会ったのはひと月前だ。初めて男を見た時、半兵衛は自分の目を疑った。男に足がなかったからだ。上等な着物を纏った健康的な体は薄く透けていて、幽霊とはこんなに綺麗なものなのかと思いながら眺めると、幽霊はにこりと笑った。すぐに消えた幽霊は、その日からよく半兵衛に付き纏っては半兵衛の眠りを邪魔しに来るようになった。
幽霊の色素の薄い目が見透かしているように肋を撫でた。触られている感覚はない。
「半兵衛ちゃん、また無理をしたねぇ」
「……やっぱり、もう生きられないかな」
「まだ大丈夫だよ。だが、その調子だと不味いね」
半兵衛はふぅと息をついて、幽霊の手に自らの手を重ねようとしたが、すり抜けてしまい触ることはできなかった。
「俺が死んだらどうする?」
「そうだね、一緒に海にでも行きたいかな」
「……気楽だね、幽霊は」
「あぁそうさ。だから怖がらなくてもいいよ。世は意外と上手く回るもんさ」
幽霊がくるりと指で円を描くと、柔く風が吹き始めた。丁度眠りやすい風に半兵衛が瞼を下ろすと嬉しそうに幽霊が空気を震わせた。
「……絶対一緒だよ」
「はいはい。ゆっくりおいで」
頭を撫でられた気がしたが、気のせいだろうと半兵衛は眠りに落ちた。
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