どっちもどっち
「もう二度と、なりたいものになれないんだよ」
ぼくは自分が"選ばれた人間"だとは思わない。 自分の手の中に何もないと理解したくなくて、委員長に選ばれたのだと信じたくて自分がやってきたことが正しくないことはわかったし、ポプラさんに師事できたことは幸運だと思う。
だからこそ、なまえさんの痛みに何も言えなかった。
初めは「あなたにぼくの痛みのひとつだってわかるものか」と叫んでやりたかった。でも、さんの目にある羨望と後悔の塊を見れば全て喉の奥にひっこんでしまって何も言えなくなった。
なまえさんは優秀な人だ。アラベスクタウンのスクールでは首席で、週末は必ず他の街へ出てバトルの練習をしているらしい。ジムで行われる試合を見学する姿を何度か見たこともある。焦げ茶色の髪を纏める淡いピンクの飾りも、きっとポプラさんを意識してのことだろう。もっと濃くて目立つ色にすれば、ぼくのときみたいにポプラさんの目に留まることもあるだろうに、どうしてしないのだろう。憧れているだけでピンクは好きではないのか、そこまではぼくにはわからない。
「いい、なぁ」
涙に溶けたその声に、救われて欲しいだなんて身勝手な思いが湧き上がる。ぼくはもう救われた。では、なまえさんは?なまえさんは誰に救ってもらうのだろうか。なまえさんが望んだ手は、あの人のものだけだ。
「一緒に、アラベスクジムで戦いませんか」
今にも零れ落ちそうなぐらい涙が張った瞳がぼくを見た。
「きっとポプラさんも、喜びますから。あなたのことは、ぼくも認めています」
同情か憐憫だと捉えられてしまうかもしれない。実際そうなのかもしれない。でもこのままなまえさんが終わってしまうのはあんまりだ。努力家で、芯があって、強いひと。ぼくを羨むくせに、ぼくにないものをたくさん持っている。
「まだ、終わってないですから」
その薄ピンク色の唇が動くまで、ぼくは待ち続ける。
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