脆弱な記憶を縛り付ける
またふとした瞬間に戦闘や治療が間に合わずに死んだ仲間のことを思い出した。別に思い出すことは悪いことではない。忘れてしまっては、最期まで頑張っていた仲間へ失礼だし、彼らがいるからこそ前に進める。
問題はすぐ感傷に浸ってしまうおれの弱さだ。アーミヤに助けてもらってから、何人も失った。じゃあ、思い出せない部分では、何人がロドスのために、おれのために命を落としたのだろうか。思い出したら、今度こそおれは立ち直れなくなる気がしてしまう。
「おれは……おれは、何人の仲間のことを忘れちゃったんだろう」
見えない手に弄ばれていたお菓子の包装紙がぴたりと止まった。食べていいよと言えば、またそろそろと新しいお菓子が浮かんだ。
イーサンも、きっと何人の死を見てきたんだろうな。強いからおれみたいになることもないんだろうな。そう思いながらイーサンが居るであろう場所を見つめていたら、ぼんやりと人の形が現れて、その後お菓子を頬張るイーサンがハッキリと浮かび上がった。そしてなんでもないようにイーサンは言う。
「俺さえ忘れなかったらいいぜ、ドクター」
ニヒルな笑みを浮かべたイーサンの口許にはクッキーの欠片がついている。
「それは大丈夫だと思うよ。きみの髪色はなかなか忘れられない」
イーサンの頭に手を伸ばせば、イーサンの方から頭を近づけてくれた。やっぱり硬い髪だが、今では艶もあり、青色が反射して綺麗だ。今では青といえばイーサンの色になった。海とも空ともつかぬ色は唯一で美しい。
ふと、先程のイーサンの科白が喉元にひっかかる。何とも思わず返事をしたけれど、その言葉の意味は、ひょっとして。
「イーサン、おれは絶対にきみのことを忘れないぞ」
「わかってるさ」
けろりとした顔で返したイーサンに、もしかしたら不安にさせてしまったかもしれないと言った言葉が少し恥ずかしくなってしまう。ゆっくりとイーサンの手が仮面を外す。動けないまま、初めて何も通さずに見たその顔は、
「忘れさせてたまるか」
きみって、結構独占欲が強いんだな。そう返すのがやっとだった。
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