追いかけることもできない足が


朝目が覚めて、これが虫の報せというものなのだろうか、嫌な予感がして城の隅の小さな部屋に駆けた。予感は的中し、そこには誰もいなかった。

「なまえ、」

ここにいるはずのなまえがいない。言葉の続きは出てこず、なまえからの返事もない。最近は秀吉様にも気に入られていたからそれをよく思わない奴から殺されたという考え方もできるが、俺はそうは思わなかった。帰ったのだ、あいつは。俺に何も言わずに。
敷きっぱなしの布団には寝た跡もないし、当然熱もなかった。部屋の隅にあったはずの未来から持ってきたという道具もどこにもない。

「未来は平和ですよ。少なくとも、日本で戦争は起きてないから」

遠いところを見て言ったお前の目には、きっと幸せな未来が映っていたのだろう。そして、そこに俺はいなかった。それだけの事だ。それも流れだ、と言おうとして言えなかった。運命は残酷だ。知っているのに。
気づけば俺の手はなまえの名残を探し出そうと躍起になっていて、やっと見つけられたのは抽斗の中に仕舞われていた紙だった。四つ折りにされたそれを開いて見れば、下手な字で綴られた文の先に名前が書いてあった。

『これを読むということは、おれは未来に帰ったのだと思います。吉継さんと出会えて幸せでした。優しいし、美人だし、たくさんのことを教えてくれて、おれを好きだと言ってくれました。そんな吉継さんが大好きです。病気も戦も大変だけど、吉継さんにはずっと生きて欲しいです。怪我はしないでください。三成さんとかにもよろしくお伝えください。本当に好きでした』

初めに好きと言ったのは、お前なのにな。この文の返事は、どこに出せばいいと言うのだ。
手紙を懐に仕舞い、何事も無かったかのような顔を作る。なまえが幸せなら、それでいい。
落ちて潰れた男の死体があると騒ぎがあったのを知ったのは朝餉の後だった。騒ぎの場所へは行かなかった。俺は信じている、お前はあるべきところに帰ったのだと。


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