建前と利害の関係


震える携帯を手に取れば、暫く会っていないお得意様からの電話だった。部下ではなく本人から掛けられたということはおそらく私用だろう。ちらと時計に目をやれば休憩時間にはまだ早い時刻だった。丁度仕事がいい所だったのだが、まぁいい。後回しにすると後々面倒だ。

「もしもしフィッツジェラルド様、どうなさったんです?」
「息災か親友。あと三時間後に日本に着くから準備をしておけ」
「何の話ですか???」
「なに、暫く楽しませてもらおうと思ってな」
「あー……了解です。ごゆっくりいらしてください」

なんなんだこの人。言い終わらないぐらいで切られた携帯に悪態をついて、少しでも彼の機嫌を取れるように準備を始める。先ずはおれの行きつけの日本料理屋に夕食の予約だ。こういう時社長という立場は便利だ。いつも贔屓にしてもらっているからと三ヶ月先まで埋まっている予約の中に入れて貰えた。他に彼のお気に召すような物は、と考えているところで、また電話が掛かってきた。

「やぁ」

なんだか、声が重なって聴こえている気がする。電波は常に最高レベルの筈なのに、何か不具合でもあるの───

「うわぁ」
「大層な挨拶だな?」
「滅相もございません。ようこそ我社へ」

後ろを振り返ると、世界中の政治家セレブモデルが愛用する最高級ブランドのスーツ一式に身を包んだフィッツジェラルド様がいた。必死に笑顔を作りお辞儀をしつつ頭はフル回転で次の行動を模索している。ああ、億万長者か知らんが勝手な行動しおってからに……!

「……失礼ですが、三時間後では?」
「予定を変更した。君がそんな顔をするとは、やはり急いだ価値があったな」
「お気に召したなら何よりでございます」

拙い。まだ何の準備も出来ていないぞ。どうする。どうする?

「申し訳ないのですが、まだ準備の途中でして。良ければうちのオフィスを見て行かれませんか?」
「いいな。君のセンスには興味があるんだ」

楽しそうな声色に、一先ず安心して下のオフィスへ案内する。何とか機嫌を取らねば。この人とはこれからも仲良くしなければならないのだから。


Top