大好きだった。
大好きだから、守ってもらえたことが嬉しかった。
ただ一方的に守られ、一方的に愛する。
それが、私と彼の関係だった。
「守ってくださってありがとうございます、クイゼ様」
どんなの気持ちを込めた言葉も
「いえ。村民を守ることは、守護者たる私の役目ですので」
彼にとっては、多くの民の一人に過ぎない。
「良かったらどうぞ。感謝の印です」
形を持って好意を見せても
「かたじけない。いつもありがとうございます」
彼の手には、大勢の好意がいつもあった。
もう少しの勇気がいつも足りなくて、大勢の中に混じった癖に。大勢と同じ対応をされると、心の中で勝手に傷つく。時には己の身勝手さに嫌気がさしたりするけれど、それでも彼が大好きで。彼と目が合った時のあの高揚感が、この感情を未練がましく引きずり続けた。
あぁ、彼は今。どこで何をしているのだろう。
「―――! カコ、しっかりしろ!」
「…ク、イゼ……様……?」
「待ってろ! 今、助ける……!!」
彼らしくない、悲しみと焦りに満ちた声。ガラガラと何かが崩れるような音が耳まで届いた後、不意に冷たくなっていた私の右手を、温かくて大きなものが包み込んだ。
「あっ……た、かい……」
「カコっ……!」
嬉しかった。大好きなあの人に会えるなんて。彼に抱きしめられ、手を握られ、私の顔を泣きながら見てくれるんだなんて、こんな幸せ【もう二度とない】と私は思った。
「カコっ……すまない、遅れてすまない……!」
「……あ、りがとう……」
二度とない……だからこそ、今、言わないと
「クイゼ……さま」
「カコ……」
……大好き。
「……カコ? おい、カコ! しっかりしろ!!」
「………」
「おいっ! 待ってくれ、まだ……まだ私の返事を、」
「………」
「返事を……頼むっ……!」
貴方に守られ、貴方を愛し、貴方に最期を看取られて。私は最期の最期まで、とても幸せな人生でした。
※クイゼさんが守れなかった村の娘の話。
妖怪に襲われ、瓦礫に埋もれ、死ぬ間際でしか愛を伝えることが出来なかった彼女でしたが、その死に顔はとても安らかでした。という二次創作。